諏訪 糸井さんは以前から
永田農法に関わられてて、
一緒に番組を作ったりしましたけど
それはお互い業務範囲というか(笑)
ある意味、簡単に出来る仕事だったと思うんです。
今回のDVDはもっと原点から
ほんとにお金もマンパワーも含めて、
ゼロから全部作ろうという仕事は
そうあんまりないと思うんですよね。
糸井 ないない。
諏訪 ほんと失敗するかもしれないし、
どうなるかわからないから、
ぼくらも同じ心境だったんですけども、
ほんとこれについては、
ゼロから作りましたよね。
糸井 そのベースとなっているのが
永田先生にヨーロッパに農業視察に
連れていったもらった経験なんです。
ワイン畑もみたし
パリで一番有名な果物のお店にもいったし
オランダの温室栽培も
ベルサイユ宮殿の農園もみたけど
全く参考にならないというか
先生にうかがうと
「全部これは違うんです。」
というじゃないですか。
そうすると自分で作るしか
方法はないんですね。
だからヨーロッパに行かなければ
これを作ろうとは思わなかったと思います。
諏訪 なるほど。
糸井 同じものをたくさん作れるとか
効率よくトマトを運べるとか
そんなことは
おいしさとは関係ないじゃないですか。
一方で日本の野菜は中国とかにも
輸出してますよね。
諏訪 そうですね。
果物や高級品は、
逆に海外行っちゃってますよね。
さくらんぼなんかは世界で
日本しか作れないですからね。
糸井 それがなんと、
作り方さえわかっていれば、
ニアリーイコールで作れるっていう。
かっこいいですよー。
あなたも今日から
シルクドソレイユみたいなもんですよ。
諏訪 いきなりアレグリアですか?
糸井 いきなりアレグリア(笑)。
でも、野菜作りだったら有り得ますよ。
大量生産品じゃなくて、
一個ずつ顔が違うけど
世界水準のものにあなたはさわれますよ。
その作者になれますよって。
これはアートだと思うんですよね。
諏訪 また、でき上がるのが
そんじゃそこらの野菜じゃない。
売ってたとしても高い野菜。
めったに食べられない野菜が
自分で作れてしまう。
買って食べてもおいしい永田野菜が、
自分で作れてその場で収穫して
食べれるわけですから。
これはお金で買えない喜びです。
糸井 機械や工場に象徴されるもので、
価値基準ができていった時代が長かったから、
こういうアートに近いようなものを
頭の中で理解するのは
むずかしいんだと思うんですよ。
でも、企業戦士じゃない奥さんとかは、
「せっかく食べるんだから、
 おいしいもの食べましょう」
と、意外にすっと移行してる。
よくマスコミが旦那が働いている間に
高級ランチを食べてる奥さまがた
という書き方をするけど
それは書くほうが間違いだと思うんですよ。
おいしいものをめぐるって、
人間、誰だってめぐることですよね。
「旦那もやれば?」
ということですよ。
諏訪 そうですね。
旦那は夜の接待とかで
やってるんですよね(笑)。
糸井 食べることを忘れて、
無駄話とか仕事の話をしてるから、
文化が両立しないだけですよ。
食べるために、行脚してる奥さまがたがいたら、
オッケーだと思うんですよ。
それを批判するよりは、
その消費する文化があるから、
作る人がいるんだという
この循環に目を向けるべきで。
その意味では、ほんとに時代を変えるのは
工業社会にどっぷりつかってなかった人たち
じゃないかと思うんですよね。
諏訪 なるほど。
糸井 その世界では家庭菜園は
シンボルですよね。
それだけ労働して、
いくら分採れたんだって言われても困りますよ。
諏訪 そこはお金に変えられないですよね。
糸井 変えられない。
子供を育てるのも
「いくら分仕事したら
 いくらの子供になった」
とは言わないですよ(笑)。
 
(つづく)

2006-03-15-WED