矢沢 |
『星に願いを』は、
関係者で聴いた人間、
みんな、イイって言うね。
関係者に聞いたら、
「最初は、気づかない」って言うの。 |
糸井 |
でしょう? 永ちゃんだとは気づかない。
曲の最後のところで、
ヤザワ味を、バーンって放り込んでるじゃない?
あそこのところで、
「あれ?……でもなぁ」みたいな。
英語がちゃんとしてるから、外人だと思うらしいの。
オレには、英語のことは、わかんないんだけど。 |
矢沢 |
レコーディングの時、外人から
「プロナウンス、めっちゃくちゃイイ」
って言われたもん。
「言わなかったら、日本人が歌ってると思わない」
っていうふうに……。 |
糸井 |
そうなんだよ。
ふつうに聴いていると、
「日本人が歌ってる」って思いつかないから、
永ちゃんって、わからない。 |
矢沢 |
自分で言うのもおかしいけど、
発音、けっこうよかったと思うよ。
かなり意識して、発音したから。 |
糸井 |
やっぱり、歌用の発音の練習とかって、あるの? |
矢沢 |
うん、あるね。
まぁ、ちょっと生意気なこと言うと、
オレ、鍛えられたもん、昔、やっぱり。
いちばん最初に、アメリカで
『YAZAWA』ってアルバムを作った時に。 |
糸井 |
泣かされたって話はあるよねぇ。 |
矢沢 |
うん、英語バージョンのアルバム、
今からそれこそ、約20年ぐらい前だっけ。
あれをやった時には、もう…… |
糸井 |
「泣きたくなった」って言ってたよね。 |
矢沢 |
なんでRとLの発音が
こんなにむずかしいんだって思ったし。
プロデューサーが
「LITTLE GIRL♪」ってやるから、
「LITTLE GIRL♪」ってオレも歌うと、
「ノー、ヤザワ。LITTLE GIRL!」
「どこが違うの?」って。
3回ぐらいやらせて、
「そう、それ、その発音!」って言う時も、
オレ、違いがわかんないんだよ。
「さっきと今と、どこが違うの?」
それ、ずーっとやってて。
そういう時代が、
20年ぐらい前にあったでしょう?
そういうところから、
アメリカ人とはもう長くつきあっているし、
イングリッシュ・バージョンの歌入れも、
もう、何度かやっているから。 |
糸井 |
あぁ……。 |
矢沢 |
そういうのを、
経て経て経て、来てるからね。
だんだんだんだん…
まあ、しごかれてきたわけよ。
しごかれてしごかれて来ているから、
今回の『星に願いを』の録音は、
そんなに、やり直し、なしよ。
イントネーションの弱いところを
ちょっといじるくらいで、
スリーテイク歌ったら、余裕でおしまいだもん。 |
糸井 |
『星に願いを』って、
実はむずかしい歌だよね、あれ。 |
矢沢 |
むずかしいよ。
情感を入れつつ、
プロナウンスをちゃんとやりつつ、それで、
どっかの部分で、ヤザワ節を入れたいじゃない?
矢沢のハートを、ちょっと、どっかに入れたい。
「やっぱり、ヤザワ節だよな」
とか、どこかでは、言われたいじゃない? |
糸井 |
うん。
曲の最後は、ダーッと、
「あ、これ、永ちゃんのびのびとやってるなぁ」
って感じに聞こえていたね。 |
矢沢 |
レコーディング行った時に、もう、
俺は知ってるやつばっかりだったわけよ、
一緒にやるミュージシャンたちも。
ギターは、マイケル・トンプソン。
パーカッションは、ルイス・コンテ。
ルイス・コンテって言ったら、去年の
アコースティックツアーで一緒にやったヤツよ。
グラミー、取ってる人だもんね。スゴ腕。
今回のプロデューサーからは、
「なんか、ヤザワって、
L.A.、みんな知ってるのね」
みたいに言われたから、
「そうか。ビビることはないんだ」みたいに。 |
糸井 |
え? じゃあ、多少は、緊張感が? |
矢沢 |
そりゃ、緊張するよ。
英語バージョンの歌を入れる時は、
やっぱり、ビビるよね。
発音を意識すればノリが悪くなる。
ノリばっかりで行けば、
ちょっと、発音がダメになる。
だから、その両方を成立して、
それで、ヤザワの味もちょっと出したい。
だから常にこう、何度も歌って準備して……。 |
糸井 |
へぇー。そういう風に、見えないけど。 |
矢沢 |
だから、それぐらいの
カタい気持ちで行ったんだけど、
意外と歌入れはすんなりいっちゃったのよ。
「ポンッ!」って入っちゃったの。
「あ、おぉ、ラッキー!」みたいな感じで。 |
糸井 |
キーをちょっとずつ上げたんですよね。 |
矢沢 |
上げた、上げた。 |
糸井 |
そういうところも、相当やりこんでる。 |
矢沢 |
キーをとにかく意識した。
