矢沢永吉の開けた新しいドア。
「ほぼ日」特別インタビュー2003。

第3回 矢沢ひとりじゃ、足りなかった

糸井 メンバーを押さえながら、
ツアーに入っていく時って、
買いものをしすぎになっちゃったら
舞台の上が混沌としちゃうし……。

キャスティングの時、要らない人まで、
声をかけちゃったら、ダメじゃないですか。
そのへんも、すっごい微妙だよね。
矢沢 微妙、微妙。
だから、パニックが起きたんですよ。
メンバーも、
取り換えなきゃいけないことが起きたり。
糸井 そうか!
それもあったね。
矢沢 メンバーを押さえながら、
「冒頭の演出には、子どもたちが欲しい。
 キャスティング、子ども押さえよう」
すべて同時進行。

だいたいはモヤーッと見えるけど、
もう、リハーサルまで、日にちがない。
「子どもを押さえたらどうするんだ?
 衣装は、えーっと……ハダシで、
 ピーターパンのような、
 風に揺られている世界が欲しい」
みたいな、スタイリストの人にお願いするのね。

イメージしか言わないんだけど、
「こんな感じですか?」
って、あの人も、がんばってくれたよね。

あの時のオレっていうのは、
矢沢ひとりじゃ、足りなかった。
3人くらい、必要だったよね。

プロデューサーで歌手でディレクターで……。
指示を出さなきゃならないものは、ぜんぶやる。

オレはオレで、
「アー」って、発声練習もやってるしさ。
糸井 あのコンサートは、声の問題も大きいよね。
矢沢 キーも出てたよね。
糸井 オレ、おととい、ビデオで観たんですよ。
やっぱり、あん時に「すげぇな」と思ったのは、
ほんとに音が出てたからなんだなと、わかった。
矢沢 途中の『青空』って曲が、
ものすごい高いキーだったんだよね。
原音で、原音のまま、キーをいじってない。
原音のレコードと同じキーで歌ってんだもん。
糸井 そっか。
そんなこと、ぜんぜん感じさせなかったよ。
矢沢 歌手であるから、当然発声もある、
心の準備もある、詞を憶えなきゃいけない。
それで同時に、
子どもたちの衣装まで指定してんだもん。

それで、オレの着るものは何かったら、
これが、ハッキリしていて。

みんな、アコースティックって言ったら、
エリック・クラプトンをはじめ、
ジーンズに革ジャンで、みたいな。
どこのチャンネルを見てもそんな感じ。

「よし、オレはスーツだ」
スーツでバチッと決めようと考えまして。
それをひとつ、オレにはっきり教えてくれたの、
フランク・シナトラだったんだよ。
糸井 へぇー。
矢沢 エリック・クラプトンの
アコースティックライブ
『アンプラグド』はもちろん見たけど、
同時に、フランク・シナトラを見たの。

それで、確信した。

大昔から、
エルビス・プレスリーがいて、
フランク・シナトラがいて、とあるけど、
「もうそれはわかってる。
 エルビスわかった、シナトラわかった。
 それからロックが来て、何が来て……」
今、ロックやってる連中は、
ちょっと、そう考えちゃうところがある。

じゃあそいつらが何を見るか、って言うと、
エリック・クラプトン。

妙にインテリジェンスな感じで、
オレたちがいちばん憧れる位置にいる。

だけど、近年、
アンプラグドっていうのは、もうみんな、
似たり寄ったりのことをやってるわけだ。
「エリック・クラプトン、よろしく」みたいな。

オレは、オリジナリティーを感じたいんだよね。
今のムードを打破するオリジナリティーは何か?

そう思って、ひとつ前の歴史を見たんだよ。
無性に、フランク・シナトラを
見たくて、しょうがなくなったわけ。
糸井 気になったんだ。
矢沢 それで、フランク・シナトラのDVDを
パッと見た時に、もう、ゾクゾク来たわけ。

みんながマネをしすぎた
エリック・クラプトンの
アコースティックライブには
何も感じなかったのに、ウワーッて来た。

「おし、グッチのスーツを用意しろ!」
見た瞬間、絶対、グッチ着てやろうと思ったの。
糸井 クラシックみたいなところはあるけど、
シナトラの、あの軽さっていうのを、
永ちゃん、受け継いだよね。
いつも以上に軽く出てきてるよね。
矢沢 うん。
それと、あのツアーをやる中で、
つくづく、時代って動いてるんだなぁと感じたね。

わかります?

われわれ、目の前のものを取りあげて、
ロック、ロック、シーン、シーンって言うけど、
「もう、わかったよ。
 もう、何もかも、わかった」って時が来てる。

そしたら、今の時代の答えなんて、
もう、ずっと遥か向こうにある、
今まで「古い」と
されていたものかもしれない。

今の時代の人が食べて砕いて出したら、
ぜんぜん、誰も見たことのない
新しいものかも、わからないんだよ。

(つづきます!)

2003-06-10-TUE


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