第5回 ほったらかしにしている子が一番育つ。

諏訪

ちょっと話題が変わりますが、
農業の新しいあり方とか、可能性ってことで
いくつか、例をあげたいと思います。
今日の会場になっている
パソナのO2(オーツー)みたいに、
企業が都会のビルの中に地下農園つくっちゃったり、
渋谷区が幼稚園の屋上や廃校になった中学校の屋上を
畑や市民農園にするような動きがあります。
自分たちが野菜を育てられるような環境を作ったり、
野菜や農業のことを考えていこうという動きに
なりつつあると思うんですね。

笠間市のクラインガルテンなんかだと
ちょっと広めのワンルームぐらいの野菜畑があって
バンガローがあって
寝泊まりできるようになっているんです。
ある意味、別荘みたいな感覚で、
そこが借りられるようになってるんですけど
すごい人気で、いま順番待ちなんですよ。
私が住んでる八王子のほうでも、
市民農園の募集がはじまると
倍率が10倍とか15倍になって、
なかなか順番がまわってこない。

やりたい人、作りたい人はいっぱいいる。
一方で、休耕地もあまってるんだけど、
両方が結びつかないから、
野菜作りができないんです。
こういった問題がある中で、
これから家庭菜園をとりまくビジネスは、
生まれてくると思うんですよ。

例えば、賃貸アパートを紹介する不動産屋のような
家庭菜園不動産屋とか、
農業とサラリーマンを結びつける職業紹介業とか、
笠間市みたいな宿泊施設つきの農園とか、
家庭菜園向けのインストラクターを養成するとか、
そういうビジネスもあると思うんですけど。

糸井 これまでは、実際に
野菜を作って売るという、
プロとしての仕事の話をしてきましたけど、
これからは、作ること自体が、
エンターテイメントになり得ると思うんです。
スポーツジムでだって、
重いバーベルあげて、汗水たらしてさ、
それこそ、うわー筋肉痛だ!って
喜んでお金を払ってるわけだから、
ものを作ることそのものが
実はものすごく大きなお楽しみである、と。

海釣りでよく言うんですけど、
ボートを3人で3万円で貸し切りにしたとします。
そこで釣れた魚を見て、
「高級料亭で5〜6千円するぜ」
って言うんですけど、
もと取れてないんですよ、どう考えたって(笑)。
でも、そんなことを言って
自分を納得させてる人も含めて、
あれは自分の労力を使うという遊びをしてるんです。

その意味では、家庭菜園も典型的で、
手間かけて、お金使って時間使って、
親戚んちに配ってよろこんでたわよ、
なんて言っても
実はその親戚は、野菜なんて
ほしくないのかもしれない。

たぶん、家庭菜園というのは、
カラオケほど迷惑じゃないけど、
気持ちのいいカラオケなんですよ。
みんながやりたいのは、
オレの話を聞けってことなんですよ。
お父さんもお母さんも子どももね、オレの話を聞け!
って言い合ってるわけです。
オレが作った料理、おいしい?って言うときには、
オレが料理に託した話を聞け!ってことでしょう。
子どもがディズニーランドに行って、
お母さん、見ててー、って言うのは
オレの楽しみ方を見てろってことでしょう。

みんなが、オレの話を聞けって言ってる
今みたいな時代にとって、
野菜を作るということは、
最高のたのしみになると思うんですよ。

柳瀬 うちのおやじが、今72歳で、
浜松で家庭菜園をやってるんですね。
銀行員だったんですけど、
引退してヒマになったら、
近所の空いてる農園を借りて、野菜作って
私の弟と妹それぞれの家庭に
毎月段ボール2箱分くらいの野菜が
突然、送られてくるんですね。
うちも、一人で暮らしてるのに、
じゃがいも、さといも、いんげんとか、
とにかくたくさん送ってきて・・・。
とても食べきれない(笑)

戦前生まれですから、
そうすると農家の出身じゃなくても、
農作業みたいなことはどうやら
一通りやった経験があるんですよね。
土をいじってるリアリティがある。
戦争直後の貧しい時代に
野菜はどうやって作ればいいっていうのが、
ちゃんと体に備わっているみたい。
60年ぶりくらいにやっても、
ちゃんと覚えてるらしいんです。
そうやって土をいじる世代かどうかっていうのが、
1940年代の真ん中生まれくらいから、
一回切れてるような気がします。
多分、糸井さんくらいの団塊の世代の方くらいから、
東京とか大阪とか
地方都市でも町場で育った人だと
土をさわらないまま
60歳くらいになろうとしてるって方、
けっこう多いと思うんです。

糸井

家庭菜園ってのおもしろさって
植物そのものの生きる力を
最大に活かすってことだと思うんで、
基本は子供の育て方と同じですよ。
バレエ習わせて、バイオリン習わせて、
塾に行かせて、こんなにやったから、
ほら、こんなにいい子だって言いたいけど、
ほんとうは、ほったらかしにしてる子どもが
一番いきいきと育ったりするじゃないですか。

それとけっこう似てて、
ものを育てるときに何が必要かといったら、
それはほったらかしておけ、
って言ってくれる先輩だったり、
あるいは、混乱してるときに、
これだけでいいんだよ、という人だったりする。
苦しみや壁にぶつかることを
先に知ってる人達が、
実はありがたいんだと思うんです。

だけど、いっぺんにその先輩たちを
たくさん作るわけにいかないから、
「だれでもつくれる永田野菜」という
DVDを作ったんですよ。
あ、ちょっと宣伝めいたことを
‥‥どうしても広告屋出身なんで(笑)。

でも、これを一通り見ておくと、
あらゆる野菜で同じことが
いっぱいあるなってことに気づくと思うんです。
約50種類の野菜を紹介していますけど、
基本的に同じってこととか、
でもここがちがうってことが、
わかってくるんですよ。
大事なことは何かとか、
ここではやらないことがいい、という判断が、
だんだんつくようになってくると思う。
そして、誰かに
野菜づくりのことを伝えたくなったら、
自分はどんな仕事をできるヤツか
わかるかもしれない。

今までの農家の人達は、
無口でだまって
自分のことをやってる人が多かったんで、
野菜のことを、結果的に
周りに伝えることができなかったのかもしれない。
「都会もんに何がわかるんだ」って
人が出てくのを待つことになってしまっていた。
教えたくてしょうがないけど我慢してるような人が、
例えば、老人の施設やら、
マンションの屋上とかで教えたり、
保健室の先生みたいに、
各学校にいたっていいじゃないですか。
そういう人材が
どんどん必要になってくるだろうな、
ということに、
ぼくは非常に興味がありますね。

 
(つづきます)
2006-05-10-WED