糸井 |
ここにある宝塚や
三島由紀夫のポスターって
依頼されてつくったものですよね? |
横尾 |
ううん、頼まれたんじゃなくて、
自分で勝手につくったものなんです。
栗田勇さんの本
「都市とデザイン」のポスターも
自主制作。
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糸井 |
ええええええ!
「都市とデザイン」も自主制作なんですか。
知らなかった。 |
横尾 |
「都市とデザイン」の本の挿絵は
ちゃんと依頼を受けて描いたんだけどね。
ポスターは必要とされていなかったのに、
ぼくが勝手につくった。
自分の費用で。 |
糸井 |
そうだったんですか。はぁー!
寺山さんや唐さんからはもちろん、
依頼されたわけですよね?
註:劇団「天井桟敷」を主宰していた
寺山修司さんと、
劇団「状況劇場」(紅テント)を主宰していた
唐十郎さんのことです。
ちなみに状況劇場には
ほぼ日でおなじみの小林薫さんや
ゲージツ家・クマさんらもいたそうです。 |
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横尾 |
うんうん。
寺山修司が唐十郎を紹介してくれたんだよ。
そしたら、1週間と経たないうちに
唐十郎から電話がかかってきて、
いろいろ仕事をしてくれないか、
っていう相談があった。
その頃寺山修司とは
何の仕事もしていなかったというのに。
唐十郎は行動力があったね。
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糸井 |
何歳くらいのときですか? |
横尾 |
みんな29〜30歳くらいだったね。
唐十郎との仕事は、
最初は1色刷りのチラシだった。
その頃、彼ら状況劇場はポスターなんて
つくろうともしていなかった。 |
糸井 |
ポスターって、このころから出はじめたような
気がするんですが、
当時の流行りだったんでしょうかね? |
横尾 |
うーん。「流行り」にまでは
なっていなかったんじゃないかな。
やってみようかな、ってなかんじだったね。 |
糸井 |
この部屋に展示してあるような流れで
「ポスター」というものが
メディアになっていったのかもしれませんね。 |
横尾 |
ああ、そうかもしれない。 |
糸井 |
この頃、横尾さんは商業デザイナーとして
デザインセンターにいた時期でしょうか。
註:1960年、田中一光さんらが創立した
「日本デザインセンター」のこと。
横尾さんは鈴木良夫さん、田中博さん、
永井一正さんなどのアシスタントを務めた。
同社には宇野亜喜良、木村恒久らがいた。 |
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横尾 |
いや、もう辞めてたね。 |
糸井 |
じゃあ、会社員のころには
ポスターはつくってなかったんだ。 |
横尾 |
つくってたことはつくってたけど、
こうやってみなさんに
お見せできるようなものはないね(笑)。 |
糸井 |
・・・いま思ってみれば、よく辞めましたよね、
デザインセンターを(笑)。
これらの作品って、当時ぼくら若いものには
そうとうショックだったんだけど、
描いた横尾さん本人は
「みんなにショックを与えよう」と
思っていたんですか? |
横尾 |
いいや(笑)。 |
糸井 |
いったい、何を思ってつくっていたんですか? |
横尾 |
そうねぇ、何を考えていたんだろうねぇ。
よくわからないでやっていたんじゃないかなぁ。
やっていることや考えていることを
言葉に置き換えられなかったんじゃないかなぁ。 |
糸井 |
でも、誰にも理解してもらえないようなことに
なったりしたら、
それはそれでつらいですよね。 |
横尾 |
デザインセンターに勤めていたときは、
スポンサーの気に入るようなおとなしい作品を
つくっていたから、
その反動だったのかもしれないね。
ほら、見渡してみても、
当時の広告には使えないようなものばかりでしょ。 |
糸井 |
そうですね。
肌の赤さなんて、いま考えるとすごいですよね。
当時はぼくたちも
あまり気にしないで見ていましたけど。
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横尾 |
いや、じつは「ちょっと赤いかなぁ」って
思いながら描いていたんだけどね(笑)。 |
糸井 |
きっと、描く側に
熱がこもっていたんでしょうね。 |
横尾 |
・・・ああ、思い出したよ。
これらの絵を描いていたときに
はじめての絵画展をやることになったんです。
そのとき
「絵画じゃないような女のポートレートを描きたい」
と思ったの。 |
糸井 |
それまでの、古典絵画にはないような。 |
横尾 |
うん。たとえば、まつげを一本一本描いたり
眼球のなかの血管を描いたりは
誰もしていなかったでしょ。
それに、歯をむき出している絵画はほとんどない。
そのふたつを描けば、これは、
「絵画でありながら絵画でないもの」
ができるんじゃないかなと思ったわけ。
裸を描くのはべつにめずらしいことじゃないからね。
↑「歯みがき」 ↓部分
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糸井 |
あー。はぁー。
描いてありますね、眼球の血管が。ふぅむ。
この頃って、充分に生活はできていたんですか? |
横尾 |
いや、できてない、できてない! |
糸井 |
生活ができていないのに、
「見たことないような絵画」を描こうとした。
それは、描きたくてしょうがなかったから、
なんですか?
売れたりはしなかったでしょう。
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横尾 |
ところがね、売れたのよ。
展覧会で、6割か7割くらい売れたんじゃないかな。
ここにある絵もほとんど売れたんだよ。 |
糸井 |
プレートを見てみると、
個人蔵のものが多いですね。
はぁぁー。
註:たとえばイラストレータの
和田誠さん所蔵の絵画もありました。
探してみてね〜! |
ここの部屋にいるだけでもっともっと
いーっぱい話ができちゃう。
このままだと夜があけちゃうよ。 |
横尾 |
そうだね。
じゃ、次の部屋に行くとするか!
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