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横尾 |
おお、いらっしゃい、糸井さん。 |
糸井 |
今日はよろしくお願いします。 |
横尾 |
じゃ、上へ移動だ。
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横尾 |
あ、糸井さん、
2階で降りちゃダメだよ!
展示は3階からなの。
註:2Fは横尾さんグッズの
ショップになっています。
順路の帰り道によれるので、
ご心配なく! |
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糸井 |
(3Fに到着するや)
うわーっ!
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横尾 |
芸術は爆発だ! |
糸井 |
・・・岡本太郎さんですか、いきなり。 |
横尾 |
フハハハハ。
これは今回の展覧会の
ポスター用につくった絵なんだよ。
註:ポスターには2種類あり、
ひとつはメガネをモチーフにした
ポップなポスター。
もうひとつが、このポスターなのです。 |
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糸井 |
これ、核実験の写真を使ってるんですか? |
横尾 |
そう、水爆のね。ビキニ環礁のときのだよ。
ポスターもいちおうつくったんだけどね。
ほら、これなんだけど。 |
糸井 |
わぁぁ、だんぜん実物のほうがいいですね。
この大きさで見ちゃうとなぁ、
ものすごいもん。
実物はやっぱり、作品の匂いがちゃんとする。
こうやって横尾さんの絵を改めて見ると、
本職の人にこういうことを言うのもナンだけど、
すっごいもんですねぇ。 |
横尾 |
爆弾の下は、
東京の焼け野原の写真を使っているんだよ。
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糸井 |
ときどき色をつけている建物もあるんですね。
あ、美術館も描いてある。
焼け残ってるという意味ですね。 |
横尾 |
そうよ。 |
サイケデリックが流行る前から
蛍光色でした。 |
糸井 |
(第一室に足を踏み入れて見渡し)
ここは……うわあ、僕にとって
懐かしい作品が並んでますよ。
1965年からの、初期の作品ですね。
絵画とポスターが展示してあるんですね。
註:進行方向に向かって右が絵画、
左がポスター作品になっています。 |

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横尾 |
うん。当時は絵もポスターも、
同時進行で描いていた。 |
糸井 |
横尾さんのポスターって
ずいぶん前のものなんだけど、
懐かしさを感じないんですよね。 |
横尾 |
どういうこと? |
糸井 |
もう「出すぎて」て、ぼくらはそれを
ずーっと見続けているような気がする。 |
横尾 |
そうかもしれないね。
けっこう露出度が高いですから。
いろんなメディアにしょっちゅう出ている。 |
糸井 |
ポスター自体が、
タレントみたいになってますよね。
ここにある絵画に描いたモチーフを
ポスターに使ったりすることはあったんですか? |
横尾 |
あるよあるよ!
例えば、この、空を飛んでる人の絵。
「テレビ」の一部分
ここで描いたのを、
ポスターの「腰巻お仙」に使ってる。
「腰巻お仙」の一部分
註:この2つの作品、同じ部屋の
壁の対面に展示されています。
同じ「飛ぶ女」のモチーフ、
探してみてくださいね~!
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糸井 |
ほんとだ。なるほど!
よく考えてみると、
こういうポーズで女の人が空を飛んでるモチーフって、
それまでの絵の歴史には、なかったですよね。
ふつう、こういう発想は
急には出てこないと思いますが・・・。 |
横尾 |
え? 出てくるよ。 |
糸井 |
そうなんですか!
こういうモチーフを思いついた瞬間って、
やっぱりうれしいものなんでしょうか。 |
横尾 |
いや、べつにそんなにねぇ・・・、
どうかな。 |
糸井 |
絵のモチーフとしては、これは
そうとうヘンなものだったんでしょう、
当時は。 |
横尾 |
ヘンといえば、
ここにある全部の絵がヘンだよ(笑)。 |
糸井 |
そうだけど(笑)。
この絵なんか、特にインパクトがありますよね。
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横尾 |
ああ。この絵のことを
「口のなかから出た水で
皇居のお堀をいっぱいにした絵ですね」
っていう人もいるんだよ。
おもしろいこというよね。
アレ・・・これ、でも、
よく考えてみたら、
ここから水が出てるの、ヘンよね。 |
糸井 |
ええ?
