糸井 |
ダイアモンドさんはニューギニア島での
フィールドワークなど、
自分を受け入れてくれるかどうか
わからない人たちに、たくさん会われてますよね。
そのとき注意されていることって、ありますか?
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ダイアモンド |
そうですね、新しい場所に行くときには
まず、関わりのある人を通じて
相手に私を迎え入れる気があるかどうか
確認してもらいます。
それから、まず、土地の人と初めて会ったときには
「自分は何者で、なぜここにいるか」を
説明するようにしています。
「アメリカから来ました。鳥の研究者です」
といったことを伝えるんですね。
合わせて少しだけ、
鳥の鳴き声を真似るときもあります。
ポポポポポポ‥‥(真似をする)
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一同 |
わあぁー。(拍手)
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ダイアモンド |
そうすると相手の人たちにも、
私が鳥やニューギニアのことを
まったく知らないわけじゃないということが
理解してもらえますから。
ニューギニアの人たちも鳥が大好きだし、
非常に関心を持って見ているので、
共通の話題ができるんですね。
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糸井 |
言葉ではなく、
感覚の部分を共有するんですね。
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ダイアモンド |
そうですね、
やはりお互いに共有できる
「鳥が好きという感覚」が入り口になります。
あと、私がニューギニアが好きだということも、
見るとわかるのかなと思いますね。
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糸井 |
ええ、ええ。
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ダイアモンド |
それと私は新しい土地に入った最初の日から、
土地の人々に「どんな鳥がいるの?」とか
「あれは何と呼ぶの?」というのを、
どんどん、どんどん聞いてはメモするんですよ。
次の日にはもう、
土地の人々がそれぞれの鳥を何と呼ぶのか、
100~150個くらいメモしているわけです。
また実際に、森の中などを
話をしながら歩いていくことでも、
関係をつくっていきますね。
たとえば彼らは私に
「奥さんもらうのにいくら払った?」
「畑はどれだけ持ってる?」
「何種類のイモを植えてる?」
なんて聞いてきますし、
私は私で、彼らにいろんな質問をしますから。
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糸井 |
「伝える」ということについて
すこし違う話になりますけど、
ダイアモンドさんの本って学術的な内容でありながら、
普通の人にもしっかりと面白さが伝わるものに
なっていますよね。
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ダイアモンド |
そこがうまくいっているのだとしたら、
こういうことかもしれません。
絵や音楽、本などの「表現」というものは
全てコミュニケーションで
発する側だけじゃなく、受け手の側がいますよね。
だから私は「どう伝えるか」にもとても興味があって、
常に考えているんです。
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糸井 |
あ、なるほど。
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ダイアモンド |
また、私は大学で教えていますので、
学生たちの反応を見られるのも大きいです。
書きたいテーマを見つけたら、
私は授業で教えるようにするんです。
教えることで
「私が実はわかっていない部分」や
「どんな説明がわかりやすいのか」
「みんなが何を聞きたいか、聞きたくないか」
などがわかってくるので。
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糸井 |
それはよく、わかります。
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ダイアモンド |
実は私、もともと今回の本に
「伝統的社会における女性の役割」
という章を入れようと思っていたんですね。
でも実際に大学で教えてみたところ、
女子学生たちの反応が、非常に悪かったんです。
憤慨したり、ものすごくがっかりしたり、
信じたくない学生もたくさんいるようでした。
というのはやっぱりアメリカの価値観からすると、
伝統的社会での女性たちへの扱いというのは、
かなり、ひどいものですから。
それを見ているうちに、
「伝統的社会における女性の役割」というのは
学術的にとても大切なテーマだとは思うけれども、
「まあ、入れなくてもいいかな」
と思って外したりしました。
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糸井 |
そこは、あっさりと外してしまうんですね。
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ダイアモンド |
ええ、本は読者に向けて書いているものですから。
その章を入れることで、読者の半数から
それほどまでネガティブな反応を
されてしまうのなら、ね。
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糸井 |
教えていただきたいのですが、
ダイアモンドさんは非常に引いた目で、
物事を見ていらっしゃいますよね。
それは、どのようにして
偏りのないフラットな視点を
獲得してこられたのでしょうか。
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ダイアモンド |
そうですね‥‥あの、
その部分についてあえて言えば、
実は、私の視点というのは
フラットではないかもしれません。
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糸井 |
あ、そうですか。
‥‥と、いいますと?
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ダイアモンド |
まず、私の生まれはボストンで、
アメリカの北東部で28年過ごしました。
そこで育ったわけですから、
ボストンという土地からは拭いきれない
非常に強い影響を受けています。
たとえば、寒い地方の松林を見ると、
自動的に「ああ、綺麗だな」と
思ってしまうような刷り込みがあります。
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糸井 |
たしかに、生まれた土地の
「刷り込み」などは、拭えないですね。
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ダイアモンド |
ええ、そうしたことが私の視点に、
どうしても影響をしていると思うんです。
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糸井 |
はああー。
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ダイアモンド |
また私はその後、ヨーロッパに行きまして、
イギリスとドイツで4年半を過ごしました。
この、色合いが違う2つの国からも
それぞれ大きな影響を受けました。
それからアメリカ西海岸のカリフォルニアに移りました。
その頃からニューギニアに通うようになったのですが、
そこでもまた、非常に大きな影響を受けました。
ニューギニアというのは
本当にとても強い力のあるところで、
ニューギニアにいたあとで別の場所に行くと、
景色がぜんぶ白黒に見えるくらいの
感覚があるほどなんです。
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糸井 |
そうなんですか。
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ダイアモンド |
ええ、そしてその後、47年間、
私はカリフォルニアで暮らしてきました。
ただ、カリフォルニアの生活はちょっと
それまで他の地域で受けてきた印象と比べて
強い影響を自分に与えていないと思いますが‥‥。
‥‥そういうわけで、長くなりましたが
私は、私自身の視点については
「ボストンとニューギニアに
ドイツとイギリスが混じっていて、
あとはちょっとそこに
カリフォルニアがまぶされているかんじだな」
と、思うんです。
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糸井 |
はああー、そういうことですか。
偏りのない視点というものはなくて、
ダイアモンドさんはご自身の視点を
いろんな偏りの混ざったものとして
できるだけ正確に捉えようとされている、
ということなんですよね。
いや、面白いです。
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ダイアモンド |
あちこちの土地の影響を受けていることで
「引いた目を持ちやすい」という面はあると思いますが、
やはり、私は私なりに偏っていますよね。
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糸井 |
ええ、ええ。
その視点で言えば、
同じくぼくもそうでしょうし。 |
(つづきます。) |