オレはどっちかっていうと、キーが高いんです。
ところが、
「低いところのタッチが、すごくイイんだよな」
と教えてくれたのが、
ナラダ(・マイケル・ウォルデン)なの。
『Tonight I remember』を歌ったとき、
矢沢のイイ吐息感が、すごく出てて、
「あ、低いの、アリなんだ?」とは思っていた。
(※2000年にナラダ・マイケル・ウォルデンが
プロデュースしたクリスマスアルバム
『music of love』にスティービー・ワンダー、
スティング等と共に、唯一日本人アーチストとして
参加したのが、矢沢さんなんです)
だから『星に願いを』も、最初は低く入ったわけ。
だけど、今度は低く入り過ぎちゃったから、
「なんかおかしいな?」ってことで、
ちょっとずつ、キーが上がっていったのよ。 |
糸井 |
それは、自分で歌いこんで……? |
矢沢 |
うん。
歌いこんで、あ、これは低すぎる、
もうハーフ・ステップ、もうハーフ・ステップ、
ってやってたら、結局2音ぐらい上がっちゃって。
プロデューサーに電話を、ワーッてして。
「ちょっと待て! もう1日ちょうだい」
って言って、結局、デモテープを録る前に、
4回ぐらい、キーを変えたからね。
それも、本番前の話だから、
「もうこれでいこう!」ってなった時に
ミュージシャンが集まって、
新しいキーで、みんな、ダッて録るから、
基本的には、みなさんに迷惑はかけちゃいないわけ。 |
糸井 |
今回のスタッフも、腕のいい人ばっかりだし。
プロデューサーも、向こうじゃすごいらしいね。
(※『星に願いを』のプロデュースは、
映画『ターザン』でフィル・コリンズを起用、
映画『ラマになった王様』でスティングを起用の
大物プロデューサー、グスタボ・ボーナーが担当) |
矢沢 |
うん、あの人、
スティングから何から、
みんなプロデュースをやってる。
ところがイトイ、
アメリカにいると、そんなんばっかりよ。
誰のプロデュースやっただ、
彼をやっただ、そんなんばっかり……。
まぁ、そういう意味じゃ、幸せだよね。
20何年前から向こうに行って、
いろんな歴史を作ってきたじゃない?
あのギターを入れたって言ったら、
「誰々とやってる」と、もう世界的なヤツら。
そういうのが、いつのまにか、
仲間になったり、仕事を一緒にやったり。
刺激を受けるじゃない?
そういうことがあるから、
今日の矢沢にも繋がっているところは、
あると思うし。 |
糸井 |
今回の刺激は、また、あったですか? |
矢沢 |
ありましたね。
あと、やっぱり何と言っても、
ディズニーワールドの仕事と矢沢が、
どう結びくのかというところのおもしろさ?
また、矢沢って、すぐ食らいつくんだよね。
「おぉ、やろやろ!」
「そりゃおもしろい。やろう!」って。 |
糸井 |
永ちゃん、
断ってもおかしくない仕事だけど、
「やったらおもしろいよね」というか……。 |
矢沢 |
もう、話聞いてすぐわかったもん。
「ディズニーのピノキオの
『星に願いを』、矢沢さん、歌わない?」
って、イトイらしいなぁと思ったし、
矢沢は、すぐ飛びこむから。 |
糸井 |
決断、早かったねぇ(笑)。 |
矢沢 |
やっぱり、
「なんで矢沢が『ピノキオ』の歌をうたうの?」
っていう発想のおもしろさが、あった。
だけど、やる限りは、
「これ、だれ歌ってんの?」って言われたいし。 |
糸井 |
言わしたいよね。 |
矢沢 |
そりゃ、言わしたいよ。 |
糸井 |
だからこそ、
「永ちゃんが歌ってる」
って知らせる解禁日までは、
「誰だっけ?わかんねぇな?」
とか、そういう風に聴かれた方が
おもしろいなぁ、と思って…… |
矢沢 |
知ってるミュージシャンに聴かせたら、
「……誰が歌ってるかと思ったよ!」
「あれ、ものすごいよかったです!」
みんな、そう言うんですよ。うれしいよね。 |
糸井 |
うれしいねぇ。
レコード会社での発表の時も、
「まず、歌を聴いてください」
ってやったら、反応、最高だった。
レコード業界全体に、なんかこう、
ダルな雰囲気が流れてるじゃないですか。
「いろいろ考えれば、
いろんなことができるんだな」
っていう、いい刺激になったと思う。 |
矢沢 |
うん。
企画ものと言えば
企画ものかもしれないけど、やる限りは、
「うわぁ、これはこれでステキじゃない?」
と言われるようなものには、上げたいよね。 |
糸井 |
それ、実現できたよねぇ!
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