石川
アジアの国が
「元のものを活かす」ということから
思い出したんですが、
「どうしてフランスで
日本人シェフが活躍しているか」も
非常におもしろい問いなんです。
糸井
それも「活かし」てるんですか。
石川
そうなんです。
たとえば南フランスのニースで
レストランをしている
松嶋啓介さんというシェフは
28歳の史上最年少でミシュランを取るんですね。
それで、そのときの料理が
「牛フィレ肉のミルフィーユ」というもので、
薄く切った牛肉にワサビを塗って、
火でパッと炙って出すという料理なんですけど。
糸井
ええ。
石川
松嶋さんがなぜその料理を思いついたかというと、
フランスではいま日本ブームなんですが、
みんな生魚とワサビが苦手なんです。
だから彼は、フランス人にまず
ワサビを食べさせようと思ったらしいんです。
ただ、魚だとハードルが高いから、
片方は人々が慣れてる牛肉にしたんです。
ワサビも西洋ワサビにして。
そうしたら、みんなが絶賛したんです。
糸井
いい話ですね。
石川
だから日本人は、そういった地のものを活かした
半歩先のイノベーションがすごくうまくて
いま活躍してるんじゃないかな、
とぼくは思うんです。
糸井
いまの牛肉のミルフィーユのお話の
「大づかみで考えると、こういうことじゃない?」
という発想、よくわかります。
ぼくは自分がそういった考え方を
けっこうするんです。
たとえばこれ、うちで製作した商品で、
カメラの三脚をテーブルにできるものなんですね。
「ほぼ日のティーテーブル」
と言うんですけど。
石川
あ、おもしろい。
糸井
これがどう生まれたかというと、
動機としては、
「置くだけでミーティングスペースになる
ティーテーブルが欲しいね」
から始まったんです。
「ひとつあると、鳥が水場に集まるように
みんなが集うテーブルがあったらいいね」って。
それで、まずはうちの乗組員たちが
家具や建築のいろんな知り合いに相談して、
見本を作ってもらったんです。
だけど、実際に上がってきたものを見て、
ぼくが全部ダメだと言ったんです。
「あのさ‥‥これ、うれしい?」って。
石川
ダメだったんですか。
糸井
なにが問題だったかと言うと、
テーブルの脚が邪魔だったんです。
つまり、このテーブルで必要なのは上だけで、
脚はないことにしたかったんです。
でも、上がってきたものはみんな
「脚が目立たないように頑張ったんですけど‥‥」
というものばかりだった。
上の天板を支える必要があるから、
足がつい太くなる。
あるいは隠そうとはしていても、
隠すなら工夫が必要、みたいになってて
そこが問題だったんです。
石川
その話、めちゃくちゃおもしろいですね。
糸井
それで、その見本を見ながら
「チームは頑張ったかもしれないけど、
なにが大事かは自分のほうがわかってるぞ」
と思ったんです。
それでぼく、怒ったんですよ。
「自分たちが欲しくないものを
作ってちゃだめだろう」って。
石川
ああー。
糸井
だけど、怒るときって代替案を出さないと
恥ずかしいじゃないですか。
それで、怒りながら考えたんです。
「だからさ、そうじゃなくて、
ないことにする足がほしいんだよ。
どう言えばいいんだろう。
たとえば、なんていうか、
カメラの三脚みたいにさ
‥‥あ。
これ、三脚でやれるんじゃない?」
となったんです。
三脚はぼくの家にもあるんですけど、
伸び縮みするし、丈夫なのも確かだし。
もとが黒子だから
意外と邪魔にされないんですよね。
そこからこれが生まれてます。
石川
すごいですね。
いま、糸井さんの発想のしかたを聞いて
思ったんですが、
糸井さん、たぶん研究者だったら
数学がかなり得意だと思います。
糸井
全然できないんですよ。
石川
いや、得意なんです。
数学って、高校までの数学と大学からの数学が
まったく違うもので、
糸井さんはきっと大学以降の数学が
すごく得意だと思います。
糸井
そういうものですか。
石川
はい。なぜかと言うと、糸井さんは
「ファースト・プリンシプル」
つまり、いちばん最初の原理から
発想してるんですよ。
「このテーブルで必要なのは上側だけだ」って。
ぼくらはこの
原理原則から考えていくやりかたを
「演繹法(えんえきほう)」と呼ぶんですが、
これができるのは数学者なんです。
じつは、ほとんどの人はこの発想ができなくて、
たいていは「演繹法」じゃなくて
「帰納法(きのうほう)」で考えます。
糸井
帰納法は、どういう発想ですか?
石川
大量のデータを集めて、
そこからアイデアを作るんです。
糸井
ああー。
石川
だけど糸井さんはたぶん
演繹がものすごく得意だから、
ぜひ数学をされると、おもしろい定理とかを
見つけられると思います。
糸井
でも石川さんも、話していることは演繹でしょう?
石川
ぼく、演繹が好きですね。
糸井
完全にそうですよね。
じゃあ、演繹の人と話が合うのかな。
石川
たとえば起業家のイーロン・マスク
(PayPal社の前身であるX.com社を設立した人物)
も
完璧に演繹型なんですね。
常に原理原則から考えるんです。
たとえば、ロケットを一つ飛ばすのには
どうしてあれほど金がかかるのかと。
原則から考える──つまり、
部品代だけなら全然安いわけです。
だから、何かがおかしいに違いないと考えて、
ロケット事業に乗り出したんです。
糸井
たしかにそういう発想は好きですね。
「それで結局のところ、
いちばん大事なのはどこだっけ?」
みたいに考えるの、大好きだから。
石川
それです、それです。
糸井
だから、データを集めるだけ集めて、
答えを出さないまま時間が過ぎてたりすると、
もどかしくなることがあります。
だけど「時間をかけるのが大事」というタイプの
物事への視点を忘れるといけないので、
そこは気をつけるようにしてますね。
磨いたり撫でたりが必要なことって、
やっぱりありますから。
石川
そういう話も、ぼくらからするとまさに
「理系の経営者の発想」だと思うんです。
文系の人はそう考えないんです。
つい、売れてるものを追いかけたり、
すでにあるものを組み合わせることで
新しいアイデアを出そうとするので。
糸井
自分はおそらくずっと
文系の感覚を使って働いてきたんです。
ただ、その文系の自分が言っていたことが
申し訳なかったな、ということが
けっこう出てきたんですよ。
だからおそらく、会社をやるなかで
「そっちを取り入れたほうがいいな」と
変えてきたんだと思います。
石川さんもさっき、
変えたって言ってたじゃないですか。
石川
変えましたね。
糸井
同じだと思うんですよ。
必要だから変化したというか。
(つづきます)
2015-08-27-THU
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