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ごぶさたしています!
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矢野 |
ただいまっ!(笑)
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きょうは『しょうぼうていハーヴィ』の
話をきかせてください。
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矢野 |
もうなんでもどうぞ。
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矢野さんが「リトル・ドッグ・プレス」の
担当編集者・大泉有紀さんから
この絵本の翻訳の依頼を受けてから
じっさいに返事をするまで、
1週間の時間があったとききます。
その1週間、矢野さんは
どんなことを考えていましたか?
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矢野 |
基本的には、読んですぐ好きになったので、
これはわたしの役目だ、
というふうに思いました。
今まで、翻訳はほとんど断ってきのだけれど、
これはやってあげたい。
同じ時間を共有した者として、
わたしがやるべきだと思いました。
でも、実際にできるかどうか。
英語がわかっても、翻訳って、
日本語能力がないとできないでしょう(笑)。
だから自分に、この本でマイラさんが書いた、
そして、ここに登場する人たちに失礼のない、
彼らのこころざしがちゃんと伝わるだけの翻訳を
わたしができるかどうかっていうことを
考えました。
それから、ここに付随してくる、
たとえば何か政治的な意図とか、
そういうことはあるだろうかっていうことを、
ずーっと考えつつの1週間だったんです。
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「9・11」のあの事件のことが
ものがたりのなかで、重要なやくわりを
はたしていますからね。
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矢野 |
ええ。
マイラさんのウエブサイトとか見て、
それからやはりアメリカ人の
友だち何人かに見てもらって、
どう思うかっていうことを聞きました。
セカンド・オピニオンみたいな感じですね。
それで、これはやっぱり問題もないし、
わたしさえ頑張ればできる、
っていうふうに思ったんです。
それが1週間かかったっていうことです。
わたしは政治的には中立な立場なので、
特定の政治の側に立つように
見えるようなことがあったら困るな、と思って。
でも、いくら読んでも
そういうことはなかったです。
この本の中にはアメリカ至上主義もなければ、
反テロリズムを全面に出したわけでもなく、
ただ、歴史の一点に大きな出来事があったこと、
そこにおいて、このボートが
できることを果たした、
ということに集約できるとおもって。
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矢野さんのこの翻訳で
この絵本を初めて読んだんですけど、
心配なさっていたようなことは
まったく感じませんでした。
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矢野 |
うん、よかった。
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この街を好きだとか、この街で生まれたとか、
そういう人たちの気持ちがどんなものか、
っていうのを、前半でキッチリ言ってくれたので、
このものがたりがクライマックスにくる前に、
ちゃんと自分が「ここ」の人になっていました。
ひょっとして縁があったら
ここに住んでたかもしれない人になってた、
っていう感じがすごくしました。
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矢野 |
うん、うん。
それと政治がどうのっていうのは
ぜんぜん、違う問題ですものね。
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2001年の9月、あの日、
偶然アメリカにいたイトイが
「今日のダーリン」でこんな文章を書いたんです。
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魚屋は、いい魚を仕入れて売り、
タクシーは事故のないようにお客を送り届ける。
自分のこどもがぜんそくで苦しんでいたら、
すぐに病院に連れていこう。
1年生は、今日憶える漢字を憶え、
恋人は、恋をしなさい。
今日も隣人のために誠実に魚を売ろう。
今日も、愛する人にキスをしよう。 |
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そんな気持ちを、すごくこの本からも感じて。
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矢野 |
うん、そうですね。
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── |
マイラさんっていう人を、
矢野さんはご存知だったんですか?
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矢野 |
わたしは彼女のただのファンでした。
『ニューヨーカー』っていう雑誌があって、
それの表紙も何度か描いてらっしゃるし、
犬が読書してるところの
有名なカードとかもあるし。
犬ものがすごく上手なんですよ。
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ケイト・スペード(kate
spade)の
カバンで、線画でひょろひょろって
描いてある犬の絵がそうですよね。
あれ、かわいいんです。
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矢野 |
そう。あれも、買おうか買うまいか、
迷った、迷った。
わたしもケイト・スペードは、
今まで何千ドル使っただろうっていうくらい、
ほぼ毎シーズン買ってて。
でも、ここらへんでやめて‥‥って、
もう涙をのんで諦めたときだったの。
ところが!
フッと見たら娘が持っていたんですよ。
どういうことよ? これは(笑)。
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青山にお店ができたから
美雨さん、買ったのかも?(笑)
マイラさんって、
ニューヨークの人たちにとっては、
ちょっと特別な方なんですか?
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矢野 |
ええ。あの、ひじょうに、
ニューヨークでしかありえない人です。
その活動の広さから、才能の活かし方から、
存在自体が、ニューヨークそのものです。
けれどこの原書は読んでいなくって‥‥
お話をいただいたときに、初めて読みました。
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じゃあ実際の
“しょうぼうていハーヴィ”のことも
知らなかった?
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矢野 |
知らなかった。
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── |
じゃあ、そんなに、すごく地元で
有名ってわけではないんですね、この話は。
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矢野 |
ええ、そうじゃないと思います。
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ここに描かれているニューヨークは、
なんていうのでしょう‥‥
日本で育っているぼくらが、
いろんな音楽やファッションや小説や映画や、
いろんなものをもらったアメリカそのものだって
気がするんです。糸井重里のいう
「サンキューを言いたいアメリカ」、
ムーンライダーズの鈴木慶一さんがいう
「音楽や、そのまわりはいい」
というその「いい」アメリカ。
この本にはそういうアメリカが描かれていると。
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矢野 |
うん。
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矢野さんのアメリカ、あるいはニューヨークと、
ここに描かれているニューヨークって、
やっぱり、ピッタリ同じものだって
いうふうに思ってもいいですか?
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矢野 |
思いますね。
この歴史の幾層にもなってるものの上に
自分はいるんだっていう気持ちがあります。
わたしの住んでる地域はね‥‥
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