(前回までのお話)
諏訪さんの予想に反して
生育が遅れていた日光金谷ホテル菜園プロジェクト。
いつもは「しつもんチケット」の「しつもん」に
バリバリ答えている諏訪さんでも
原因がつかめなかった
生育の遅れの理由があかされていきます。
「まずはこの土をみてください」
諏訪さんが指さすのは、
雑草だらけの黒い土。
「こっちの黒い土は雑草が生えているでしょ。
一方で畑の中は雑草がほとんどない。」
「環境をゼロからつくるプランター栽培と違って
畑でつくる露地栽培が楽なのは
もともとの土にある栄養分を野菜が
吸ってくれるからなんです。
今回、この畑をつくるにあたって
落ち葉が降り積もった肥えた土を
畑の横に取り除いたから
同じ場所でもこちらは雑草が生えていて
畑のほうはほとんど雑草がない。
つまり、この畑はプランターに
すごく近い状態。
栄養分をこちらでコントロールするのが
永田農法ですから
今年は長雨で液体肥料を与えるチャンスが
少なかった。
ほとんど栄養の無い状態で
水だけが与えられていた期間が
長かったことがまず原因です。」
今年の栃木県の日照時間は
例年に比べ、
5月は63%、6月は73%、
7月に至っては43%。
7月の降水量は例年の2.3倍なのだそう。
永田農法による路地栽培にとっては
厳しいシーズンだったようです。
「このトマトをみると
明らかに液肥の回数と濃度をあげてから
茎が太くなっていっているし
順調に成長しはじめているようです。
もともとアンデスの高地が原産地である
トマトですから日光の涼しさとも
あったのかもしれません。」
「キャベツも高地で育つ野菜ですから
こちらも生育はいいですね。
トマトもキャベツも収穫してみましょうか」
キャベツもトマトも収穫しました。
水に沈むのは永田トマトの大きな特徴です。
さっそく、スタッフで試食をしてみると
これが甘い!
むちゃくちゃ甘くないですか諏訪さん!
「うん。ぼくが育てているものより甘いです。」
「ぼくのトマトはもっとたくさん実がなりましたが
このトマトは実の数が少ないですよね。
実が少なかった分だけ
トマトの実に行き渡った栄養が多くなって
その分だけ甘くなっているんでしょう。
キャベツもすごく甘いし、
思わぬ収穫ですが、この場所には
高地野菜がすごく向いているみたいです。
来年はトマトの株数を
もっと増やしてもいいですね!」
でも、諏訪さん、
明らかにうまくいってないものがあります。
このトウモロコシや
サツマイモは生育が悪いです。
「そうですね。他の作物は
液体肥料の与え方で持ち直しましたが
トウモロコシ、オクラ、サツマイモなどは
特に悪い。
たぶん、これは品種と気候が
あってないと思うんです。
この畑より高地の場所で
トウモロコシやオクラがうまくそだっていたら
話は別なのですが
地元の農家の方々がどういうものを
植えているか実際に畑を観にいきましょうか」
ということで車にのって
金谷ホテルよりも高地にあるという
泉さんの自宅のまわりの畑を見学にいきました。
どの畑をみてもインゲンを中心に
元気よく育っているようですが
やはり、トウモロコシやオクラを育てている人はいません。
「ここより下に行った今市あたりでは
トウモロコシをみるけど
このあたりでは全くみないな」
と、泉さんもいいます。
同じように自宅が高地にある
金谷ホテルスタッフの新井さんが
庭先で育てているプランタートマトは
うまく生育しているようです。
「えっ!こんな時期なのに?」
と、諏訪さんが畑でみつけたのは
冬野菜の代表選手であるダイコン。
ここで仮説に対する結論がでてきました。
「まず、新井さんのプランタートマトが
うまく育っていたことで
路地栽培のトマトの生育が遅れたのは
長雨で液肥を与えるタイミングを逃したことによる
栄養不足が原因だということがわかりますね。
未だに生育が遅れているものは
日光の気候とあわなかったのでしょう。
同じ関東だから東京で作れるものは
日光でも作れるかと思って
作付表をつくったのですが
思った以上に東京と日光の気候は
違ったんですね。
サツマイモは『薩摩』という
暖かい土地の名前がついているくらいだし、
オクラはアフリカが原産地だといわれますし
トウモロコシは
長年、このあたりで農家をされている方が
育てていないくらいですから
これからの作付けは北海道くらいの
気候を参考にしたほうがいいかもしれません。」
「いっそ、負けたほうが次につながる」
というオシム監督のように
問題の発見と究明ができて
一安心した我々は
収穫したてのトマトとキャベツをもって
金谷ホテルの厨房に向かいました。
金谷ホテル菜園プロジェクトの最終目標は
「自分たちで作った野菜を
お客さまに提供する」こと。
単においしい野菜が作れた!おしまい!
というわけではありません。
チャレンジ一年目の今年は
お客さまに提供できるレベルの野菜が作れるかどうか?
ということが目標。
ここで厨房から
「この野菜は使えない」とダメだしが出るようでは
プロジェクトは解散です。
どきどきして成り行きを見守っていると
泉さんとシェフがなにやら話し込んでいます。
「で、毎日、どれくらい収穫できる?」
「プチトマトはこれから
どんどんつくれるよ」
「じゃあ、料理長とも相談します」
と、この日は持ち越したのですが
先日、金谷ホテルから
うれしいメールが届きました。
「ようやく菜園のトマトが
ダイニングデビューを果たしました!
料理場から野菜の初オーダー入りました。
そして、オーダーに答えることが出来ました。」
日光金谷ホテル菜園プロジェクトは
ようやく本格始動をはじめたようです。
|