ほぼ日WEB新書シリーズ
「教育」をテーマに
誰かと対談することになったとき、
糸井重里の頭に浮かんだのは、
アーティストの横尾忠則さんでした。
「誰になにをどう教わったら
 横尾さんみたいになれるんだろう?」
糸井の素朴な質問をキーにして、
横尾さんの豊富な経験が
愉快に、ひもとかれていきます。
もちろん、しょっちゅう脱線しながら。
第2回
方法論は必要ない
糸井 多摩美で審査員したとき、
横尾さんは水準が低いといって
怒り出して帰っちゃったんですよね。
みんな、真っ青になったんだけど、
「いいんだよ、横尾さん、ああなんだから。
 ほんとに怒ってるだけだから」
って言っておきましたよ(笑)。
横尾 審査員席をたって、怒っておもてに出た途端に、
糸井さんのお嬢さんが走ってきて
ぼくに謝礼を渡したんだよ。
「いや、ぼくはそんなもの要らない」
とお断りしたんだけどね。
だって、ぼくはやるべきだったことを
ちゃんと全うしてないんだからさ。
でもちょっと、かっこいいこと言いすぎたかなぁ・・・。
あのときのお金、どうなったの?
糸井 どこにあるんですかねぇ。
横尾 わからない。
お嬢さんが使い込んでるんじゃないか(笑)?
糸井 (笑)そんなことはないよ。
もう、あのあとどうやって横尾さんに謝ろうか、
みんながもめたんだから。
横尾 謝るなんておかしいよ。
ぼくが勝手に帰ったんだから。
糸井 でも、あそこにいたほかの審査員がみんな
「横尾さんがいちばんアートだったなぁ」
って言ってたんです。
ふつうは、
「まあ、悪いなりにもいいものがあるじゃない?」
みたいな話でごまかしちゃうでしょう。
でも、審査会途中で横尾さんは
「つまんない。これを審査すると
 自分がだめになる」
と言って席をたった。

寸前まで、「我慢していようかな」って
言っていたんだけど、
「やっぱり帰る」って、急に(笑)。

ああいうふうに横尾さんが言うと、
みんな、気分がいい。
横尾 まぁ、失礼いたしました。
実はあのあと、
ぼくは評判を落とすんだろうなぁと
心配だったんだけど。
糸井 ぜんぜん大丈夫だったよ。
横尾 学校中に「ぼくが怒って帰った」という噂が
あっという間に広まったんだろうな。

大人げないかなと思ったけど、
ああいうことを我慢すると、
やっぱり体によくないんだよ。
ぼくは体の要求に従いますから。
頭では「ここにいたほうがいい」
というのはわかるけど。
糸井 でも、ああいうことをできる人間で
ありたいですね。
横尾 糸井さんはできる人じゃない?
糸井 あのときは横尾さんに先を越された
というのもあるけど、でもまあ、
あのくらいの我慢は
やっちゃうんですよ、ぼくは。
大人相手のときは、
「怒らせてみよう」と思ったりするから
席をたつようなこともあるんだけど、
今回は「相手は子どもだ」っていう気持ちがあって。
横尾 ハハハ、偉いなあ。
いや、ぼくはやっぱりちょっと
理性を養わなきゃいけないね。
糸井 ハハハ。
横尾 理性の重要性は年とともにだんだんだんだん、
感じてきてるんだけどね、やっぱり。
糸井 ああいうことひとつひとつにつきあってると
疲れちゃうしね。
横尾 うーん。
あのまま審査を続行してたら、
シンポジウムだの何だのが、まだあるでしょう。
それに全部つきあってると、もっとつらかった。
そのうえ、今度は審査員の
仲間同士に向かって、ぼくは
わけわからないこと言ってしまうかもしれない。
今よりも自分が更に怒り出すかもしれないから、
帰ってよかった。
糸井 「ちょっとこの作品いいんじゃない?」
とか言い出す人がいたら、
「それをいいってどうして言えるんだ!」
とか言いたくなりますよね。
横尾 うん、そうなの。
糸井 ハハハ。
横尾さんみたいな、
「この人しかそういう人はいない」
っていう人間をつくるには
どうしたらいいんでしょう?
横尾 え、どういうこと? 
そりゃぼくは、ひとりですよ。
糸井 つまり
「人間はみんなひとりずつ違うんだよ」
って、よくいわれるけど、
それをどうつくるかということについては、
方法がないですよね。
「こういう人に育てたい」みたいに、
同じ人間をつくる方法論はあっても。
横尾 まあ、ぼくのことは別として、
方法がないからいいんじゃないの? 
方法論に従うということは、
やっぱり何かに類似したり、
慣例に従わなきゃいけなくなるじゃない? 
だから、「方法がない」というのは、
ぼくは理想的だと思う。

絵に関しても、そう。
方法は必要ないんじゃないかと思ってる。
まず先に方法論があるというのは、
もうその時点で限定されちゃうよね。
そう言うとなんだかアナーキズムみたいだけど。
糸井 方法論がないという生き方を
選んじゃった人の
楽しさとつらさって、
両方あると思うんです。
横尾 まあ、
第三者に好かれたいか好かれたくないかという、
その判断は
出てきますけれどもね。
糸井 うん、うん。
横尾 若いころはよけい、そうだと思うの。
これから何かいろんなことを実現していくたびに、
人の力も借りなきゃいけないでしょう。
ある年齢に達したら、
「もういいか」みたいなところはあるね。
糸井 年を重ねたから
こういうふうにスカッとしちゃった?
横尾 いやいや、むしろ我慢してるものもあるし。
我慢してるものが、鬱積が、たまりにたまって、
それが爆発して、
それでその反対の行動に走るということはありますよ。
瞬発力をつけるために我慢も必要かな。
我慢したということと爆発という
両極の落差ができるだけ大きいほうがいいですよね。
エネルギーとして。
糸井 うん、エネルギーが高いですよね。
(つづきます)
2014-08-23-SAT
(対談収録日/2002年4月)


第1回
兄弟みたいな関係
第2回
方法論は必要ない
第3回
一光さんと、三島さん
第4回
先生はいない
第5回
平凡な普通の人間だよ
第6回
いきなり本番でいいでしょう
第7回
面倒くさい!
第8回
人に知られたくない自分
第9回
今できることって何だろう
第10回
自信を持たせること