食べ物がブランディングされて
高く売られたという話で、
みなさんご存知のケースがあります。
何かというと
「関サバ、関アジ」なんですよ。
「関サバ、関アジ」っていうと、
大分の佐賀関半島と
四国愛媛の佐田岬の間の豊予海峡で捕れる
アジとサバで、
太平洋と瀬戸内海の潮が入り混じり、
えさが豊富なうえ、早い潮に鍛えられて
身がしまっているから、とてもうまい、
ということで、
むかしから地元では有名だったんですね。
けれども、実際にいまのように
有名ブランドになったのは
1990年代に入ってからです。
アジやサバは、日本各地でとれますし、
「関サバ、関アジ」だけが
おいしいわけじゃない。
他にもおいしいサバやアジはあるはずなんです。
じゃあなぜ、「関サバ、関アジ」だけが
飛びぬけたブランドになったのかっていうと、
大分の地元漁協が、非常に丁寧に、
ブランディングしたんです。
漁協の人達が「物語」を作ったんですね。
一本釣りで身を傷つけない、
必ず活締めをして鮮度を保つ、
といったぐあいに
「関サバ、関アジ」の定義を
自分たちで作ったんです。
それから、流通にも知恵を絞って
一匹一匹にブランドのタグをつけたり
販売先をちゃんと把握したりしたんです。
スーパーや安い飲み屋で
関サバ関アジの切り身が売ってたり、
単品料理で出てきたりしますが、
かなり怪しい商品、あるでしょうね。
手間をかけて一匹一匹流通させてますから、
値段もふつうの新鮮なアジやサバと
ひとケタ違いますし、
そもそも数もそんなに出ない。
これって、
いっさいセールをしない、
正規の販売店以外では売らない、
といったファッションや
アパレルの高級ブランドの
ブランディングとそっくりですよね。
その裏には
ここ十数年のあいだに、
クール宅急便のような
物流技術の進化もあって、
地元から首都圏に鮮魚がいきのいいまま
出荷ができるようになった
という追い風も、あるにはあったんですけど
ただ、技術進化だけで、
売れたわけではないんですね。
さきほど糸井さんがおっしゃった、
工業製品の高いもの、
たとえばロールスロイスでやってるようなことを、
アジとサバのような大衆魚でやったところが、
非常に目新しかったわけです。
で、実際に魚がおいしかったから、
それがブランドとして定着した。
この関サバ関アジの成功をみて
全国の漁協の人たちがみんな学び始めて
大間のマグロとか、松葉のサバとか、
地場の魚のブランドが
メジャーになってくるわけです。
「これは高いけど、高いからおいしい」
「高いなりの理由がありますよ」
っていうのを時間をかけて、
お客さんたちに知ってもらって、
「関サバ、関アジ」っていうのと
「街場で売ってるふつうのアジ」っていうのを、
同じアジでも別だよっていう、
物語を作ったんですよね。
さっきトマトジュースの話をしましたけど、
缶で売ってる普通のトマトジュースが悪いって
言ってるんじゃないんです。
既存のトマトジュースはたくさんの人にちゃんと
愛されて、だから市場があるし、
たくさん売れている。
要するに、
缶のトマトジュースと、
永田のトマトジュースとは、
ぜんぜん別の分野の、
ちがう価格帯のものである
ということを言いたいんです。
例えば、ロールスロイスとカローラは、
「車の形をしていて、移動手段である」
という意味では同じだけども、
それを使うシーンやスタイルは
きっと全然ちがったものになっていますよね。
アルマーニとユニクロも、別のものである。
そうして、アルマーニとユニクロ、
ロールスロイスとカローラっていうのは、
それぞれのジャンルで成功してるわけですよね。
おそらくこういう野菜の世界で、
ブランドを作るということは
お客さんが、
どういうシーンでどうやって食べるのか、
この価格をどうやって納得させるのかっていう、
物語のところまで、作り手と売り手が、
丁寧に作っていく必要があると思うんです。
|