諏訪 (会場のお客さんにむけて)
みなさんのお手元にトマトジュースが
1本ずつ渡っていますでしょうか。
おみやげに持って帰っていただいても
もちろん、かまわないんですけれども、
もしよければ、
ここで飲んでいただければと思います。
このジュース、
「永田農法」という栽培方法で作ったトマトから
できたものなんですよ。
いま飲めるかたは、よく振って飲んでみてください。
かなりどろどろとしてますけども。

ぼくは、永田農法の仕事に出会ってから、
「百聞は一食に如かず」
という言葉を思いついたんです。
どんな話をするよりも、
これを飲んでもらったほうが
すべてをわかってもらえるんですよ。

このトマトジュースには、塩も、砂糖も、
なんにも入ってません。
ただ単にトマトをしぼっただけですが、
ほんとに奥深い味わいがすると思います。
寒いときなんか、あっためるだけで、
高級なレストランのトマトスープのような
滋養に満ちた味がするんですけれども、
これ、そんなに特別なやりかたで
作られたものではないんです。

このトマトのジュースに出会ったころから、
ぼくの農業についてのいろんな仕事は、
はじまっていくことになりました。
糸井さんが、永田野菜に
出会ったときの印象は、どうだったんですか。

糸井 いやー、まずびっくりしたんです。
ひと口飲んでね、
「なにかしかけがあるんですか?」
って聞いたんですよ。
砂糖が入ってるとしか思えない甘みがあって、
ほんとうにびっくりした。
もし、気が向いたら、みなさんも
近所のお店に売ってるトマトジュースのいいやつと
飲みくらべてみてください。
次元が違うんですよ。
この違いは、
ジュースの作り方の差じゃないなと思って
「こういう種類のトマトがあるんですか?」
と聞いたら、あるんです、と。
ぼくは、それから取り憑かれたようになって、
飲料のメーカーの人に話を持っていったんです。
とんでもないものが、しかも、
だれもがわかるおいしさのものがあるんだけど、
この会社で出さない?って。
でも、生産している量が少な過ぎるんで、
大きいメーカーがのっかっちゃうと、
トマトが足りなくなっちゃうってことがわかった。
それはおかしいなと思ったんです。
大勢の人に配る力のある飲料の会社が間違ってるのか、
それとも、少ししか作らない側が間違ってるのか。
両方ともなんか違う気がした。

たくさん作ってたくさんの人に飲んでもらえたら、
ちょっとずつ安くなるでしょう。
だから、作り手を増やせばいいと思ったんです。
作り手が増えない原因は、
簡単に政治のせいだとも言えないし、
きっとたくさんあるんでしょう。
でも単純に、この味のトマトを
作る方法があるんだったら、
それをみんなが知って、
作りたくなればいいなって思ったんです。

柳瀬 実は私、小さいころ
トマトジュースのあの味が好きじゃなかったんです。
まあ、いまは、わりと好きだったりするわけですけど、
いわゆる市販のトマトジュースをきらいなかた、
手をあげていただけますか?
‥‥だいたい半分くらいいらっしゃいますね。
いま、手をあげたかたで、
この永田農法のジュースを飲んだかたは?
‥‥で、このジュースが苦手だったかたは
いらっしゃいます?
というと、手をあげないと思うんですけども。
一同 (笑)
柳瀬 ぼくも以前、糸井さんの事務所で
このトマトジュースをいただいたときに、
「これはトマトジュースじゃないな」と思った。
今まで飲んでた、缶に入った
ちょっと小ぶりのトマトジュースとは、
まったく違う、別の商品でした。
トマトジュースって
味の好き嫌いはともかく
こういう味のものだ、と
みんなすり込まれていたと思うんですね。

そこで、ぼくは、
ポパイのほうれん草の缶詰めのことを
連想しました。
そもそも、なんであんなアニメができたかって言うと、
アメリカのほうれん草の缶詰めって
すごくまずいらしいんです。
食べたこと、ないんで、あくまで伝聞情報なんですが。
だけど、栄養があって健康にいいもんだから
子どもたちに缶詰めのほうれん草を食べさせるために
あんな漫画を作ったんだそうです。
日本人のぼくなんかは
なんで、ほうれん草を缶詰めで食べるんだろう?って
よくわからなかったんですけどね。
おそらくアメリカ人からすると、
「ほうれん草の缶詰? ああ、あの味ね」という
ステレオタイプがあるんじゃないか、と思うんです。

トマトジュースも、
アメリカで生まれた味、パッケージが
おそらく日本でも受け継がれて、
現在に至っている、と思うんですけれども、
これまでの、みんなが思い浮かべる
トマトジュースの味やパッケージというのは、
なんとなく、
「トマトジュース? ああ、あの味ね、あの缶ね」
というステレオタイプの枠に
入っちゃっているんじゃないか、
という気がするわけです。

ところが、ゼロから作った永田さんの
トマトジュースを飲んだら
それが、違うモノになっていることに気づきます。
フルーツパーラーでやってるような
ミキサーでガーッと作った
あのフルーツジュースのように
どろりとして、雑味がなくて、
甘くて、するっと飲める。

今までのトマトジュースとは異なるパッケージで
こうしたトマトジュースが飲める。
となれば、今までのトマトジュースとは異なる
新しい市場、新しいお客さんを
つくれるのかな、と思いました。

 
(つづきます)
2005-05-01-MON