ほぼ日WEB新書シリーズ
糸井重里がブータンに行く直前、
解剖学者の養老孟司さんに
お会いすることになりました。
ブータンに何度か行かれ、
とても詳しい養老さんに
いろいろ教えていただこう、
という趣旨だったのですが、
脱線していった話のおもしろいこと!
昆虫、国語、左脳と右脳、そこに生まれる穴、
系統樹、分類学、コンピュータ、人間関係‥‥。
そして、出てきたキーワードは「アミノミズム」。
第1回
他の人になれないから。
養老 (かばんから、校正ゲラを出して)
これどうです。
小檜山(賢二)さんっていうのがね、
『象虫』(ゾウムシ)っていう写真集を作っていて、
今度は『葉虫』(ハムシ)というのが出るんですよ。
糸井 写真ですか、これ。
養老 デジカメのね。
糸井 小檜山先生知ってます、ぼく。
すっごい穏やかな、ゆっくりしたかたですよね。
養老 そうです。
糸井 あのかた、
こんなレベルのことしてるんですか。
ものすごいですね。
養老 これ(ページを開いて見せる)、
虫糞葉虫(ムシクソハムシ)っていう虫です。
足縮めると、毛虫の糞ソックリだから。
糸井 うわー。
この写真のデカさすごいなぁ。
養老 これがトゲナシトゲトゲ。
糸井 トゲナシトゲトゲ。
養老 これトゲアリ。
糸井 トゲアリ(笑)。
養老 トゲナシ。
これが、トゲトゲです。
糸井 小檜山さんこんなことしてたんだ。
養老 そうなんです。
糸井 これは、(昆虫)マニアの養老さんが見ても
やっぱり恐ろしい書籍ですか。
養老 そりゃそうですよ。
これだけ集めるのは大変ですもんねぇ。
しかも、小檜山さん凝ってて
採りたてのほとんど生きてるものばかり。
放っておくと、茶色になってしまうんですよ。
糸井 呆れた。
養老 これ見せると世界中が呆れます。
虫がこうだってことは、
なんとなく、みんな知ってるんだけど、
こういう形でデモできなくて、
最初に載せてくれたのは、芸術新潮だった。
で、ぼくがやたら褒めたもんだから、
小檜山さん元気がでちゃってね(笑)。
糸井 いけるんだ、と。
養老 そう。
でもこれってなんでしょう。
新たな分野ですよね、
アートと技術がくっついた新ジャンル。
糸井 つまり、すでにある何かを、
撮ることがもう行為ですよね。
表現ですよね、もうね。
養老 そうです。
糸井 これは予想して撮ってるわけでしょ。
このようなイメージを。
すごいなぁー。
彫刻の一種ですかね。
作品論としては。
養老 あー、そうですね。
質感がかなり出ていますよね。
糸井 で、間に入ってるのは、
道具はカメラなんですか。
養老 普通のデジカメです。
あとはコンピュータですね。
糸井 データの処理なんだ。
養老 それぞれ撮っていると
とてもピント合いません。
だから全部ピントが合うように、
部分撮影したものを重ねていくんです。
ぼくが論文用に頼んでいるものは、
(昆虫1体につき)
150枚ぐらい撮ってくれてるんですよ。
150枚が1枚になる。
糸井 そのことを考えついたのは、
もうとっくなんですか。
養老 3、4枚合成するのは、
しょっちゅうやってます、ぼく。
そういうソフトそのものもいま
無料でも手に入りますからね。
糸井 人間の想像力って安いですねぇ。
養老先生なんて、解剖なさってるから、
人を見たときに、
内臓とかを意識しながら見てるんですか。
養老 内臓は意識しませんけどね。
糸井 ぼくは、養老さんには違う人体が
見えてるんだろうなっていうのは、
前々から、それはけっこうつらいことかなぁ
とか思ってたんですよ。
そんなことはない?
養老 つらいかどうかは知りません、
他の人になれないから。
糸井 じゃあ、内臓のことまでは考えないんですね。
養老 内臓はあまり関心がないですね。
糸井 関心がない(笑)。
(つづきます)
 
2014-08-20-WED
(対談収録日/2011年6月)


第1回
他の人になれないから。
第2回
英語と日本語、どうだっていい。
第3回
「それは管轄外です」
第4回
人間が悩むということは。
第5回
系統樹から網の目へ。
第6回
アメリカ文化を壊すもの。
第7回
弱点が関係をつくる。