糸井 |
もともと、
『ピノキオ』企画が出たのも、
去年の夏のアコースティックツアー、
あれが、とてつもなく大きかったからで。 |
矢沢 |
あれを観にきた人は、
それなりに感じたものが、
けっこうあったんじゃないかなぁ。 |
糸井 |
アコースティックは、永ちゃん、
あんな宝箱だとは、思わなかったよね。 |
矢沢 |
「宝箱」って、いい言葉だね。 |
糸井 |
永ちゃん本人も、
「ドアを開けた気がする」
みたいには、言っていたんだけど、
「ほんとに、本人は
アコースティックライブのすごさを、
やるまで、わからなかったんだろうか?」
というところから、今日の話を、
はじめようと思うんですけど……。
つまり、シンガーとしての永ちゃんと、
もうひとり、
プロデューサーとしての永ちゃんが、
いるじゃないですか。 |
矢沢 |
うん。 |
糸井 |
その人が、後ろで、
「行けよ、行けよ」って、
言っているような気がするんです。
永ちゃんは頑固だから、
決めたらやるし、決めなかったら絶対にやらない。
はじめての試みのアコースティックライブにしても
「やる」と言った以上は、もうひとりの矢沢が、
シンガーの矢沢のケツを叩いていたんじゃないか?
そのへんを、改めて訊きたいなぁと思ったんですよ。 |
矢沢 |
今言ったことも、
あるかもしれないけど、
現実問題として、とりあえず、
ツアーがスタートを切っちゃった、と。
切っちゃったらもう、行くしかないもんね。 |
糸井 |
最初のキーワードっていうのは、
「アコースティック」っていうだけだったの? |
矢沢 |
もう、最初は……そう、
「アコースティック」だとか、
「アンプラグド」だとかだった。
それで、
「アコースティックって何なんだろう?」
というところから、はじまって。 |
糸井 |
最初は「5人ぐらいでいいや」と?(笑) |
矢沢 |
うん。
3人かなんかで、
アコースティック・ギターを持ってからに、
ジャンジャカジャンジャカ歌おうかと。
それで、当然、クラプトンだとか、
いろんなアーティストのシーンを見る。 |
糸井 |
うん。 |
矢沢 |
見ながら、いろいろなことを思うわけ。
オレは、3本だけの楽器でいいのかな?
やっぱベースは入れようか、
いやいやいや、ピアノも要るな、みたいに……。
そういうふうに増えていった。
そもそも、
オレの中で、もともとあったのは、
「絶対に他のアーティストが
やっていないようなことをやりたい」
ということだったんです。
やっぱり、矢沢永吉のアコースティックには、
ひとつのオリジナルなものとしての色がある、
というところに到達しないと意味がないなぁと、
ほんとに試行錯誤で、すごく悩んだよね。 |
糸井 |
それは、リハまでの間?
……つまり、キャスティングを、
決定しなきゃいけないわけだよね。 |
矢沢 |
メンバーのトータル・イメージ、
何人で、どういう編成で、
音楽はどんなことやって、
どんな目的でどういうコンセプトでどうやるか……。
具体的なところに入っていけばいくほど、
だんだんだんだん、やっぱり怖くなってきたし。 |
糸井 |
そのへんは、まだ歌っていないわけだから、
プロデューサー矢沢の仕事だよね。 |
矢沢 |
うん。
去年のアコースティック・コンサートの
おもしろさっていうのは、
同時進行だった、みたいなところがあるよね。
見切り発車で、発車しながら作りあげていく。
それは、わざとそうしたんじゃなくて、
「そうなっちゃった」んです。
だから、別の言い方をしたら、すごく本人、
ナメくさってツアーに入ったところがあるよね。
もう、入っちゃった。
抜けられない。止めるわけいかない。
「ツアー切るか……。
いや、どうしようか?
このメンバーじゃ、
とんでもないことが起きるぞ。
メンバー取り換えなきゃいかん!」
そのくりかえしで、
バーッとツアーに入っていった。
入って、手探り手探りしながら、
着実に自分のものにしていくっていうか。
ぼく自身も、
ツアーに入って、10本、15本していくうちに、
色っていうものがはっきりわかってきたのよ。
「矢沢永吉の
アコースティック・コンサートは、
こうなきゃいけないんだ!」
っていうのが、ツアーに入った時は、
わかってないんだよね。
入って、何本か消化して、わかってきてる。 |
糸井 |
じゃあ、
「わかるまでは組み立てらんないな」
と思って、先のばしにしていたら、
一生、できなかったかもしれないね。 |
矢沢 |
そうね。
だからこそシリアスだったし、
ほんとだったんだよ。 |
糸井 |
ずーっと、心配もあったわけ? |
矢沢 |
もう、ありまくりよ。
カタチが見えてないんだもん……。
「見なきゃ見なきゃ」と、必死で。
あれがもしね、やる前からわかってて、
「はい、えー、段取りはこうで、
こういう色で、このコンセプトで、
こんだけのメンツを揃えて、
こういう感じで、こうやりましょう!」
とわかっていて、メンバー押さえにかかろうか、
っていうんじゃないんだよね。
「こうでいけるだろ? ああでいけるだろ?」
といううちに、だんだん日にちが迫ってくるわけだ。
タッタカタッタ、と。
もう、日にちがない。
その中で、決定的なイメージを発見した。
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