石川
先日、ダイエットの本を出したんです。
実はダイエットって
失敗率が異常に高い行為なんです。
いま、人類はロケットすら飛ばせますけど、
おそらく月や火星に人間を送り込むより
自分の体重コントロールのほうが
ずっと難しいんですね。
というのもダイエットは
2000年ものあいだ、
イノベーションが起きてない分野なんです。
糸井
2000年もですか。
石川
はい。
だけどそれだけ失敗し続けてるということは、
ぼくは、そもそも、
「ダイエットの前提自体が
間違ってるんじゃないか」
と考えたんです。
糸井
ぼくもダイエットが好きで
いろいろと試しているんですけど、
やりながらその
「前提が間違ってるんじゃないか」は、
なんとなく感じてました。
とはいえ、自分の中で答えは出てなくて、
いまこうじゃないかな、と思っているのが
「意識を使わなくていいダイエットが理想だな」
ということですね。
石川
意識を使わないダイエット、ですか。
糸井
ぼくはもともと、ぜんそく持ちなんです。
それで、ぜんそくでいちばん苦しいのは、
「何も考えずにできてた呼吸を
意識でコントロールする必要があること」
なんですね。
無意識がやろうとすることを
意識でコントロールしようとするのは
それだけで精一杯で、
ダイエットって、そのぜんそくの苦しさの
軽いものという感じがあるんです。
だから「どれだけ考えないで済むか」が
勝負かなと感じているんです。
石川
ああ、なるほど。
ダイエット自体は
実際にいまもされていますか?
糸井
ずっと続けているのは、
体重の折れ線グラフを作ることですね。
これが、ゲーム性もあって
いちばん良いみたいなんです。
前は食べた内容まで記録してましたけど、
慣れると書かなくてもかまわないみたいです。
石川
あ、なるほど。
糸井
あと最近よく聞くのが
「炭水化物を抜くダイエット」ですよね。
あれ、ぼくも実験してみたんですが、
見事に効率がいいんですよね。
「それだけでいい」というのがよくて、
ちょっとゲーム性が高いんです。
ただ、なんとなくあの減らし方、
すこし危ない方法じゃないかという
気がしていて。
石川
あ、その通りです。
基本的にダイエットをすると
「脂肪」「筋肉」「水分」が抜けるんですが、
炭水化物を減らすと
最初にバーンと「水分」が抜けます。
だから体重の減り自体は、すごく早いんです。
でも、ほんとうに落とすべき「脂肪」が
落ちてるかというと、そうではないんですよね。
糸井
ああー。そうなんだ。
「塩分摂らないダイエット」ってありますけど、
あれと同じなんですね。
落ちてるのは「水分」だから。
「効果が目に見えて励みになる」という部分は
いいなと思うんですけど。
石川
ただ、それも「水分」なので、
あとで戻っちゃうんですよ。
1980年代ぐらいに流行って
みんなが「危険すぎる」と言ってた
「利尿剤ダイエット」と近いかなと思うんです。
糸井
そっかぁー‥‥。
そういえば、最近試してみているものに
「よく噛むダイエット」というのがあるんです。
よく噛んで食べるだけなんですが、
それでエネルギー消費量が増えるらしくて、
大変だけどおもしろい。
食べる量を深く考えなくて済むのと、
よく噛むことで、本当においしいんですよ。
とはいえ、食事のたびに
噛むことを意識し続けるのは大変だし、
そのうち挫折すると思いますけど、
いまはおもしろいと思ってやってます。
石川
けっこう試されてますね。
糸井
ええ、興味があって、
いろいろやってみているんです。
石川
ぼくがどう考えたかというと、
ダイエットというとみんな
「どう体重を減らすか」ばかり話すんです。
炭水化物だけ食べるのか、塩分を減らすのか、
よく噛めばいいのか。
だけど、その「減らす」方向のアプローチで
人類がこれだけ失敗しているってことは、
その問い自体が間違ってる気がしたんです。
糸井
つまり、「減らす」ではない?
石川
そうなんです。
「減らす」アプローチだと、
どうしても、戻るんです。
インストラクターがついて
劇的に痩せられたとしても、
元の生活にしたとたんに、戻ってしまう。
いまあるダイエットって、たいていどれも
リバウンドがついてまわるんです。
だから考えるべきは
「どう減らすか」じゃなくて、
「いかに無意識でできる新しい習慣をつけるか」
なんじゃないかと。
糸井
ああー。たしかに。
石川
ダイエットのゴールを
「無意識でできる習慣が身につくこと」
にすれば、理論的には
リバウンドしないはずですよね。
本当はこれを問うべきなのに、
そこが注目されてなかったんですよね。
糸井
ええ、ええ。
石川
ただ、その
「無意識でできる習慣を身につける」のが
ゴールだとしたとき、
これまでは、
「それはどれぐらいの習慣なのか」
「歩くなら何分ぐらいか」
といったことを出す理論がなかったんです。
そして、ぼくはその理論を
十数年かけて考えて、世界で初めて出したんです。
糸井
具体的にその理論というのは、
どういったものになるんですか?
石川
ダイエットの理論自体は簡単で
「体重の変化は、摂取エネルギーと
消費エネルギーのギャップである」
というものなんですね。
入るエネルギーより出るエネルギーが多ければ、
体重が減りますよね。
その数値が出ればいいんです。
まあ、この数値をだすのが
めちゃめちゃ大変だったんですけど。
糸井
ええ(笑)。
石川
A4で30ページくらいある複雑な式を
いろんな数学者たちと半年くらいかけて
解いたんですけど、
ぼくらはダイエットを
「減らす時期」と
「減ったあと、維持する時期」に分けて
考えていったんです。
そして、
「減らす時期」には
「だいたい7000キロカロリーの
ギャップを作れると、1キロ減る」。
そして、
「維持する時期」に、
1キロ痩せた体重を保つには
「いまより1日に40キロカロリー減らす」
必要があることがわかりました。
糸井
その数字がわかると、
すごくやりやすくなりますね。
はぁー、そのくらいですか。
石川
このくらいなんです。
糸井
あと、ぼくがその石川さんの本で
読んでみたいのは
「人は何があると励まされるんだろう」
という部分ですね。
どんなことがあれば、
ダイエットも習慣化できるんだろうと。
石川
いちおう、その研究だと、
習慣化にいちばん効くと言われてるのは
「行動の記録」なんです。
この行動をやった、やらないっていう記録。
だから本では「行動の見える化」が
できるようなシートを作りました。
糸井
そっか、習慣化に効くのって
「行動の見える化」なんだ。
石川
そうなんです。
そして、こういう研究をしてきて
ぼくらがいま予測してるのは、
人類のダイエットへの発想が、
今後100年で徐々に変わると思ってるんです。
ダイエットというのはいま、
「まず減らして、それからキープするもの」
だと考えられているじゃないですか。
だけど、ぼくの予想では
100年後には
「ちいさな習慣が身につくことが喜びで、
それが身についてから
初めて体重を落とすことができる」
と、変わると思ってるんですね。
こんなふうに、研究で出した成果を
いま、論文で出したり、本にしたりしてるんです。
(つづきます)
2015-08-31-MON
『最後のダイエット』
石川善樹 著
マガジンハウス 1300円+税