糸井 |
僕はアメリカへ行ったときに、
「単なる笑ってばかりいる静かな好青年」
になっちゃうのが、とっても嫌なんです。
英語、しゃべれないからね。
好青年、もしくは、
「いつも何かを求めているだけ」という。
‥‥アイウォント、アイウォント、って(笑)
|
米原 |
好青年‥‥
「好」かどうかわからないけど(笑) |
糸井 |
アメリカに行くと、
「俺は何々をしたいんですけど」
ってことばかり言ってるんですよ。
でも、ヨーロッパに行ったら、何だか知らないけど、
どうもそうじゃないことを
すこし、しゃべってるんですよ、無理やりに。
「あ、ちょっときっかけ来るかもなぁ」
とは、思いましたけれど。 |
米原 |
アメリカ人は、考えてみれば、
糸井さんのような、そういう悩みを持たずに
世界旅行するわけですね。 |
糸井 |
ラクですよねえ。
グローバルスタンダードとかいっちゃって。 |
米原 |
そうそう。 |
糸井 |
あれ、ラクですよねぇ。 |
米原 |
ラクだと思いますけど、
逆につまらないかもしれないです。 |
糸井 |
うーん、そうかもしれない。
機械を使ったりするのには、
いま、アメリカは有利ですよ。
だいたいが、
英語のマニュアルになっていますからねぇ、
マシンはね。 |
米原 |
ただ、圧倒的大多数の人々は、
英語が世界語だっていっても、
英語をみんな完璧にはできないんですよ。
ひところ、インターネットが普及して、
英語がさらに世界語になってしまうと、
世界じゅうのインターネットの
ホームページの90%近くが英語で、
2位がドイツ語で4%ぐらいで、
3位が日本語で3%で、どんどん
ほかの弱小言語はなくなってしまうって
嘆かれていたんだけれども、しばらくしたら、
90%近くあった英語のホームページが、
どんどん閉じられていっちゃったんです。
結局、人間は、自分がいちばんよくわかる、
いちばん自分を表現できる言葉で
話すのではないでしょうか。
ホームページなんて、
個人的に見ればいいものですよね。 |
糸井 |
ええ。 |
米原 |
英語だと「何となくわかるもの」に過ぎない。
しっかりわかろうと思ったら、
母語で見ようとするから、
みんながそれぞれの国の言葉で見るでしょう。
英語ばかりになるというのは、
一つの「幻想」だと思うんですよ。
通訳するときにでも、
英語でだれか講演をするっていうと、
みんな見栄があるから「はい」と言います。
学者なんて英語ができて当然という世界だから。
でも、
わかってるふりしてうなずいたり、
笑うとき、ちょっとおくれて笑ったりしている。
いったい内容わかってるかって
あとで確かめてみると、全然わかってないんです。
だから、英語は世界語だっていうのは
本当にウソですね。
それは観光英語とか、簡単な日常生活に
必要な英語はみんな出てくるかもしれないけれども、
きちんと大切なことを伝える時に
伝わっているかというと、伝わってないですよ。 |
糸井 |
そうですねえ。 |
米原 |
だから、ちゃんと私たちみたいに
プロの通訳を雇って、
それぞれ自分の完璧にできる言葉で
表現した方がいいですよ。 |
糸井 |
いやぁ、心強い。 |
米原 |
ほんとなんですよ。 |
糸井 |
本当にそうですね。 |
米原 |
私、英語でしゃべっていると、本当に
私が言いたいことをいってるつもりだけども、
「これってちゃんとその表現になっているのか」
という最終的な自信が、ないんですよ。
相手にきちんと届いているかどうかもね。 |
糸井 |
だって、アメリカ人同士でも
実はそんなことは当たり前で、
ちゃんと通じてるはずがないわけですよ。
日本人同士でもそうですよね。
「わかっちゃいないんだ」
っていって帰ってくるわけですから。 |
米原 |
それでもまだ日本語であるならば
確かめられるんですね、
「きちんと伝わったかどうか」というのをね。
ちょっと英語になると自信ないです。
ロシア語なら、まだ自信あるけど。
だから、完璧にできない人が
圧倒的に多いわけです。
英語は世界じゅうの人が知っているけれども、
それはホテルに泊まるときのちょっとした言葉とか、
そのぐらいができるんであって、
ちゃんとコミュニケーションはできてないですよね。 |
糸井 |
帰りの飛行機の中で
雑談で話していたんですけど、
「この国ってどういう国だよね」っていうのを
ぼくらは外国に行くと、勝手に決めますよね。
非常に雑に決めるんだけれども、
「フランスはこうだ」とか、
まあ、3行ぐらいでまとめちゃうわけです。 |
米原 |
そうね。 |
糸井 |
「この国の人はこうだね」
‥‥ずうずうしい話ですけどね。 |
米原 |
日本人もそう決められているわけですから。 |
糸井 |
日本人が、
「おれの国はこうだ」
と言うには、どう言えばいいのかを、
こないだハタと考えちゃって。
昔は多少自慢があったかもしれないけど。
たとえば、秋葉原を案内するなんていうのが
流行ってたりした時代もあったわけですね。
でも、今、日本に観光客を呼ぶ力はないんです。
「何を見せるんだ」というと、
結局京都に連れていっちゃうみたいな。
まあ、こっちも雑なことをやるわけです。
「じゃあ、おれたち、
自分のいる国を愛して紹介するということを
発見しなきゃいけないなあ。
今、無理に考えるとどうなるだろうねえ」
ということになったら、
四季があるということをいい出したんですよ。
「それしかないなあ。四季があって水が豊かだ。
これ以外、俺たち、つくったものないよね、今」 |
米原 |
でも、四季は私たちがつくったんじゃないけども。 |
糸井 |
ないんです。
だから、あえてつけ加えるなら、
「ぼくらの今の日本は、四季があって水が豊かです。
私たちがつくったものじゃないんですけどね」
という説明で来てもらうしかないなといって、
「しょうがねえなあ」って話し相手と別れたんですけど。
米原さんだったらどうします?
日本のことを、どう伝えますか。 |
(つづきます) |