糸井 |
メンバーを押さえながら、
ツアーに入っていく時って、
買いものをしすぎになっちゃったら
舞台の上が混沌としちゃうし……。
キャスティングの時、要らない人まで、
声をかけちゃったら、ダメじゃないですか。
そのへんも、すっごい微妙だよね。 |
矢沢 |
微妙、微妙。
だから、パニックが起きたんですよ。
メンバーも、
取り換えなきゃいけないことが起きたり。 |
糸井 |
そうか!
それもあったね。 |
矢沢 |
メンバーを押さえながら、
「冒頭の演出には、子どもたちが欲しい。
キャスティング、子ども押さえよう」
すべて同時進行。
だいたいはモヤーッと見えるけど、
もう、リハーサルまで、日にちがない。
「子どもを押さえたらどうするんだ?
衣装は、えーっと……ハダシで、
ピーターパンのような、
風に揺られている世界が欲しい」
みたいな、スタイリストの人にお願いするのね。
イメージしか言わないんだけど、
「こんな感じですか?」
って、あの人も、がんばってくれたよね。
あの時のオレっていうのは、
矢沢ひとりじゃ、足りなかった。
3人くらい、必要だったよね。
プロデューサーで歌手でディレクターで……。
指示を出さなきゃならないものは、ぜんぶやる。
オレはオレで、
「アー」って、発声練習もやってるしさ。 |
糸井 |
あのコンサートは、声の問題も大きいよね。 |
矢沢 |
キーも出てたよね。 |
糸井 |
オレ、おととい、ビデオで観たんですよ。
やっぱり、あん時に「すげぇな」と思ったのは、
ほんとに音が出てたからなんだなと、わかった。 |
矢沢 |
途中の『青空』って曲が、
ものすごい高いキーだったんだよね。
原音で、原音のまま、キーをいじってない。
原音のレコードと同じキーで歌ってんだもん。 |
糸井 |
そっか。
そんなこと、ぜんぜん感じさせなかったよ。 |
矢沢 |
歌手であるから、当然発声もある、
心の準備もある、詞を憶えなきゃいけない。
それで同時に、
子どもたちの衣装まで指定してんだもん。
それで、オレの着るものは何かったら、
これが、ハッキリしていて。
みんな、アコースティックって言ったら、
エリック・クラプトンをはじめ、
ジーンズに革ジャンで、みたいな。
どこのチャンネルを見てもそんな感じ。
「よし、オレはスーツだ」
スーツでバチッと決めようと考えまして。
それをひとつ、オレにはっきり教えてくれたの、
フランク・シナトラだったんだよ。 |
糸井 |
へぇー。 |
矢沢 |
エリック・クラプトンの
アコースティックライブ
『アンプラグド』はもちろん見たけど、
同時に、フランク・シナトラを見たの。
それで、確信した。
大昔から、
エルビス・プレスリーがいて、
フランク・シナトラがいて、とあるけど、
「もうそれはわかってる。
エルビスわかった、シナトラわかった。
それからロックが来て、何が来て……」
今、ロックやってる連中は、
ちょっと、そう考えちゃうところがある。
じゃあそいつらが何を見るか、って言うと、
エリック・クラプトン。
妙にインテリジェンスな感じで、
オレたちがいちばん憧れる位置にいる。
だけど、近年、
アンプラグドっていうのは、もうみんな、
似たり寄ったりのことをやってるわけだ。
「エリック・クラプトン、よろしく」みたいな。
オレは、オリジナリティーを感じたいんだよね。
今のムードを打破するオリジナリティーは何か?
そう思って、ひとつ前の歴史を見たんだよ。
無性に、フランク・シナトラを
見たくて、しょうがなくなったわけ。 |
糸井 |
気になったんだ。 |
矢沢 |
それで、フランク・シナトラのDVDを
パッと見た時に、もう、ゾクゾク来たわけ。
みんながマネをしすぎた
エリック・クラプトンの
アコースティックライブには
何も感じなかったのに、ウワーッて来た。
「おし、グッチのスーツを用意しろ!」
見た瞬間、絶対、グッチ着てやろうと思ったの。 |
糸井 |
クラシックみたいなところはあるけど、
シナトラの、あの軽さっていうのを、
永ちゃん、受け継いだよね。
いつも以上に軽く出てきてるよね。 |
矢沢 |
うん。
それと、あのツアーをやる中で、
つくづく、時代って動いてるんだなぁと感じたね。
わかります?
われわれ、目の前のものを取りあげて、
ロック、ロック、シーン、シーンって言うけど、
「もう、わかったよ。
もう、何もかも、わかった」って時が来てる。
そしたら、今の時代の答えなんて、
もう、ずっと遥か向こうにある、
今まで「古い」と
されていたものかもしれない。
今の時代の人が食べて砕いて出したら、
ぜんぜん、誰も見たことのない
新しいものかも、わからないんだよ。
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