矢沢永吉の開けた新しいドア。
「ほぼ日」特別インタビュー2003。

第1回 「アメリカは、そんなんばっかりよ」

※ 矢沢永吉さんが、
 ディズニー『ピノキオ』DVDに収録の
 主題歌『星に願いを』ボーカリストとして英語で歌う?
 本日、6月6日まで、歌手を内緒にしていたため、
 「外国人のアーティストが歌ってると思ってた!」
 と話題沸騰……このディズニーとYAZAWAの結合には、
 「ほぼ日」糸井重里も、直に関わっていたわけでして。
 言いたくてたまらなかった情報解禁日当日に、いきなり、
 『星に願いを』レコーディングの話を、おとどけします!


矢沢 『星に願いを』は、
関係者で聴いた人間、
みんな、イイって言うね。

関係者に聞いたら、
「最初は、気づかない」って言うの。
糸井 でしょう? 永ちゃんだとは気づかない。

曲の最後のところで、
ヤザワ味を、バーンって放り込んでるじゃない?
あそこのところで、
「あれ?……でもなぁ」みたいな。
英語がちゃんとしてるから、外人だと思うらしいの。
オレには、英語のことは、わかんないんだけど。
矢沢 レコーディングの時、外人から
「プロナウンス、めっちゃくちゃイイ」
って言われたもん。
「言わなかったら、日本人が歌ってると思わない」
っていうふうに……。
糸井 そうなんだよ。
ふつうに聴いていると、
「日本人が歌ってる」って思いつかないから、
永ちゃんって、わからない。
矢沢 自分で言うのもおかしいけど、
発音、けっこうよかったと思うよ。
かなり意識して、発音したから。
糸井 やっぱり、歌用の発音の練習とかって、あるの?
矢沢 うん、あるね。

まぁ、ちょっと生意気なこと言うと、
オレ、鍛えられたもん、昔、やっぱり。

いちばん最初に、アメリカで
『YAZAWA』ってアルバムを作った時に。
糸井 泣かされたって話はあるよねぇ。
矢沢 うん、英語バージョンのアルバム、
今からそれこそ、約20年ぐらい前だっけ。
あれをやった時には、もう……
糸井 「泣きたくなった」って言ってたよね。
矢沢 なんでRとLの発音が
こんなにむずかしいんだって思ったし。

プロデューサーが
「LITTLE GIRL♪」ってやるから、
「LITTLE GIRL♪」ってオレも歌うと、
「ノー、ヤザワ。LITTLE GIRL!」
「どこが違うの?」って。

3回ぐらいやらせて、
「そう、それ、その発音!」って言う時も、
オレ、違いがわかんないんだよ。
「さっきと今と、どこが違うの?」
それ、ずーっとやってて。

そういう時代が、
20年ぐらい前にあったでしょう?
そういうところから、
アメリカ人とはもう長くつきあっているし、
イングリッシュ・バージョンの歌入れも、
もう、何度かやっているから。
糸井 あぁ……。
矢沢 そういうのを、
経て経て経て、来てるからね。

だんだんだんだん…
まあ、しごかれてきたわけよ。

しごかれてしごかれて来ているから、
今回の『星に願いを』の録音は、
そんなに、やり直し、なしよ。

イントネーションの弱いところを
ちょっといじるくらいで、
スリーテイク歌ったら、余裕でおしまいだもん。
糸井 『星に願いを』って、
実はむずかしい歌だよね、あれ。
矢沢 むずかしいよ。

情感を入れつつ、
プロナウンスをちゃんとやりつつ、それで、
どっかの部分で、ヤザワ節を入れたいじゃない?

矢沢のハートを、ちょっと、どっかに入れたい。

「やっぱり、ヤザワ節だよな」
とか、どこかでは、言われたいじゃない?
糸井 うん。
曲の最後は、ダーッと、
「あ、これ、永ちゃんのびのびとやってるなぁ」
って感じに聞こえていたね。
矢沢 レコーディング行った時に、もう、
俺は知ってるやつばっかりだったわけよ、
一緒にやるミュージシャンたちも。

ギターは、マイケル・トンプソン。
パーカッションは、ルイス・コンテ。

ルイス・コンテって言ったら、去年の
アコースティックツアーで一緒にやったヤツよ。
グラミー、取ってる人だもんね。スゴ腕。

今回のプロデューサーからは、
「なんか、ヤザワって、
 L.A.、みんな知ってるのね」
みたいに言われたから、
「そうか。ビビることはないんだ」みたいに。
糸井 え? じゃあ、多少は、緊張感が?
矢沢 そりゃ、緊張するよ。

