白い犬。梅佳代さんちの「あのこ」のこと。白い犬。梅佳代さんちの「あのこ」のこと。

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曇りガラスの向こうから、こっちを見てる。
雪にまみれて、雪と一体化してる。
みちばたでプリッとウ◯チをしている‥‥。
梅佳代さんの写真集に、
ときどき出てくるあの「白い犬」が
一冊の写真集になりました。
タイトルもズバリの『白い犬』です。
梅佳代さんにとっては、
一緒に暮らしたことのない実家の犬のこと。
最初は怖くて触れなかったけど、
いつしか友だちになっていた、白い犬のこと。
梅佳代さんが、いつものように、
ユーモアたっぷりに、話してくれました。
担当は「ほぼ日」奥野です。


第3回
友だちになった日。

──:
ラジオ体操のときに野良犬に追われて
怖かったという話が、
宇宙の果てまで飛んでったわけですけど。
梅:
ゴメンゴメン。
──:
犬が怖かった時期って、
いつくらいまで、続いたんですか?
梅:
もう、ずっと。30歳くらいまで。
──:
え、じゃあ、ナミりんが
志村けんのブログにコメントしてたころ、
カヨりんは、まだ犬を恐れていた。
梅:
あー。
──:
ようするに、リョウのことも、
つい最近まで怖かったってことですか。
梅:
うん。かわいいけど、ずっと、怖くて。
触れんくって木の枝で頭を撫でとった。
──:
かわいがりかたが複雑(笑)。
梅:
それで、『じいちゃんさま』の表紙を
見てもらいたいんですけど。
──:
はい、あの縁側で撮ってるやつ。

梅佳代『じいちゃんさま』(リトルモア刊)表紙

梅:
うん。あれ、全員ブスに写っとるけど、
端にリョウもいて、
わたしのほうに来ないように、
妹にリョウを抑えてもらってるんです。
──:
妹さんはリョウと仲良かったんですね。
梅:
あ、妹も最初は怖がってた。
──:
でも、妹さんが
リョウに馬乗りになっている写真とか、
ありませんでしたっけ?
梅:
ある。だから、友だちになったんやね。
いっしょに暮らすうちに。

梅佳代『うめめ』(リトルモア刊)より

──:
犬に馬乗り。マブダチ級ですよね。

でもそうか、妹さんは同居してたから、
だんだん平気になっていったんだ。
梅:
リョウのこどものころは
チビで本当にかわいかったみたいだし、
妹のころには、
近所に子どもも少なくなっとったから。

だから、ふたりは心の友よ。
弟も、リョウのことかわいがっとった。
──:
弟さんは、拾ってきた人ですもんね。
梅:
リョウはリョウでメスやから、
弟のことが、なんだか大好きみたいで、
弟は野球部だったんやけど、
夏とか、弟の汗ベロベロ舐めとったよ。
──:
それは、だいぶ好きですね(笑)。
梅:
しっぽブンブン振り回しながらね。

弟も、リョウがぜんぶ舐め終わるまで、
舐めさせとった。
──:
でも、30歳まで怖かったってことは
ほんの5~6年前じゃないですか。

平気になったきっかけって何ですか。
梅:
このままじゃいけないと思って、わたし。

かわいいはかわいいのにじかに触れんし、
どうしてこれが怖いんやろ、
いくら何でもひどいわたしって、思って。
──:
変わらなければ、と。
梅:
あるとき、わたしだけ家におって、
リョウを散歩してあげんとダメみたいな、
おしっこに行かんとかわいそうみたいな、
そういう感じになって。

がんばって首輪を外そうと思ったんけど、
それが怖くて、できなくて。
──:
木の枝で頭を撫でてた人ですからね。
梅:
しかもリョウは、
人間がこっちに近づいてくるってことは、
外に出れると思うから、
もう、玄関とこで「ハッ、ハッ!」って、
前足あげて、こんなんなっとって。
──:
梅佳代さんが、とりわけ苦手なやつ。
梅:
そう、それがいちばん怖いから、
「それが嫌ねんてば!」って言っとるのに、
ぜんぜん聞いてなくて、
ワーッとかやってきて「やめて!」つって。

棒の先とかで外そうとしたけどダメで、
自分にもリョウにも、
落ち着けー、落ち着けーって言ってて。
──:
犬も人間も、冷静になれと。
梅:
で、何、こういう長い肉みたいな‥‥。
──:
長い肉(笑)。犬のジャーキー的な?
梅:
そうそう、それ的なやつをポンと投げたら、
一瞬で食って、さらに興奮してしまって。

