糸井 |
昔、養老さんとはじめてぐらいに
お会いしたときに聞いたのは、
孔雀がバーンって羽を広げたときに、
目玉の数の多いやつが好かれるっていう話です。
一瞬で見分けて、
そのかたの子どもが欲しいわ、
って思うらしい。
これ、説明つかないですよね。 |
養老 |
そのときの文脈はね、たぶん、
人にもそういう能力があるという話なんです。
その辺にポンと置いたマッチ棒が何本か、
すぐに言える人がいるんですよ。 |
糸井 |
サヴァン症候群。 |
養老 |
糸井さん記憶力はありますか? |
糸井 |
ぼくは、ないんです、記憶が。 |
養老 |
記憶がない? |
糸井 |
まったく覚えるってことができなくて、
段取りとかで司会とかまったくダメです。
人の名前も何も、何にもできないんです。
番組の登場シーンを撮るんで、タキシード着て、
誰かと一緒に右に曲がって入ってきてください、
というときに、
誰かと一緒っていうのでもう
いっぱいいっぱいで、
右に曲がれなくなっちゃった。
‥‥っていうくらいひどいです。 |
養老 |
調べるとおもしろいと思うんですよ。
どうして、記憶がなくても
糸井さんはやっていけるのか。 |
糸井 |
やっていけます。
ものすごいやっていけてます。
「おまえ、ほらあれなんだっけ」って、
自分の人体がもう友だち含めてる。
何々のことだったら、
養老さんに訊けばいいや、とか、
関係を大事にすることで補ってます。
でも、ストックのなさはすごいですよ。
ただ、自分からやることについては、
すごいちゃんと細かいの。自分の都合で。
養老さんは記憶のフォーム、
両方大丈夫なんですよね。 |
養老 |
まぁ、ぼくは勝手記憶ですね。 |
糸井 |
勝手記憶。 |
養老 |
自分の覚えてようと思うことは、
覚えているけど、
そうじゃないことは忘れてる。 |
糸井 |
人の名前とか顔はどうですか。 |
養老 |
全然憶えない。 |
糸井 |
あ、その部分はぼくと同じですね。
昔お会いして仕事したとかって言われても、
全然わからない。 |
養老 |
それはもう、学生を教えていたから、
あるときから名前と顔を覚えるのは諦めた。
毎年100人入ってくると、憶えられないんです。 |
糸井 |
それを憶えておいたほうが好かれると思って
一所懸命やる人もいるじゃないですか。 |
養老 |
いるいる、います。
そういう人はいい教師になるんですね。
ぼくが憶えてる学生って
箸にも棒にもかからないやつばっかり。
できるやつは手がかかんないから、
すぐ忘れちゃう。 |
糸井 |
その通りだ、その通りだ。
それはけっこう論理的に説明できますよね。 |
養老 |
できます。 |
糸井 |
箸に棒にも掛からないってわざわざ言わせる
っていうのは、よっぽどなんかあったんですよ。
やっぱり“弱点”ですよ、これからはね。
関係性が薄くなっちゃうから。 |
養老 |
そうですね。
歳をとるとね、もっとわかりますよ。
歳とるとやっぱり孤独になってくるでしょ。
周りがさぁ、
あの人は面倒見てやんなきゃダメだ、
と思うような穴を
自分に上手につくっとかなきゃ
いけないんですよね。 |
糸井 |
ぼくはもうやってますよ。
ほんとに。
撒き餌のように。
お婆さんとお爺さんが孫をかわいがるのも、
あれ、無意識にそういうことしてるのかもね。
つまり、自分の子どもをかわいがられて
悪い気する人はいないわけで、
両方に影響与えられるじゃないですか。
うちに、昔来た保険屋さんで、
ピンポンってやって入ってきて、
しばらく話をはじめないで、犬をかわいがってる。
で、いやほんとごめんなさいって言って、
とにかくかわいい、って言う。
お話なんかあったんじゃないですか、って言うと、
いや、もうほんとに、わぁー、ってかわいがって。
で、保険の話だったんだけど、
ぼくも「入ります」ってなっちゃった。
あの人にまた会いたいぐらいの気持ちになって。
そしたら、次の月の集金は違う人だった。
その人に訊いたら、
「あのかたはとにかくトップ中の
トップの人で」って(笑)。
その人がやったことは何かって言ったら、
保険のことを一言も言わずに、
犬をかわいがったことなんです。
顔を舐められながら、わぁーって言った。
そんなようなことですよ。
だから、養老さんを落とすんだったら、
虫をもうべた褒めして! |
養老 |
(笑) |
糸井 |
なんですか、この刺はなんて言って。
わぁー、気持ち悪い、なんて言って(笑)。
でも、だんだん好きになりそうとか言って。
養老さんも、絶対、悪い気しないですよね。 |
養老 |
うん。 |
── |
そうですよね。 |
糸井 |
年取れば取るほどそうなる。
いやぁ、おもしろかったです。
ありがとうございました。 |
養老 |
こちらこそ。
久しぶりでね。
何年ぶりだろうと思って。 |
糸井 |
いや、そんなでもないような気も。
養老さんの体の丈夫さっていうのも
すごいもんですね。 |
養老 |
そうでもないんですけど、
一切気にしてないから丈夫なんです。 |
糸井 |
ああー。 |
養老 |
ぶっ倒れるまで走りまわってる。
だから、いつも周りに嫌がられてる(笑)。 |
(養老孟司さんと糸井重里の対談は
これで終わりです。
お読みいただきまして、ありがとうございました) |