矢沢 |
あとで気づくんだけど、よく、
「なんで、あれをやったんだろう?」
っていうことを、やったりするんですよ。
それをやったことで、
その後が保たれるようなことを、
その時々に、無性にやりたくなったりする。 |
糸井 |
動物みたいなもんなんですかねぇ。 |
矢沢 |
わからないけど、
今までぜんぶ、そうだもん。
必ず、やるのよ。
で、やったことによって、世界が広がるの。
たとえば、後楽園球場、
あそこのコンサートが終わった後に……。
あれは、矢沢の当時のピークだったよね? |
糸井 |
そう。 |
矢沢 |
もう、それこそピークでしたよ。
ピークの時なのに、
つまんなくてつまんなくてつまんなくて、
不安で不安で不安でしょうがない矢沢が、
まちがいなく、そこにいるんだもん。
だって、5万人が総立ちして、ピークよ。
それで、なんで、オレが、
こんなに寂しい思いをするんだろう?
なんでこんなに切ないんだろう?
つまんないんだろう? |
糸井 |
うん。 |
矢沢 |
それで、
20年前、アメリカに行くじゃない?
(※単身渡米。音楽活動の場をアメリカに移した)
で、どう考えても
あの時、ぼくがアメリカに行かなかったら、
今の自分は、絶対いないわけで。 |
糸井 |
ふつう、当時はじめての
あんな大規模なコンサートの成功だから、
維持しようとしちゃうだろうね、もっとね。 |
矢沢 |
したと思う。
でも、維持したあとに、絶対終わってる。 |
糸井 |
維持しようとしたら終わるんだよね。 |
矢沢 |
終わる。
その時、矢沢っておもしろい。
バーンと捨てちゃう。
捨てて、もう向こうに行っちゃうんだ。
とにかく、日本を離れたい、
ってことで、ボンと行っちゃうわけだから。
ぜんぶ、そういうことのくりかえしだもんね。
自分の過去をふりかえって、
おもしろいなぁ、って思うのは、
矢沢は、絶対に「ぜんぶ食べない」の。 |
糸井 |
おぉー! |
矢沢 |
たとえば、
『時間よ止まれ』が、大ヒットしたよね。
バーンとヒットした時には、
テレビの出演依頼から何からって、
もう、ウワーッて来るわけ……。
でも、その時には、テレビ出ないじゃない?
今まで、
どのアーティストを見ても、
どの歌手を見ても、
ピークっていうのは、最大限使うわけ。
でもオレは、
本能が作用するのかなんか知らないけど、
バーンといってる時には、やらないの。
もう、引いちゃう自分がいる。
テレビだろうが、取材だろうが、
もうブレーキをかけて。
誰かに言われたわけじゃないんだけど、
「それ以上行っちゃいけない」
って感じる自分が、なんか、そこにいるのよ。 |
糸井 |
インディアンが狩りをする時に、
「取りつくしちゃいけない」
って言うじゃない? |
矢沢 |
そうそうそうそう。
網でごっそり取っちゃうと、
魚がいなくなってしまうというか。 |
糸井 |
「全部食わない」か……。 |
矢沢 |
うん。
人に聞いたわけでも何でもないのに、
なんかすごく本能的に、やるんだよね。
「ボカーン!」って評価されたら、
「あ、ぼく、もういいです、ぼく、もういいです」
ブワーッとブレーキかけてるの、いつも。 |
糸井 |
それは、経営哲学じゃなくて、
もう、カンだよね。 |
矢沢 |
でも、それは過去、全部そうしてきたよ。
振りかえると、みんなそうなのよ。必ず止めてる。
だからおもしろいなぁ。
常にこう……何て言うの?
ドーンとは、しないのね。
もういいよ、もうこのぐらいで、って。 |
糸井 |
気持ちは、旅行カバン持ってるね。 |
矢沢 |
そう。
ずっと、「このぐらいにしとこう」で。
コンサートで、去年ガーッとやったら、
「よし、今年は、20ちょっとでいい」って……。
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