前川 いまの歌がどうなっているのか、
歌う歌がどうなってしまったのか。

糸井さんがさっきおっしゃったことは、
もしかしたら、
お客さんと握手してなかった自分のように、
閉ざしてる部分があるのかもしれません。

糸井さんやいまの若い人たちが
昔の歌がいいと思ってくれるとしたら、
そういった接点とか
心の開き具合というところに
なにかがあるのかもしれませんね。
糸井 「開く」という言葉、
ぼくもいま、課題にしてるんですよ。
前川 はい。
糸井 お話を伺っていて
ぼくも似たところがあるなぁ、
と思ってたんです。

つまり、ぼくも
へぇーんだ、という人間なんですよ。
向こうが怖い顔してたら、
こっちもしてやるぞ、と思っちゃう。
前川 そうなんです。
糸井 石投げてきたら
こっちはもっと投げてやる。
前川 そうです。
一同 (笑)
糸井 人づきあいがいいわけでもないし、
好きなことをして機嫌よくいたい、
ただそれだけです。
前川 はい、そうです。
糸井 きっと、いまだったら
オタクになったタイプだと
思います。
前川 はいはい、はいはい。
糸井 それにしては、
大勢に会う仕事を
してきてしまいました。
前川 同じです。
糸井 それで、ぼくもあるところまで
あきらかに意地を張ってました。
だけど、自分の気分がいい方向に
閉じていったら、
あれもダメこれもダメ、
ということになっちゃって、
自分もおもしろくないし、
人もおもしろくない。
前川 そうしてると、おもしろくない部分、
多いですよね。
糸井 結局、ずっと閉じこもることになっちゃいます。

自分が書くものが
すばらしい感動をさせるかといえば
そういうものじゃないわけですし、
役に立つと言ったって、
それで役に立ったかどうかなんて、
よくわからない。
それは、歌以上にわからないわけです。
前川 ええ、はい。
糸井 だけど、待っててくれる人が
いることはわかります。
そういうとき、照れて
「そんなことないよ」
というのが本来の自分なんですが、
「ありがとう」を、スッと言うと、
次が変わるんですよ。
前川 そうそう。
糸井 そういうことを
できなかった自分も、
それはそれでいいんですが。
前川 「ありがとう」って、ほんとにね。
サンキューやシェイシェイは言えても、
「ありがとう」は、スッとは言えなかった。
糸井 そう。
その言葉は、ほんとすぎるし、
また、嘘で使ってる人もいるから。
前川 ああ、そうなんでしょうね。
糸井 誰かが嘘で言ってる「ありがとう」と
オレのは一緒にしたくない、という
生意気な心があったと思います。

そんなことに構ってて、
あいつは気に入らないとか、
あいつは仲間じゃないということを
くり返してたら、結局、
孤島で生きていくことになっちゃう。

考えてみるとね、
ぼくが好きな人って、
やっぱり、開いてる人だったんです。
開いてる人のほうが、
いいなぁと思うし、好きなんですよ。
前川 ああ、なるほど。
糸井 開くということは、
意識的にやんないと
できないことだとわかりました。
前川 自分がやんないとだめなんですよね。
相手が開いてくれるって、
非常に難しいことです。

なんとなくケンカした相手がいて、
「もう二度と話したくない」と
お互い思ってる状態で、
「こっちはあいさつもしないぞ」
と意地を張ってるときに、
むこうから
「こんにちは!」って言われると
やられたぁー! と思います。
糸井 そうですね(笑)。
前川 自分って、なんて小さい人間なんだろう、と。
一同 (笑)
前川 だから、ぼくは、
自分から頭を下げてみることにしています。
糸井 そうですねぇ。
きっと、閉じてない人のほうが
考えてるってことでしょうね。
前川 意外とそうでしょうね。
糸井 そういう感覚が、なんで若いときに
なかったのかなぁ。
まぁ、嘘で笑ったりすることは
やってましたけども、
でも、嫌でやってましたから。
前川 はい。
糸井 だんだんと、
そういうことがわかってきた。
そこで、前川さんが握手しながら
歌ってるのを見て、
ああ、やってるんだなぁと、
思っていました。
だって、
「嫌だったらしないな」
という人だったから。
前川 はい。
糸井 前川さんのことを、
特別に練習好きな人とは思わないけど、
それでもそこで鍛えたものがあると思います。
前川 練習は、しないんですけどね。
一同 (笑)

(つづきます)

2010-07-02-FRI