米原 |
英語の通訳だと、
もう、どの会社にもどの官庁にも、
「俺は英語がよくできて、
きょうから来た通訳なんかよりも
ずっとできるから、
あいつが間違えたら俺が指摘してやって、
教養あるところを見せてやろう!」
というような人がいます。
EFGH(匿名)県の知事なんかも、そうですけど。 |
糸井 |
嫌だなあ。(笑) |
米原 |
嫌なんですよ。
もともと、それを指摘したくて
しょうがないというだけの人だから。 |
糸井 |
あぁ‥‥わかるなぁ、そのムード。 |
米原 |
姑みたいに、
どうでもいいところで指摘するんですよ。
ですから、通訳をやっている最中は、
「ここにいる中では、私が一番うまい。
私がやるしかないんだ!」
という風にやっていないと、
パフォーマンスは、よくないんです。 |
糸井 |
でしょうねえ‥‥。 |
米原 |
ところが、その気持ちを、
姑の指摘みたいな形でくじかれると、
その後、もうやっていけなくなっちゃう。 |
糸井 |
たまんないでしょうね。 |
米原 |
うん。
それをIJKL(匿名)知事にやられて、
3か月間、失語症に陥った通訳がいますね。 |
糸井 |
失語症になるほうの気持ちは、
めちゃくちゃわかりますよ。
例えば、クライアントの中に、
クリエイティブ出身の人がいるとして‥‥。
今はキャリアができちゃったんで、
「言っていいですか」
みたいな感じの指摘になるんだけど、
ぼくが若くて相手が年上で元クリエイティブだったら、
「その案はさあ、一つの可能性としてね」
なんて言われると、嫌なんだなぁ‥‥。
まちがいじゃない指摘なだけに、
「わかっちゃいるんだけど、
おまえとケンカしている場合じゃないよ」
というところもあるじゃないですか。
重しをつけて走らされているみたいな。 |
米原 |
そうですね。
ただ、やっている最中は
「自分しかいない!」と思って
やらなくちゃいけないんだけれども、
そのパフォーマンスがよくなければ
二度と雇われないわけですから、やっぱり
客観的に自分を評価できないとダメですけど。
通訳をやる前は自信がないまま、
そのぶん一生懸命準備した方がいいし、
やり終わった後、やっぱり反省しなくちゃ、
うまくなっていきませんからね。
通じなければ二度と雇われないわけですから。
そうすると、やっぱりやってみて、
その時は本当に話し手になり切りながら、
しかも同時に、客観的に、神様みたいに
ちゃんと冷たく見ている目も必要なんですよ。 |
糸井 |
役割として上に立たない限りは、
仕事にならないということですよね。
言語に関してね。 |
米原 |
そうですね。 |
糸井 |
その場の司祭みたいな役割を
果たしちゃいますね。 |
米原 |
そうですね。
けっこう、権力持っちゃいますね。 |
糸井 |
持っちゃいますよね。
‥‥そういう方だったんですか(笑) |
米原 |
英語の場合は、けっこう難しいと思うんですよ。
そこらじゅうにわかる人がいるから。
でも、そうじゃない言語の場合は、
完全に違うストーリーを聞かせて
満足させるということもありますので。 |
糸井 |
ワザを見せちゃうわけ。 |
米原 |
生命にかかわるときとか、
ちょっとそれを言いますね。
食事を選ぶときなんか、
自分が食べたいものに誘導していくとか。 |
糸井 |
あぁ、それはした方がいいね。
そういうことも混ざんないと、
仕事内容が、カラダに悪過ぎますね。 |
米原 |
どうなんでしょうね。
ただ、そういう時に、
自分が勧誘して誤訳したというのは
何か申しわけないというか、
罪の意識を持つんですよ、宗教的に‥‥。 |
糸井 |
最高権力を持っていながらも、
自分はゼロであれという、
すごい引き裂かれた場所にいるわけですから。 |
米原 |
そうですね。 |
糸井 |
リーダーシップをとるというのが、
あらゆる場所で日本人はとっても苦手で、
リーダーじゃないという顔をしながら
動かすのが、いちばん好きですよね。 |
米原 |
そうですね。
責任はとらなくていいですからね。 |
糸井 |
で、「何かあったら水に流して」とか、
いろんなやり方でその都度やっていくのが、
非常に日本人に向いている生き方なんだけれども、
今のお話を聞いていると、米原さんは、
自分がここではいちばん言語に関しての
リーダーシップを、実際に持っているわけです。
「そこの場所に立つ」という決意は、
何か相当思考の大転換がないと
できないと思うんですけど‥‥。
その考えを獲得するのって、いつですか? |
米原 |
いや、本当に通じてなくて
困っている時に通じたというのは、
話している両方ともがうれしいし、
私も、うれしいんですよ。 |
糸井 |
つまり、
「私がやっていることは人のためになっている」
という実感があって、リーダーシップをとるわけだ。 |
米原 |
そうそう。
これは、何か本当にうれしいみたいですね。 |
糸井 |
みたいですねって。(笑) |
米原 |
ほんと。
わかりあえるというのがあって、
それはたとえ誤訳であるがための
誤解であってもね‥‥でも、
何を言っているのかがわかるというのは、
すごくうれしいんですよ。 |
(つづきます) |