矢沢永吉の開けた新しいドア。
「ほぼ日」特別インタビュー2003。

第14回 ヤセガマンのススメ

糸井 永ちゃんって、電卓は持ってるの?
矢沢 電卓?
なんで?
そんなん、持ってるに決まってるじゃない。
糸井 そうか……。
オレね、電卓を、
「すっごいもんだ」って最近思ってんのよ。
あれ、電卓1個あるだけで、
世の中違って見える瞬間があるんだよね。
矢沢 どういう意味で?
糸井 あのね、例えば、
「これをこうしたら損しちゃいますよね」
って、みんなが常識的に思ってることが、
あるじゃない?
矢沢 うんうん。
糸井 それを、ちゃんと電卓で、
「だとしたら、こうして……。
 みんなが喜んで損しない方法が、
 あるじゃない?」

とか、そういうヤツが。
矢沢 はいはい、わかるわかる。
糸井 今は損なんだけど、大したことないから、
いけるじゃない、とか……。
気前よくなるんだよ、電卓があったほうが。
矢沢 計算ってのは、おもしろいやつでさ。
糸井 おもしろいねぇ。
矢沢 うん。
たとえば利益っていう話を
ひとつとってみても複雑でね。
目の前に見える利益と……。
糸井 そうそう!
矢沢 ふつうの利益と、含み利益と、
今はなくても先の方で返ってくる利益と。

利益でも、3つあるんだよなぁ。
そういうふうにものを見るとさ、
人生って深いなぁ、と思ったりするよね。
糸井 うん、深い。
矢沢 だから昔の人は、いいこと言ったもんで、
「損して得取れ」、よく言ったもんだよね。
糸井 電卓を、得するために使う人は
いっぱいいるんだけど、
ソンを平気にするために使うっていう
電卓があるのは、大人になってからわかった。
矢沢 ひょっとしたら、
日本の社会は、昔の人が残してくれた
「損して得取れ」って言葉が、
おろそかになってきているところがある。

だから、みんなギトギトしてるでしょ。
わかる?
ギトギトしてるから、直接的になるでしょ。
全部が直接、直接、直接だから、
情緒が、なくなってくるのよ。
糸井 つまんないの。
ヤセガマンもないしさ。
矢沢 ない。
ヤセガマンも……ヤセガマンって、いいよね。
糸井 うん、いいよ(笑)。
矢沢 やっぱり、ヤセガマンって、ステキだよ。
ヤセガマンって、かわいいし、情緒だと思う。
糸井 ああ。
だから、ふくらみを感じると思うんで。
矢沢 ヤセガマンには、色も感じる。
糸井 そういうふくらみどうしで、
つきあうようになるわけですよ、お互いに。
矢沢 そうなってくると、
ひとくちに利益と言っても、
ここにもあれば、そこにもある、
含みもあるし、ヤセガマンにもあるんだ、

っていうことをやると、人間ってもっとこう、
ふくよかになってくる感じがするよねぇ……。
糸井 うん。
矢沢 だから、それが今、だんだんだんだん、
全部が、具体的に直接的に、ポンポンってきてるから。
糸井 デジタルだよね。
ヤセガマンのすすめだね。
矢沢 こういう話、糸井とさせるとやばいよね。
ヤセガマンのスズメ?
糸井 いや、ススメ(笑)。

(つづきます!)

2003-06-25-WED


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