第4回 最悪の場所こそ、最高の畑になりうる。

諏訪 「おいしさのつくり方」という本を
書いたこともあって
永田農法に関する質問が届くのですけど
肥料はどこで手に入れたらいんだとか
という基礎的なものに混じって
「水やりは1週間に1回って書いてますが
 にんじんの場合には、
 最後の収穫の何日前まであげたらいいんですか」
というような具体的な数字を
聞いてくる質問があんがい多いんですね。
糸井 なるほど。
諏訪 今回の「しつもんチケット」への
お答えもそうしていこうと思うのですが
「にんじんだったらこうなります。」
と具体的にお答えはしますが
必ずそこに
「あなたの畑や土壌や天候。
 つまり、その年にゆらぐものです。
 今回、お答えするのは
 あくまでも、基準値であって
 この通りやっても、
 あなたの畑では違う結果がでることも
 逆に思わぬ大収穫になることもある。
 そういう部分も楽しむ商品なんですよ」
と、書いてお返事をしています。
糸井 料理もそっくりだよね。
そのときの白菜の味が違えば、
もう鍋の味が違うし
カレーを作るのがおもしろいのは、
その都度、失敗するからですよ。
諏訪 うんうん。
糸井 ほんとに成功したカレーって
思えば一度もないんですけど
カレーはおいしいんですよ。
だけど、心の奥では
「これは違う」と思う。
まだ天井さわってない感じがするから
また作りたくなる。
諏訪 ぼくも野菜作りを15年やってますが
ぜんぜん、満足感がなくて、
もっともっとうまくなるはずだと思うし。
糸井 うれしさはあるんですよね。
にこにこしながら、ちがう!って(笑)。
諏訪 そうなんですよね。
全然うれしくなかったら、
さじなげてやめちゃうんですけど、
たしかに満足感があるんですよ。
糸井 イッセー尾形さんのひとり芝居の中に、
河川敷で家庭菜園でやるコントがあるんです。
あれを見たときに、
ああ、そんな時代になったんだって思って。
思えば、イッセー尾形さんの稽古場が
多摩川べりにあるから
それを見てたんだなぁと思ってね。
諏訪 電車に乗って車窓を見ると
川だけじゃなくて、
線路の横におそらく
JRとか鉄道会社が持ってる
微妙な土地があるんですよ。
糸井 微妙な(笑)。
諏訪 間違いなく鉄道会社のもちものなんですけど、
ようするに線路脇が菜園になっているんです。
糸井 基本的には坂ですよね。
坂って、ぜったいおいしいものができやすいんですよ。
水はけも日当たりもいいし。
諏訪 特に永田農法の原理から言うと
そうですからね。
糸井 オレ、あの坂が、
このDVDの狙い目だと思ってるんですよ。
昔、河原に自然に育っていた菜の花を摘んで
食べたことがあったんだけど、
今までの人生で一番おいしい菜の花だったの。
また採りに行こうって
何回も言ったくらいうまかった。
その後に、永田農法知ったんですよ。
斜面で、砂地で、誰も肥料をあげないところで、
日当たりがよくて、河原で風がふいて、
寒暖の差がある。
たまたま最高の条件が整っていたんだけど
仕事には絶対にしない場所ですよ。
あれが、このジャンルのおもしろさだなって。
広大な広い土地って言ったら、
みんな北海道思い出すけど、
これは非北海道のものですよね。
諏訪 北海道の余市で栽培されている
永田野菜のトマトが一番好きなんですけど
あの畑も日本海に面した斜面ですよね。
うちの畑も真っ平らなものと斜面があるんですが
永田先生に相談すると
斜面の畑をおすすめされたんです。
実際に両方で永田農法で作っても
斜面の方が野菜の出来がいいんです。
これは永田農法に限らずだけど
斜面の方が水はけがいいし
冬でも土が凍らないですから。
糸井 商売にするには、
仕事が大変になるし、
たくさん採れないから
きっとみんな避けちゃうんですよね。
だから、ほんとに趣味としての農業だったら
斜面につくって育てるくらいの人が、
これからの時代は出てくる可能性がありますよね。
諏訪 そういえば、斜面に、
区画がいっぱいあるような
市民農園って
今まで一回もないですね。
糸井 土地としては、最悪の場所でしょ。
昔の枝豆がおいしかったのって、
どうでもいい斜面やあぜ道に
タネを蒔いたからであって
ここは誰もやらないんだよねっていう場所を、
どういうふうに使うかということは
農業としては、道があると思うんです。
その流れで言うと、
学校のはじっこなんかも、
最高ですよね。

2006-03-17-FRI