糸井 |
永ちゃんがアメリカに行ってから、
アメリカの速度というものを学んだでしょう?
ゆっくりな時は、ゆっくりだけど、
踏みこむ時は猛スピード、みたいな。
アメリカ人って、
「積み残してもいいから、
ほとんどの荷物を運べよ!」
みたいな発想が、あるじゃないですか。
多少、荷物を落っことしてもいいから、
ほとんどの荷物を運べよな、というか。
そういう気質が、
プロデューサー矢沢には、
もしかしたら、影響をしてるのかも、
と思っているんだけど。 |
矢沢 |
ふーん。
イトイから見ると、やっぱりこの
アコースティック・コンサートは、
まあ、「大変だったろうな」と思うわけだ。 |
糸井 |
ものすごく思う。 |
矢沢 |
「よくあそこに到達させたな」と思う? |
糸井 |
思う。 |
矢沢 |
あぁ……やっぱり、そう映ってるんだ。 |
糸井 |
うん。
最後の日しか観てないのに言うのは、
ほんとはおかしいんだけど、
最初から、ああなるはずがないよね。 |
矢沢 |
よく来たよ、あそこに。
もう何度も同じこと言ってるけど、
あの最後の日、いちばん、
オレが嬉しかったんじゃないですか? |
糸井 |
自分の中の、
ブライアン・エプスタイン
(ビートルズのプロデューサー)が
よろこんだ、っていう(笑)。 |
矢沢 |
いやぁ、でも、うれしかったね。
やっぱ、イトイにもそう映った? |
糸井 |
あのね、ひとつ感じたことがあるんです。
アマゾン・ドット・コムって、
アメリカの会社で、あるじゃないですか。
ずっと赤字なのに株価を上げていった会社で、
去年はじめて黒字になって……。
あの会社の日本の支社ができた時に、
もう、今はいない社長なんだけど、
ものすごい速度でがんばっていた人がいて。
その人と、会って話した時のことを思い出した。
「昔は、組織がピラミッド型でしたよね。
社長がいて、専務がいて……。
でも、今の仕事をするには
ピラミッド型では、とてもできない。
組織論も変わっていると思うんですけど、
どういう組織論を持っているんですか?」
そうやって訊いたんですよ。
そしたら、正直なところ、
組織論を語れるヒマがないんだ、って言うんです。
毎日どんどん変わっていってしまうので、
「こういう組織なんですよ」と絵が描けない。
でも、走らなきゃならないから……。 |
矢沢 |
うん。
行きあたりばったり的なことも、
必然的に起きてくるってことだよね。 |
糸井 |
そうです、そうです。
だから、何かをやろうと思った時に、
「組織がぜんぶ絵に描けてからやる」
っていったら、ライバルには、
とっくに追い抜かれちゃってるわけで。 |
矢沢 |
それ、わかるなぁ……! |
糸井 |
俺は、永ちゃんは、
そういうアメリカ時代を経た人だから、
あのクラシックなコンサートでも、
見切り発車ができたんじゃないかと思うんです。
だから、やる勇気が持てた。
最初は、
やりたいって意志だけはあった、
という状態でしょう。 |
矢沢 |
うん。 |
糸井 |
つまり、あの、建築模型でもそうだけど、
「街の中にその建物がある姿」が、あるじゃない?
あれは設計図でもないし、夢ですよね。
まわりに平気で緑を描いたり、
「こういう夢があるんですよ」
と、設計図をあとまわしにしてでも、
その「夢」のほうを、作っていくと言うか。 |
矢沢 |
実際、あたらしい扉を開けたり、
あたらしいことやることの実情ってのは、
そうかも知れないね。 |
糸井 |
そうだと思う。 |
矢沢 |
意外と、絵を完璧にサーッと描けて、
こっちから斜めに見て、
「お、抜けがないな。完璧だ。
じゃ、みなさん行きましょう」
ってところまで来たら、
もう、日が暮れてんだよな。 |
糸井 |
(笑) |
矢沢 |
完璧な絵を求めたら日が暮れてるし、
そんなもの、描けるわけないんだよね。 |
糸井 |
うん。
完璧な絵を書けるまで待ってると、
人間を集めたぶんだけ、
ずっと給料が出ていくんですよ。
だから、
3年前からキャスティングしてたら、
それって、「迷惑」ですよね。
黒澤明さんの時代にはできたんです。
役者さんは、1年、黒澤さんの映画にかかると、
ぜんぶ、収入がガーンと落ちるけど、平気だった。
今は、その時代ではないじゃないですか。
いちばんスピード感のあるヤツを、
バーンと集めて、ものすごく短い期間で、
自分たちのやりたいことを
徹底的に見えるようにしていって……。
それで、実現していったライブでしょう? |
矢沢 |
そうだね。
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