そこで、わたし、もう覚悟を決めて、
思いっきり息を吸って、
そーっと、そーっと、そーっと、
リョウを撫でるようなフリして一気に‥‥。
──:
‥‥ええ。
梅:
首輪をガチャリッと外したら、
リョウ、一瞬にして
「バーンっっ!」って外に飛び出してった。
──:
犬型ロケット。
梅:
そうそう、めっちゃターボで。

で、家の前の道に出ていくときの
曲がり角のところで、ターンと飛び跳ねて、
ボールが、
ちがう方向にポーンと弾んだみたいにして、
まるで空を飛んでるみたいだった。
──:
白い犬が。
梅:
それ見て「かわいい‥‥」って思ったの。
──:
お、おお(笑)。
梅:
「かわいい、わたしが外に出してあげたの」
みたいな気持ちになったの(笑)。
──:
それが、リョウと友だちになった日。
梅:
そう。
──:
がんばって、自分を変えたんですね。
犬は、変わらないですもんね。
梅:
うん、犬は、いつだって同じ。
──:
性格的には元気いいんですか、リョウは。
梅:
子犬時代はとくにテンション高かったよ。
──:
若いうちは、
それこそボールみたいに弾みますよね。
梅:
歳をとってからはおとなしくなったけど、
吠えるのは、吠える。

もう、一生ワンワン吠えてくるから、
友だちのお父さんなんか、
「あのクソ犬いっつも吠えとっさけ、
轢いてやろうか」とか言って(笑)。
──:
そんな、人んちの犬に向かって(笑)。
梅:
すごくない? 田舎のおじさんの会話って。
ビックリするよね、聞いてて。
──:
ああー、つい言っちゃうみたいな感じの。
悪気のなさそうなやつですよね。
梅:
たぶん、じいちゃんとおんなじで、
犬は犬でしかないみたいな、そんな感じね。

でも、今から思えば、犬が怖かったときは、
濡れてる鼻とか、
ベロとか、肉球とかも嫌だったな。わたし。
──:
チャームポイントじゃないですか。どれも。
梅:
何か生っぽくて苦手というか、
そこにも毛が生えててほしかったんや。

あ、こんなこと「ほぼ日」に出したら、
すごい性悪だと思われる。
どうしよう、ハンサムが見とったら。
どうしよう、ハンサムに誤解される。
──:
犬好きハンサム、いますよ。この時代。
梅:
でも、今は平気だから!
──:
誰に対する弁明ですか(笑)。
梅:
今はベロベロベローって舐められても、
わたし大丈夫大丈夫って
思いながら舐められとるんで、大丈夫。
──:
だいぶ成長しましたよね。

でも、怖くて近寄れなかった時代から、
写真は撮ってたんですもんね。
梅:
うん、撮ってた。
──:
それはどういう気持ちで撮ってるんですか。
梅:
なんか、クスクスって思いながら撮っとる。
──:
この写真とか、近所の散歩ですか?

梅佳代『白い犬』(新潮社刊)より

梅:
これたぶん、ふたりっきりでいるんだよ。

2013年だから、
もう友だちになっとるから、きっとそう。

<つづきます>

2017-01-24-TUE
取材協力:ダンデライオンチョコレート

写真集『白い犬』、発売中。
写真展「白い犬」も開催中。

梅佳代ファンならきっとご存知、
これまでの梅佳代さんの写真集のなかに
ちょくちょく登場する
梅家の愛犬・リョウが本になりました!

タイトルはズバリの『白い犬』です。
表紙からして、もう「いい!」です。
すでに全国書店等で絶賛発売中です。

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で、この本の発売を記念して、
現在、南青山の「TOBICHI②」では
写真展を開催しています。
会期は、2月5日(日)までです。
梅佳代さんの過去の著作をズラリならべる
特設ショップもオープンしてます。
ぜひぜひ、みんなで見に来てくださいね!

開催概要

梅佳代さん写真展@TOBICHI② 白い犬。

会期:
2017年1月20日(金)~2月5日(日)
時間:
11時~19時 ※会期中無休、1月22日(日)は17時クローズ
会場:
南青山 TOBICHI②
住所:
東京都港区南青山4­28­26
MAP:
https://www.1101.com/tobichi/access.html
入場料:
無料

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