糸井 |
年齢、イッたほうが
ラジカルになるっていうのは、
永ちゃんを見てても、そうだよね。
50歳で、一回、
素っ裸になって、アメリカ・ツアー。
30代の永ちゃんだったら、
ああいうこと、できなかったんじゃないかなぁ。 |
矢沢 |
ああ、そうかもしれない。 |
糸井 |
「オレをそんなナメるな」
みたいになっちゃったんじゃないかね。 |
矢沢 |
そうだね。
「オレをナメるなよ」
っていう、質が変わってきたね。
30代の頃の矢沢は、
もっとすごくわかりやすい、直接的な
「オレをナメるなよ」で。 |
糸井 |
(笑) |
矢沢 |
それで、今なんか、
悔しくないかっていったら、
いや、悔しさは一緒さ。
でも、
「オレをナメるな」
っていう中に、もっと秘めてるものがあるから、
「オレをナメていいよ。
でも、オレは必ず打ち負かす」
……今なら、そういう気持ちだよね。
「オレをナメるなよ」
と同じことを言っていても、昔と違う。 |
糸井 |
永ちゃんって、変化すること、平気だね。 |
矢沢 |
ケンカ? |
糸井 |
(笑)変化。 |
矢沢 |
(笑)おぉ、変化、変化。 |
糸井 |
すっごい保守的な面もあるはずなのに。 |
矢沢 |
ぼくはこうやって実際に
アメリカ移ったからわかるけど、
やっぱり、そんな簡単にはできないですよ。
仕事の撮影だとか何かで
ロスアンゼルスで2週間くらい過ごすなら、
そんなこと、カンタン。仕事だもん。
でも、実際に、生活したからね。
アメリカに生活拠点を置くとか、
子どもがいたら学校に行かせてとか、
話が、ぜんぜん変わってくる。
アメリカを見る気がするよ。
アメリカの中に入っていくわけだから。 |
糸井 |
いいところ、悪いところ、見ただろうね。 |
矢沢 |
中に入ったら、国民性の違いで、
どれだけアタマに来ることがあるか。
でもそれは、
アタマに来てもしょうがないことで。
われわれ、アメリカでは外人なんだから、
向こうに入っていかないといけない。
悔しい思い?
当たり前ですよ、
カルチャーが、違うんだもん。
でも、違う、違うって言ってはおれないから、
中に入っていく、ということとか……。
それは、ハンパなことじゃないですよ。
だから、この経験はめちゃくちゃものを言うと思う。 |
糸井 |
なるほどなぁ。
永ちゃん、家の中で、
お父さん役も、ずいぶんしてるじゃない。
家族とは、真剣に接するでしょう? |
矢沢 |
「子どもがいなければ」
とは、正直、何度も思ったよ。
なぜかと言うと……
こういう仕事をしていると、
人に見られるだなんだ、わずらわしい、
滑った転んだ、っていうことが、あるじゃない。
子どもさえいなければ、どこだって暮らせる。
子どもがいると、アメリカでも、
学校の設備がちゃんと整ったエリアに
行かなければならない。
そしたら当然、矢沢永吉も何も、ないわけよ。
やっぱり、日本人エリアに行かなきゃいけない。
そうしないと、いい学校がないから。
そうなると、
「何のためにL.A.来たんだろう?」
っていうことも、あったりする。
子どもがいたら、人質に取られたようなもんよ。
だから、わずらわしさから何から、
もうぜんぶ、抱えこまなきゃいけないわけ。
でも、抱えこまないオレがいたら、
たぶんオレの人生は
絶対後悔するものになったと思うの。
だから、抱えこんで抱えこんで、
わずらわしさも、PTAも抱えこんで、
オヤジを張らなきゃいけないことも抱えこむ。
これは、あとでモノを言ってくるね。
わかります? |
糸井 |
うん。 |
矢沢 |
だから、
「いなかったらどれだけラクか」
と思った時期もあるし、やっぱりその後で、
「抱えこまなきゃいけなかったっていうことは、
どれだけまた、よかったことなんだろう」
ってことは思ったりするんです。
そういうことも経てきてるわけ。 |
糸井 |
なるほどね……自信が出てるね(笑)。 |
矢沢 |
うん。
オレ、朝に
子どもを学校に送ったりするのが、
とっても好きなんだよ。
……うちのせがれ、イトイが作った
ゲーム・ソフト(『MOTHER』)をやって、
もう、糸井を尊敬しちゃってんだけどね。
「イトイさん、スゴイ!」みたいになってるけど。 |
糸井 |
(笑)ありがたいよなぁ。 |
矢沢 |
その子どもたちを、
ガーッてクルマで送ってる時、
「あ、絶対、オレのほうが勝ってる」
と思うことがあるんだよね。
「こうやって学校に
バチッと子ども送ってるオレのほうが、
絶対にかっこいい。
……おまえらには負けねえぞ!」
っていうのが、絶対、あった。
「おまえら」っていうのが
誰かというと、わかんないんだけど(笑)。 |
糸井 |
「オレに何もやらせないでくれ、
歌だけ歌わせてくれ」
ってやってたら、
きっと、歌えないんだろうねぇ……。 |
矢沢 |
うん。
オレは何度も思った。
「なんでオレのまわりは、
こんなに事件が起きるんだ?」
「なんでオレはぜんぶを
抱えることになってるんだろう?」
だから、どこかいいところのプロダクションに
抱えてもらって、高給をもらって
歌だけ書いてたら、どんなにラクかと思ったけど、
そしたら、ハッキリ言われたことがあるよ。
「それをしたらしたで、
あなたは絶対ムリだから」
きっと、そうだよね。オレもそう思う。
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