糸井 |
今回のアルバムって、
なににいちばん時間かけた?
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矢沢 |
うーん‥‥どうだろうな。
これまでと違うところにかけた時間でいうと、
ある程度つくったあとにね、
一回、距離を置いたの。
いわゆるミックスダウンまでのあいだに、
ちょっと放り出した時期があって。
それには時間をかけたね。
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糸井 |
熟成させたみたいなことかな。
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矢沢 |
そういうこと。
だから、最後までダーッとつくらなかった。
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糸井 |
昔はそんなことできないよね?
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矢沢 |
できない。待ってらんない。
だからわざとね、長いスパンを想定して、
早くからスタートしてた。
だらだら、だらだら、
ちんたら、ちんたら、つくってた。
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糸井 |
ふーん。
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矢沢 |
オケつくるときは一気にガーンとつくるけど、
歌入れしたあとに眺める時間を長くしたね。
そうすることによって、発見も多いわけよ。
OK、ここちょっと、こういうふうに、
ここ、もうちょっとこういうふうに、
リバーブ、もうちょっとこういうふうに
してみようとかね。
色づけをどういうふうにしようかって
客観的に見て、考えるところに時間をかけたね。
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糸井 |
ぼくもちょっと似たところがあってね。
よく、「コピーをどうやってつくるんですか」って
訊かれたときに答えることなんだけど、
「つくるのは、すぐなんです」と。
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矢沢 |
うん。
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糸井 |
つくるのはすぐなんだけど、
できたそれをすぐに終わりにしないで、
「頭の中の掲示板に、
はり紙みたいにして、はっておくんです」
っていう言い方をよくするの。
そうやって、頭の中にはっておくとさ、
そこに人だかりができるんだよ。
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矢沢 |
いいこと言うねぇ。
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糸井 |
で、「いいね」とか、「悪いね」とか、
「いいと思ったけどわかりづらいね」とか、
「時間が経ったほうがいいね」とか
言うんだよ、頭の中の人々が。
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矢沢 |
はいはい、はいはい。
人々がね。ふふふふふふ。
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糸井 |
架空のオレだったり、
架空のお客さんだったりする人々がね。
で、なんやかんや言われたやつを、
「そうだろうなぁ」って感じながら、
「じゃあ、いいんじゃない」って思えたら
それが完成なんだよ。
つまり、頭の中にはりだして、眺めて、
自分が飽きないようなものはOKなのよ。
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矢沢 |
そうなのよ!
自分が飽きないものがOKなわけよ。
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糸井 |
そうなんだよね。
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矢沢 |
そうなの。ダーッとつくったものは、
飽きるのが速いのか、遅いのか、
そのへんがよくわからなくなるんだよ。
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糸井 |
ほんとうは、つくったほうとしては、
できあがったらそれで終わりにしたいんだよね。
「オレは、もうつぎ行くから」
って言いたいんだよ。
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矢沢 |
そう、そう。
ああ、だから、糸井もコピーライターとして、
ものすごいものをいっぱい
いままで生み出してきたわけだけど、
まさにそういうことなんだね。
よくわかるよ。
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糸井 |
いやいやいや(笑)。
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矢沢 |
まさにそこなんですよ。
つくったあとで、見て、考える時間ね。
ミックスの手前で、一回放り出して、
ぼけーっと眺める時間っていうのが、
大事なんだよね。
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糸井 |
「つくる」の中に
「育てる」っていうのも入ってるんだよね。
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矢沢 |
そうなの。
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糸井 |
生みっぱなしで、さよならじゃなくて、
生んだあともしばらくその背中を見ててね、
あ、もう歩いていけるなって思えたときに
ようやく手がはなれるみたいなね。
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矢沢 |
人と似てるねぇ。
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糸井 |
おんなじだね、うん。
あ、永ちゃんもそうなんだ。
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矢沢 |
そうだね。今回は、とくに。
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糸井 |
ということはあれだね。
これからステージで演奏をこなしていくと、
まだ育つね。
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矢沢 |
かもしんない。 |
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(つづきます) |