米原 |
今、「つくり過ぎ」じゃないですか。
自動車でも何でも。
日本の道路面積って
先進国の中で一番少ないんですよ。
国土面積対道路面積で。
だけど、自動車の量が
毎年5%ずつ増えていくから、
渋滞になるし、空気も汚れるし。 |
糸井 |
そういう知識も、
外国の人に説明するために、
だんだん覚えていったということですか。 |
米原 |
結局、
「日本に来ると、車が渋滞になる」
と言われたりして‥‥つまり、
人々はそこに物語を求めるわけです。
車が多いって伝えるだけじゃ、
ダメなんですね。
物語をつくっといてあげなくちゃいけない。 |
糸井 |
説明が必要になるわけだ。 |
米原 |
そうそう。
そうすると、何か日本を
知ったような気分になって喜ぶんですよね。 |
糸井 |
そんなことは
本当はどうでもいいのに‥‥。
おもしろいなぁ、その例って。
観光案内について、
米原さんは最初は
「大変ですね」って言っていたけど
じつは楽しいですね。 |
米原 |
楽しいですね。
あと、先ほど作文で
ウソと本当の話があったけれども、
現実の恥ずかしい部分を
ぜんぶ出してしまうことが
評価されるといったけど、
本当のことをしゃべるよりも、
私はウソをつく方が恥ずかしいのね。
‥‥と思いません?
ウソをついているほうが、
本当の自分が出ると思いませんか。 |
糸井 |
出ます。その中に自分の考えが出ますから。 |
米原 |
考えが出ちゃうから、
私はそっちの方が恥ずかしくて。
そのまま本当のことをしゃべると、
けっこう、ウソを言えるんですよ。
恥ずかしい部分をいったとしても、
すごく平気でウソをいえるんですね。 |
糸井 |
米原さんの本、そのものじゃないですか。 |
米原 |
すみません。 |
糸井 |
つまり「抑揚」というやつですよね。 |
米原 |
そう。
本当はみんなが
フィクションでつくっていると
思っている部分に一番自分が出ているから、
フィクションするのは
すごく恥ずかしいと思いながら
フィクションしているんですよ。 |
糸井 |
米原さんの本を読むとよくわかるんですよ。 |
米原 |
ああ、そうですか。 |
糸井 |
あれは、強弱のつけ方が
ドラマツルギーになっていて。全部本当のこと。
だけど、ここのところは大きい音でいうみたいな……。
笑いますもの。 |
米原 |
ありがとうございます。 |
糸井 |
最初に読んだときに、
このやり方は発明だなあと
思うぐらいおもしろかったですね。 |
米原 |
ああ、そうですか。 |
糸井 |
でも、あれもロジックの構築が
できているからですよね。 |
米原 |
さあ。
ただ、たぶん、才能がある人は
ロジックは要らないんですよ。 |
糸井 |
あぁ、深いなあ、それは。 |
米原 |
おそらく直観で全部できちゃうと思うんですよ。 |
糸井 |
古今亭志ん生にロジックは要らないですよね。 |
米原 |
そうそう。
でも、そうじゃない人はやっぱりロジックで、
それを見える形にするか隠す形にするかは別として、
ロジックがないとやっていけないですね。 |
糸井 |
遠くまで大勢を運ぶためには
トラックで運ばなきゃならないけど、
足が丈夫だったら別に大阪まで走れますよね。
‥‥というのと同じで、
ぼくはやっぱり今の時代では
自動車は要ると思うんですよ。
ロジックという機械、道具は、
すごい武器だと思うんですね。 |
米原 |
恐らく日本人がロジックが苦手になったのは、
教育もあるけれども、紙が余りにも
潤沢に手に入り過ぎたせいだと思います。 |
糸井 |
おもしろいなぁ、その考えは。 |
米原 |
結局ロジックって何かというと、
私、通訳していてわかるんだけど、
日本の学者は
ロジックが破綻しているのが多いんです。
基本的には羅列型が多いんです。
それでヨーロッパの学者は非常に論理的なんです。
現実は、世の中そんなに論理的じゃないんですよ。
論理というのは何かというと、
記憶力のための道具なんですよ。
物事を整理して、
記憶しやすいようにするための道具。
ところが、紙が発達した国は書くから、
書く場合には羅列で構わないんですよ。
耳から聞くときには
論理的じゃないと入らないんです。
覚え切れないんです。 |
糸井 |
おもしろいなぁ。 |
米原 |
だから、日本人とか
漢字圏の紙が豊かな文化圏の人たちの
脳というのは、視力モードなんですよ。
目から入ってくるものを基本的に受け入れやすく
覚えやすい脳になっているんです。
ところが、ヨーロッパ圏の人々は
聴力モードなんです。
耳から入ってくるものにより敏感に反応して、
より覚える脳になっているんです。
製紙業が始まったのは中国ですよね。
それで日本も非常に紙が豊かな国で、
試験もほとんどペーパーテストですよね。
それで、考えをまとめたりするときにすぐ書く。
ところが、ヨーロッパでは、
紙はものすごく高価だったんです。
だから、ほとんどの人は紙を使えないわけです。
授業で生徒が紙を使うなんてぜいたくだった。
そうすると、紙を使えない人はどうするか。
なるべくたくさん覚えなくちゃいけないわけです。
覚えるためには論理が必要なんです。
論理とか物語とか、そういったものがないと、
大容量の知識を詰め込むことはできないんですよ。
だから、論理が発達するんですね。 |
(つづきます) |