英語バージョンの歌を入れる時は、
やっぱり、ビビるよね。

発音を意識すればノリが悪くなる。
ノリばっかりで行けば、
ちょっと、発音がダメになる。


だから、その両方を成立して、
それで、ヤザワの味もちょっと出したい。
だから常にこう、何度も歌って準備して……。
糸井 へぇー。そういう風に、見えないけど。
矢沢 だから、それぐらいの
カタい気持ちで行ったんだけど、
意外と歌入れはすんなりいっちゃったのよ。
「ポンッ!」って入っちゃったの。
「あ、おぉ、ラッキー!」みたいな感じで。
糸井 キーをちょっとずつ上げたんですよね。
矢沢 上げた、上げた。
糸井 そういうところも、相当やりこんでる。
矢沢 キーをとにかく意識した。
オレはどっちかっていうと、キーが高いんです。

ところが、
「低いところのタッチが、すごくイイんだよな」
と教えてくれたのが、
ナラダ(・マイケル・ウォルデン)なの。

『Tonight I remember』を歌ったとき、
矢沢のイイ吐息感が、すごく出てて、
「あ、低いの、アリなんだ?」とは思っていた。
(※2000年にナラダ・マイケル・ウォルデンが
  プロデュースしたクリスマスアルバム
  『music of love』にスティービー・ワンダー、
  スティング等と共に、唯一日本人アーチストとして
  参加したのが、矢沢さんなんです)

だから『星に願いを』も、最初は低く入ったわけ。
だけど、今度は低く入り過ぎちゃったから、
「なんかおかしいな?」ってことで、
ちょっとずつ、キーが上がっていったのよ。
糸井 それは、自分で歌いこんで……?
矢沢 うん。

歌いこんで、あ、これは低すぎる、
もうハーフ・ステップ、もうハーフ・ステップ、
ってやってたら、結局2音ぐらい上がっちゃって。

プロデューサーに電話を、ワーッてして。
「ちょっと待て! もう1日ちょうだい」
って言って、結局、デモテープを録る前に、
4回ぐらい、キーを変えたからね。

それも、本番前の話だから、
「もうこれでいこう!」ってなった時に
ミュージシャンが集まって、
新しいキーで、みんな、ダッて録るから、
基本的には、みなさんに迷惑はかけちゃいないわけ。
糸井 今回のスタッフも、腕のいい人ばっかりだし。
プロデューサーも、向こうじゃすごいらしいね。
(※『星に願いを』のプロデュースは、
  映画『ターザン』でフィル・コリンズを起用、
  映画『ラマになった王様』でスティングを起用の
  大物プロデューサー、グスタボ・ボーナーが担当)
矢沢 うん、あの人、
スティングから何から、
みんなプロデュースをやってる。

ところがイトイ、
アメリカにいると、そんなんばっかりよ。

誰のプロデュースやっただ、
彼をやっただ、そんなんばっかり……。
まぁ、そういう意味じゃ、幸せだよね。

20何年前から向こうに行って、
いろんな歴史を作ってきたじゃない?
あのギターを入れたって言ったら、
「誰々とやってる」と、もう世界的なヤツら。
そういうのが、いつのまにか、
仲間になったり、仕事を一緒にやったり。

刺激を受けるじゃない?

そういうことがあるから、
今日の矢沢にも繋がっているところは、
あると思うし。
糸井 今回の刺激は、また、あったですか?
矢沢 ありましたね。
あと、やっぱり何と言っても、
ディズニーワールドの仕事と矢沢が、
どう結びくのかというところのおもしろさ?

また、矢沢って、すぐ食らいつくんだよね。
「おぉ、やろやろ!」
「そりゃおもしろい。やろう!」って。
糸井 永ちゃん、
断ってもおかしくない仕事だけど、
「やったらおもしろいよね」というか……。
矢沢 もう、話聞いてすぐわかったもん。
「ディズニーのピノキオの
 『星に願いを』、矢沢さん、歌わない?」
って、イトイらしいなぁと思ったし、
矢沢は、すぐ飛びこむから。
糸井 決断、早かったねぇ(笑)。
矢沢 やっぱり、
「なんで矢沢が『ピノキオ』の歌をうたうの?」
っていう発想のおもしろさが、あった。

だけど、やる限りは、
「これ、だれ歌ってんの?」って言われたいし。
糸井 言わしたいよね。
矢沢 そりゃ、言わしたいよ。
糸井 だからこそ、
「永ちゃんが歌ってる」
って知らせる解禁日までは、
「誰だっけ?わかんねぇな?」
とか、そういう風に聴かれた方が
おもしろいなぁ、と思って……
矢沢 知ってるミュージシャンに聴かせたら、
「……誰が歌ってるかと思ったよ!」
「あれ、ものすごいよかったです!」
みんな、そう言うんですよ。うれしいよね。
糸井 うれしいねぇ。

レコード会社での発表の時も、
「まず、歌を聴いてください」
ってやったら、反応、最高だった。

レコード業界全体に、なんかこう、
ダルな雰囲気が流れてるじゃないですか。
「いろいろ考えれば、
 いろんなことができるんだな」
っていう、いい刺激になったと思う。
矢沢 うん。
企画ものと言えば
企画ものかもしれないけど、やる限りは、
「うわぁ、これはこれでステキじゃない?」
と言われるようなものには、上げたいよね。
糸井 それ、実現できたよねぇ!

(つづきます!)

2003-06-06-FRI


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