矢沢 |
すごい短い時間で
アコースティックライブを実現させたのは、
結局、矢沢自身が歌手であるし、
そのライブのど真ん中にいるから、
実現できたのよ。 |
糸井 |
しっかり、やっていたからね。 |
矢沢 |
これが、机の前でモノを言って、
ああでもないこうでもないってやってたら、
たぶん、実現できなかったと思う。 |
糸井 |
「シナトラがこう言って……」
そういう会議をいっくら開いたってダメで。 |
矢沢 |
ダメだね。
会議、開かなかった。開く必要がない。
オレが「よし、コレだ!」と思ったことを
パパパパッと振って、もう、
その気になって入ってるわけじゃない? |
糸井 |
その方針も、
「あ、違った、違った」
っての、あるわけでしょ? |
矢沢 |
もちろん。
だからやりながら、
最初の10本15本のライブは、
「どこへ行っちゃうんだろう?」
っていうのがあったけど、
その都度、手を打ってるよね。
パーカッションがもうダメだってわかったら、
ルイス・コンテに電話を入れて……。
ツアーもやりながら、アメリカに電話して、
直接、ルイスのギャラを決めてるんだもん。
「これでどうだ?」
「それなら、今行く」
それで、あいつがバーッと飛行機に乗ってくる。 |
糸井 |
聴いてて、ワクワクするよね。
コワイけど(笑)。
そのスピードは、
永ちゃんがアメリカでやってる時に
身につけた、新しいやりかたなんじゃないかな。 |
矢沢 |
よく考えたら、そうかもね。
ぼくら、ローリング・ストーンズみたいに、
何十年も同じメンツでやってはいないじゃない?
毎年メンツ変わるから、
ギャラの交渉だってする。
「どう?やる?乗る?」
そういう感じも、あるわけで。 |
糸井 |
舞台裏では、
ものすごい先端の突っ走り方をしてて、
お客さんに見える部分では、
「ゆっくりしていってください」
そういうライブだったんだよね。 |
矢沢 |
そうだよ。
一生懸命、呼吸してね、
グーッと息を飲んで、MCで喋ってるわけ。
「ぼくも、このコンサートは、
2〜3年前から、
やりたいなという夢はあったんだけど、
そんな中で、今日を迎えました」
クーッと抑えてしゃべってるの。 |
糸井 |
それ、感じたわ。
お客を落ち着かせてね。 |
矢沢 |
それで、自分も落ち着けと(笑)。 |
糸井 |
積み残しのトラックで走ってるけど、
舞台裏であったミスはぜんぶ手を打っておく。
そのやり方ができたら、
2度でも3度でも、また違うことをやれるよね。 |
矢沢 |
そうか。
イトイは、そういうふうに感じてたんだ。 |
糸井 |
うん。
アメリカのライブハウスで
ツアーをやっていたでしょう?
きっと、あの経験が下敷きになっているな、と。 |
矢沢 |
あるかもわかんない。 |
糸井 |
言わば、素っ裸じゃないですか。
味方の信用できる部隊を
ぜんぶ連れていったっていうのも、
それほど、怖かったからでしょう。
あれ、経費、めちゃくちゃかかってるよね? |
矢沢 |
最初のアメリカ・ツアーが終わった時に、
ぜんぶお客が満タンに入っていても、
4000万ぐらいの赤字だった。 |
糸井 |
あそこで、素っ裸での戦いを
もう1回、覚えさせられて……。
そこで、新しいドアを開いたじゃないですか。
プロデューサー矢沢は、苦労するよね。 |
矢沢 |
でも、アメリカツアーっていうのは、
ほんとに、おもしろいねぇ。 |
糸井 |
あれ、苦労したと思うなぁ。
オレは、たぶんテレビで見たと思うんだけど、
アメリカのライブハウスの、
楽屋とも言えないような場所で、
永ちゃんが、スタンバイしている。
あれは、シビれたなぁ。
20代のやることだよね? |
矢沢 |
うん。
楽屋の匂いって、おんなじ匂いがするの。
横浜に出た時のライブハウスの楽屋も、
ロンドンで撮影等々で行った時の楽屋の匂いも、
アメリカ・ツアーをやった楽屋の匂いも。
こないだ日本で、
音楽専門誌に出た時に、
下北か渋谷の小さなライブで撮影した時も、
やっぱり、楽屋の匂いは、おんなじなのよ。
甘酸っぱい匂いがするのね。
アメリカでコンサートに行って、
またその甘酸っぱい匂いが
フッとした時には……。 |
糸井 |
あの年だよね。
1999年だから、50歳近く。 |
矢沢 |
うん。
その年になってアメリカ・ツアーをやって、
入った楽屋がやっぱり甘酸っぱかった……。
最初に、横浜でオレが
「絶対、上に行きたい」
と思った甘酸っぱさと一緒なんだよね。
あの楽屋の甘酸っぱさって、やっぱり、
「上に行きたい、上に行きたい」
そういう匂いなんだよね。
あれ、不思議と共通した匂いがするの。
楽屋の匂いっていうのは、
甘酸っぱくて、不潔で、汗っぽくてね……。
その匂いを、矢沢永吉って名前が、
日本でハッキリあるという時に、またかいだから。
ロサンゼルスの楽屋、おんなじ匂いがするんだもん。
あれは、よかった。
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