糸井 どうも、はじめまして。
矢口
はじめまして。
矢口です。よろしくお願いします。
(名刺を差し出す)
糸井
よろしくお願いします。
‥‥あれ? 矢口さんの名刺の
「中村林業」って『WOOD JOB!』に出てくる?
矢口
そうです。
いつもは名刺を持ってないんですが、
映画の広報担当ということで、今だけ。
糸井
えーと、
名刺の住所は「美杉町神去村」なんですね。
映画に出てきたのは、
ずいぶん立派な森でした。
あれは、何県だったんですか
矢口
三重県です。
神去村という、名前こそ架空の村なんですけど、
美杉町は三重県津市に実在しています。
糸井 三重県のどの辺りなんですか?
矢口
真ん中の左のほうで、
奈良県の近くです。
糸井 ああ、だいぶ内陸なんですね。
矢口
内陸です。
三浦しをんさんのおじいさんとおばあさんが
もともと住んでいて、
原作のモデルにもなっている場所なんです。
だからぼくたちもそこで
撮影をすることにしました。
糸井 へえー。
矢口
映画のなかの重要なポイントに、
列車と駅が出てくるんです。
美杉町あたりに、
ものすごくローカルな列車が通っているので
その列車で撮影をしたかったんですけど、
台風の被害で止まってしまって‥‥。
ですから、列車のシーンだけ岐阜で撮影しました。
糸井
あの映画は一部だけ岐阜だったんですね。
それにしても、三重県って森が多い。
矢口
三重県は海に面しているので、
どうしても漁業や海というイメージが
つよいんですけど、
おなじくらい林業も盛んなんです。
糸井
海と山が両方あると、
なんでか、イメージが海にひっぱられますね。
矢口
それはたぶん、
山のなかの仕事が
ふつうの人の目にふれないからだと思います。
林業の人たちは、車で現場の近くまで行って、
そこから機材を持って歩いて
奥のほうまで行ってしまう。
身内の方でも、
お父さんが仕事をしている姿を
見たことがないといっていました。
バリバリとかブーンとか、
山から音だけが聞こえてくるみたいです。
糸井
そうか。
漁業みたいに、大漁旗を掲げて
「漁から帰ってきたぞー!」って
にぎやかにむかえてもらう、ということが、
山にはないんですね。
矢口
しかも、山の仕事では、
おじさんたちは土っぽい色の格好が多いんで、
山と同化しちゃって、わかんないです。
糸井
同化しちゃってるんだ(笑)。
漁業って、魚を獲ってくるのが仕事だから、
狩りの要素がありますよね。
だけど、山の仕事は
ものすごく謙虚な感じがします。
矢口
そうですね。林業はまず、
木を植えるところからはじめて、
手入れをしながら育てていくのが仕事です。
漁業のように
仕事のたびに収穫をするわけではないので、
謙虚といわれれば、謙虚かもしれません。
糸井
すでにぼくは『WOOD JOB!』を観ているんだけど、
こういうことを聞くと、
ますます、映画におもしろみが出てくるなぁ(笑)。
矢口 (笑)
糸井
映画のなかで木を倒しているシーンがありましたが、
切った材木は、
どうやって山中から運び出すんですか?
矢口
トラックです。
映画にはほとんど登場しませんでしたが、
実際には重機をバンバンつかっていて、
トラックに乗せられる場所まで
切った木を下ろします。
糸井
昔だったら、
川をつかったりしていたんでしょうね。
矢口
そうです、昔は川をつかっていました。
切った木を川に浮かべて
「いかだ」のようにくくって、
下流に運んでいたようです。
映画の後半で、
線路のようなものの上に大きな木を乗せて
ひっぱっていたシーンがあるんですけど。
糸井
ありましたね。
滑り台のようなもの。
矢口
あの木の線路は「キンマ道」と呼ばれています。
木の馬に道と書いて「木馬道」。
昔は、木馬道の上においたソリに材木を乗せて
押したりひっぱったりして運んでいたそうです。
糸井
へぇー。
それが当時のインフラだったんですね。
トラックが入れないような山も
たくさんありますよね?
矢口
あります。
ですので、
先にトラックを通すための林道をつくらないと
木を切り倒しても、山から出せない。
林道がない山は結局、
手がつけられなくなってしまう。
そうなってしまっているところもいっぱいあります。
ですから、山の仕事は、最初は赤字です。
つづけるうちにトントンになって、
それからようやくプラスになる。
一度手をつけそびれた山は、
そこまでもっていくのがたいへんなんです。
糸井 かんたんじゃないですね。
矢口 はい。
糸井
「木」のつながりでいうと、
「ほぼ日」のコンテンツのひとつに
「100のツリーハウス」という
ものがありまして。
矢口
先ほど資料を見せてもらいました。
実はですね、なんとぼくらの映画の撮影現場にも
いくつかツリーハウスがあったんですよ。
糸井 え、あったんですか?
矢口
はい、ありました。
製材所のおじさんが、
自分の工場で余った端材をつかって、
敷地内につくっていました。
ツリーハウスをつくるのが、
そのおじさんの趣味なんです。
糸井
じゃあ、ほかの人が自由に
あそべるものではないんですね。
矢口
いえ、おじさんは好きにつかってね、といってました。
川に張り出すようなツリーハウスで、
毎年、ものすごくたくさんのホタルを
見ることができる場所なんだ、って。
糸井
はあー、川の上でホタルが見える‥‥!
そんなツリーハウスがあったら
理想的だなぁ。
(つづきます)
2014-06-03-TUE