明日から「ほぼ日」では、
『だれでもつくれる永田野菜』という
DVDセットを販売します。
その名のとおり、永田農法の野菜のつくり方を
やさしくていねいに解説したDVDです。
なぜ、このDVDをつくろうと思ったのか?
まずは糸井重里から、ご挨拶をかねて。

糸井 明日3月10日から「ほぼ日」が窓口となって販売する
『だれでもつくれる永田野菜』DVDについて、
ぼくは「世界初のものをつくった」と、思っています。

世界初のデパートをつくったのは?
世界初のマネキンをつくったのは?
世界初の通信販売のカタログをつくったのは?
というように、世界には、
たくさんの「はじめて」があります。

通販の「はじめて」には
いろんな説がありますが、
アメリカのシアーズ・ローバックという会社が
カタログをつくったことがはじまり、
ともいわれています。
アメリカの、田舎に住んでいた人たちが
カタログを使って、
自由に商品の注文ができるようになりました。
こんなふうに、「はじめて」がうまくいけば、
それがみんなのあたりまえになっていきます。

きっと、それぞれの
「はじめて」が起ころうとするときには、
「なんでいままで誰もやらなかったんだろう!」
「これは必要なものだよ!」
という新鮮な衝撃が、あったんだろうな、
と思います。

ぼくたちは今回、
誰が見てもわかる、やさしい、
野菜のつくり方の映像ソフトを
「ほしい。じゃ、つくろう!」と、
思いついたわけです。
それがこうやってできてみると、
「なんでこれまで、これがなかったんだろう?」
と、思うことになりました。
去年、この企画のことを
リリー・フランキーさんに
話したりしていたとき
には、
その話の突飛さに、なんだかみんなで
笑っていたくらいなのに。

野菜のつくり方って、誰に訊ねればいいのか、
ちょっと、わからないでしょう?
たとえば、料理のしかたは、
テレビをつければたいていわかります。
でも、いまの時季に、
どの野菜を植えればいいかは、
よくわかりません。
教えてくれる人をさがそうとしても、
農家は、近所からいなくなってきている。
でも、一方では
「これからは農業だ」なんてことが言われている。
なのに、自分はどうすることもできない。

地方では、農業をやめた人たちが残した、
余った農地がたくさんあります。
都会だったら、河原の空き地でも、山でも、
ベランダでも、学校の花壇の片隅でもかまわない。
野菜を育てることのできる土地は、あります。
種だって、お店に行けば売っている。

だから、野菜の先生をつくろう、と思ったんです。
わかりやすく、
たくさんの人に教えることのできる先生を。

これまで、野菜のつくり方という、いわば技術は、
人から人へ直接伝えるしかありませんでした。
でも、映像なら、それを
すべて「時間」という軸で
こまかく追うことができるんです。
映像なら、できる。
先生という肉体がいないのに
野菜がどんどんつくられていくニッポンを想像したら、
これはもう、たのしくてしかたがなくなりました。

しかも、その映像の先生は、
生産量を上げるコツとか
失敗しないコツとかだけじゃなくて、
おいしくつくるコツを教えてくれるんです。

こんなことを、興奮して
笑い話のようにしゃべっているうちに
「やったほうがいいかもね」と言ってくれる人たちが
だんだんと現れはじめました。
「資金はどれくらいかかるの?」
「どうやって撮影すれば実現するかな」
「育てながらじゃないと、できないね」
そんな相談を重ねました。
そして、静岡で、
永田照喜治先生自らが
1年かけて、いろんな野菜を、
ゼロから収穫するところまで育てて、
そのすべてを撮影することになったんです。

今回は、いわゆる出費者としても、
ぼくたち東京糸井重里事務所が加わりました。
カタログハウスもNHKエンタープライズも
これはお金を出し合ってつくるべきだ、と
この企画に賛同してくれることになりました。
お金だけじゃなくて、
ほんとうにたくさんの人も、出してくれました。
それだけ、みんながやりたかったことだったんです。

きっと、農業をやっている人が
「自分の野菜をもっとおいしくしたい」
と、永田農法について知りたくなったときにも、
このDVDは役に立ってくれると思うんです。
永田先生が野菜を育てるようすを見て
「えっ、そういうやりかたがあったの?」
と知るだけで、
変わるところがたくさんあると思います。

あとね、家庭だけじゃなくて、
学校や会社にも、ひとつずつ、これを置いてほしい。
図書館でいつでも生徒が見られるようになると、いいな。
先生方にも、ぜひ見てもらいたいです。

先日、京都の家の近所で、
おいしいポトフをご馳走になったんですよ。
ポトフをつくってくれた人が
「このポトフには料理本があってね、
 これなんだけど。写していく?」
と、ある本を取り出してくれたんだけど、
それがものすごく古いの。
活版印刷なんですよ。
そこにポトフだのビーフシチューだの、
書いてある。

その本をつくった人の情報は、
時代を超えて、こんなぼくにさえ
「おいしい」と言わせるだけのものを
もっていたんですね。
このDVDがいつか、
あんなふうになればいいなと思います。
DVDは手に入らなくなるくらい古くなって、
でも、それがあったから
おいしい野菜がどこかで育つことになったり、
「うちには菜園がないんだけど
 なんでだか、あるんだよ」
とか、
農家のプロの人でも
「おじいちゃんがおいしい野菜をつくりたかったから、
 うちにはあるんだ」
とかね。

味がいいといわれている日本の野菜のなかでも、
永田野菜はとてつもなくうまいです。
それを、庭先で、ちいさな菜園で
つくることができる、となったら、
高級野菜を求めている諸外国の人たちは
このソフトを
奪い合うようにほしがるかもしれないですね。
かつてローリング・ストーンズやビートルズが
アメリカから輸入されるブルーズの
レコードを奪い合っていたように。

すごい建築をつくったとしても
そこには何人も住めないけれど、
これは、見た人みんながスタートできる。
子どもに渡して孫に渡して、
ずっと使っていくことができる。
自分たちで言うのはなんだけど
ある種の文化遺産をつくったという気持ちがあります。

 
 
(明日から対談がはじまります!おたのしみに!)

2006-03-09-THU