あ、舌の下側から水が出てますね。
これじゃあ、
口から吐き出しているかんじはしない。 |
横尾 |
おかしいよね。
向こうからこう出て、こう来て・・・(ブツブツ)、
そうだよ、ヘンだよ。
いま気がついた! |
糸井 |
ハハハ。
何十年もそのままにしてあった! |
横尾 |
誰もそんな疑問をもたなかったんだね、
ハハハハ。 |
糸井 |
ここには寺山修司さんや唐十郎さんの
劇団のポスターもたくさんありますが、
お二方からの影響って
やっぱり大きいものでしょうか? |
横尾 |
ううーん。どちらかというと、
ぼくのほうが影響を与えたんだと思うよ。
ここにある絵のいくつかは
寺山修司の「腰巻お仙」なんかのずっと前、
彼らと出会う前に描いたものだもの。 |
糸井 |
横尾さんが描き表すことによって、演劇でも
こういう世界がオッケーになっていった
ということですね。 |
横尾 |
うん。 |
糸井 |
ぼくは、当時
この「腰巻お仙」のポスターを見て
気持ち悪くなっちゃったんですよ。
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横尾 |
あら、そう! |
糸井 |
思い出のポスターですよ、ほんとに。
このポスターをぼくが見た時代には
「サイケデリック」っていう言葉があって、
そういう流行が自然に、世の中にありました。
横尾さんも「サイケデリックな人」という
イメージがあるんですけれども。 |
横尾 |
ぼくは1967年に
ニューヨークではじめて
展覧会を開いたんだけど、
そのときにはじめてジョン・メイスンから
「サイケデリック」っていう
言葉を聞いたんだよ。 |
糸井 |
それは、これらの作品を描いたあとのことですね。 |
横尾 |
うん。こういう作品を
展覧会にもっていったわけだからね。
そのときの取材で
「日本にもドラッグがあるのか!」
って突然聞かれたんだよ。びっくりした。 |
糸井 |
ほっほー! |
横尾 |
67年には、ぼくは「ドラッグ」って言葉を
知らなかった。
ニューヨークで
「サイケデリック」と「ドラッグ」という言葉に
はじめて出会ったわけ。 |
糸井 |
バニラファッジとかクリームとか
バンド音楽の流行りとともに
「サイケデリック」という言葉が
一般的になりましたよね。
でも横尾さんは、その前から
蛍光色を使ったりしてた。 |
横尾 |
そうだね。
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糸井 |
当時としては、
ひどくおかしいことのように見えたんでしょうね。 |
横尾 |
ぼくはそんなに
おかしいとは思わなかったけれどもねぇ(笑)。
アメリカ人はおかしいと思ったんだね、
「日本にもドラッグがあるのか」って
言ったくらいだから。
「なんでか?」って逆に聞き返すと、
「サイケデリックっていうのは、
ドラッグを服用したことによる幻覚を
音楽やアートで表現したものをいうんだよ」
と教えてくれた。 |
糸井 |
下側に「JUN」って描いてある
ポスターがありますけど
これは広告だったんですか? |
横尾 |
これは天井桟敷のポスターなんだけど、
当時、天井桟敷にはお金がなかったから
JUNからお金をもらってこのポスターをつくったわけ。
つまり、このポスターを制作するためのスポンサーが
JUNだったってことです。 |
糸井 |
こういうことは、
デザイナー横尾忠則さんとしては、
嫌なことだった? |
横尾 |
ぜーんぜん。 |
糸井 |
おお。 |
横尾 |
まったくあたりまえのことだと思っていたよ。
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