糸井 |
こんにちは。はじめまして。糸井です。
来日でさまざまな取材を受けていらっしゃると
お聞きしているのですが、
ぼくは今日、きっと、
子供のような質問をしてしまうと思います。
ほかの取材のあいまの
休み時間のようになるかもしれません。 |
ダイアモンド |
それもいいですね。 |
糸井 |
ありがとうございます。
今日はよろしくお願いします。 |
ダイアモンド |
よろしくお願いします。 |
糸井 |
こんな話題からはじめさせてください。
ぼくは、ダイアモンドさんの本を読むたびに、
毎回ダイアモンドさんご自身の
テーマに対する強い好奇心を感じるんです。
そこから思うのが、
おそらくダイアモンドさんは
「好奇心」を一番の原動力にして
本をお書きなのではないかと。
なんだか「自分の心が動かないテーマ」には
まったく触れていない印象があるんです。 |
ダイアモンド | とてもいい質問から
はじめてくださったと思います。
はい、そのとおりです。
私は自分の興味や好奇心から
ひとつひとつの本を書いています。
興味のないテーマは、ひとつも扱っていません。
本を出すと多くの方々から
「どうしてこの本を書いたのですか?」とか
「なぜ今、このテーマなんですか?」
といったことを、かならず聞かれます。
ですが、私にとっては、
それぞれの本を書いている何よりの動機は
自分の中から出てきた興味や、好奇心なんです。
今回の本(『昨日までの世界』)を書いた理由も、
「前の本を書きあげたあと、
いちばん興味を持ったテーマが
これだったから」
という説明が、私としてはいちばんしっくりきます。
興味のもてないテーマを、
何かほかの理由で本にすることは、していません。 |
糸井 |
やはりそうですか。 |
ダイアモンド | はい。そして実のところ私は、
いつも本を書きはじめるときに
最終的に本がたどりつく先を知らないんです。
「これは面白い問いになりそうだ」
「だいたい答えはこうなるかな」
というイメージは持って書きはじめます。
ですが、研究をすすめるうちに、
たいがい想像していた答えとは
違う方向に本が進んでいくのです。 |
糸井 |
なるほど。 |
ダイアモンド | たとえば『文明崩壊』という本は
「歴史から消える文明には、
共通する原因があるのではないか」
という興味から生まれた本なのですが、
最初は私、
「原因は『環境破壊』ではないか」
という仮説のもとに書いていたんですね。
でも、書きはじめるとすぐ、
それだけではないということがわかりました。
たとえば
「その文明の体制に問題があった」とか
「リスクへの向きあい方が悪かった」など、
環境の変化以外にも、
いくつも関係している要素が見つかりました。 |
糸井 |
はい、はい。 |
ダイアモンド | そして、最終的には
ひとつの文明が崩壊するとき、
「環境破壊」
「気候の変動」
「近隣の敵対集団」
「近隣の友好集団からの支援減少」
「その社会の持つ問題対処能力」
のどれか、
もしくは複数が関係している、
という結論にたどりついたんです。 |
糸井 |
そうしたことを、
本を書きながら見つけていくんですね。 |
ダイアモンド | そうなんです。
ふと思ったことですが、私の本の書き方はもしかしたら、
バードウォッチングと似ているかもしれません。
バードウォッチングでは
出かける前に、どんな鳥が見られるかわかりません。
そして「ここは面白そうな鳥がいそうだな」とか、
「こんな鳥が見えるかもしれないな」という
予測をもって、森や山を訪れます。
事前に準備はしますが、いざその場所に足を運んだら、
起こる流れに身を任せます。
予想どおりの鳥を見つけて喜ぶこともあれば、
予想もしなかった魅力的な鳥に出会えることも、ある。
私はそんなふうに本を書いていると思います。 |
糸井 |
なんだか、昆虫や鳥を追いかける
子供たちのやりかたのようですね。 |
ダイアモンド | まさにそのとおりだと思います。
というのも実際に私は子供のころ、
鳥や虫を観察するのが大好きだったんです。
そして見たものをリストにし、
同時に、浮かんださまざまな疑問について、
「この理由はこうじゃないか」なんて、
自分で説明を考える習慣がありました。
加えてもうひとつ。
私には1歳半下の妹がいるのですが、
子供のころの私は、
自分が考えた説明を妹に伝えることを
いつも楽しんでいたんです。
もしかしたら私は、子供時代の私が
昆虫や鳥を見て、説明を考え、
妹に説明する行為を楽しんでいた延長で
今、研究をし、本を書いているのかもしれません。 |
糸井 |
ええ、ええ。
ぼくにはもうひとつ、ダイアモンドさんの本を読んでいて
よく感じることがあります。
ダイアモンドさんとぼくは、
まったく違う人間だと思うのですが、
本を読んでいると、ダイアモンドさんの興味の持ち方が、
自分ととてもよく似ているように感じるんです。
たとえば、
ダイアモンドさんが本を出されてきた
「チンパンジーと人間はどこから違う?」とか、
「どうして人はセックスが好きなんだろう?」
といった疑問って、ぼくも考えたことがあり、
今でもよく考えたりするようなことです。
そして本を読みながら、
「あ、これは自分も興味はあったけれど、
考えるのをやめていたことだった」
と気づくんです。 |
ダイアモンド | なるほど。
ただ、それについては実は、
私があつかう疑問がとくに珍しいものではない、
というのが理由かもしれません。
というのが、私が本で追求している問いというのは、
人々が──それこそ子供たちなども、
ごくごく普通にいだく疑問のような気がするんですよ。 |
糸井 |
あ、なるほど。 |
ダイアモンド | たとえば『銃・病原菌・鉄』という本のテーマは
「どうしてヨーロッパ人種が
世界を征服するにいたったのか?」です。
難しいテーマに聞こえるかもしれませんけど、
実はこの疑問というのは、
いろんな人種の住んでいるアメリカで暮らしていると、
ごくごく自然にわき起こってくるものなんです。 |
糸井 |
はい、はい。 |
ダイアモンド | ‥‥ただ、私たちは大抵そうした問いについて、
疑問に思うだけで、
考えるのをやめてしまうことが多いんです。
なぜかというと「納得いく答え」が見つからないから。 |
糸井 |
たしかに、
「答えが見つからない」という理由で、
考えをやめてしまうことって、ありますね。 |
ダイアモンド | そうなんです。
その『銃・病原菌・鉄』という本の問いでいえば、
私が考え続けるきっかけになったのは、
ひとりのニューギニア人から問いかけられた
こんな質問です。
「あなたがた白人は
我々のもとに多くの文化を
持ち込んだけれど、
あなたがたに我々の文化は
ほとんどもたらされていない。
それは、なぜなんだ?」
‥‥聞かれたとき私は、答えられませんでした。
そして、そのことがきっかけとなって
私は本を書いたんです。 |
糸井 |
ええ、ええ。 |
(つづきます。) |