横尾 |
次の部屋に入るには
ここを通るんだよ。 |
糸井 |
くぐればいいんですね。
註:第2室「愛とエロス」には、
ある穴をくぐって入ります。
そーっとくぐるのがコツ。
足もとが板で少し高くなっているので
気をつけてくださいね! |
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横尾 |
ここはね、版画の部屋なの。
ぼくは1980年代のはじめに
「画家宣言」をしたけれども、
考えてみたらね、
65年あたりから
ずーっと絵を描いているでしょ? |
糸井 |
えぇ。 |
横尾 |
そのころから、こんなふうに
版画をやったりしてるのよ。
だから、わざわざ「画家宣言」なんて
する必要なかったのかもなぁ。 |
糸井 |
ええっ! |
横尾 |
いや、このことはね、
今回の展覧会をやるにあたって
気づいたことなの。
ぼくは各時代に、
こうやって美術作品とよばれるものを、
まあ、「らしき」ものだけど、
つくってきたわけでしょう。
なのにわざわざ「画家宣言」なんて、
しちゃったんだよねぇ。
註:「画家宣言」以前の横尾忠則さんは
「グラフィック・デザイナー」だった。
80年7月、ニューヨーク近代美術館でのピカソ展に
衝撃を受けた横尾さんが、
絵画制作の方向へ自身の道を
見い出したことを新聞記者に語り、
それが「宣言」として記事になった。
それを「画家宣言」と呼んでいる。
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糸井 |
「画家宣言」をしないと
自分自身が納得できなかっただけ
なんじゃないですか? |
横尾 |
ハハハ、そうだよね。 |
糸井 |
活動としては、画家だったんですよね、
すでに昔から。 |
横尾 |
やってたんだよ、ぼくは画家を。 |
糸井 |
いまごろ気づいてどうすんねん、
てかんじですね! |
横尾 |
「画家宣言失敗宣言」とか、
「画家宣言取消宣言」とか
しようかな。 |
糸井 |
「しても意味なかった宣言」をしても
いいかもしれませんね。 |
横尾 |
ほんと、当時は気張ってたよ。 |
糸井 |
あっ。ぼく、これ
ライターの図柄で見たことがある。
このあたりの絵で
ライターつくりませんでした? |
横尾 |
あ、ああ! そうそうそう。
つくったかもわかんない。
ZIPPOのね。 |
糸井 |
このころ、横尾さんは
浮世絵版画というものに
そうとう興味を持っていたんですか?
こういうものって、
ほんとの「刷り師」とよばれる人たちと
いっしょにつくるものでしょう? |
横尾 |
そうだねぇ。
たとえば、これは、
わざと過程をみせたかったの。
註:この部屋には、一見、
未完成とも見える作品が
たくさん飾られているのです。 |
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糸井 |
この絵の完成品がどこかにある、
ってわけじゃないんですね。 |
横尾 |
そういうことじゃないよ。
これはこれで完成です。
これが別の作品のモチーフに
なったりすることはあるけれども。 |
糸井 |
あっ! これは『平凡パンチ』の
折り込み付録だったやつですね。
覚えてますよ。
↑マドンナのいる風景 2002年
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横尾 |
これは、当時のものをまた
新しく描きおこして、
版画にしたものだよ。
たぶん、付録じゃなくて、
雑誌のセンターページだった。
糸井さん、よく覚えてるねぇ。 |
糸井 |
すっごくよく覚えていますよ。
これ、自分の部屋に貼ったもん。
チャールトン・ヘストンというのがね、
この時代、ミョーなかんじがして。
あとね、この「だーい好き」っていうのにも、
影響受けましたね。
その後ぼくは「不思議大好き」っていうコピーを
書きましたから。 |
横尾 |
おおっ! |
糸井 |
ちょっといま、こじつけですけどね。 |
横尾 |
ムフフフ。 |
糸井 |
でも、このふざけたかんじが
それはもう、印象に残ったなぁ。
これ、ルリ子さんのオッケーは
通ってたんですよね、たしか。 |
横尾 |
そうなの。浅丘さんがこれを
オッケーしたのよ。 |
糸井 |
ほかに、高倉健さんの絵があるんだけど、
そのふたつが、すごいインパクトがあって
ぼくはよく覚えていますねぇ。
註:高倉健さんの絵は
1階にある「ポートレートの部屋」で
見ることができますよ。 |
雑誌が、こんな付録、というか、
こんなページをつくっていたという
時代そのものがおもしろいですね。 |
横尾 |
週刊誌の見開きをカラーにしたのは、
これがはじめてなんだって。
当時、石川次郎くんがラフをたてて
見開きで4色カラーっていう
はじめての試みをやったわけ。
さあ、そろそろ次に進もうか。
ここから真っ暗な道に入るよ。
註:次のエリアまで真っ暗な廊下を
歩くことになります。
遠くに何かが立っているように見える・・・? |
実は、いまはあんまり暗くないけど、
展覧会が開催されたら
ここはもっともっと真っ暗になる。
それで、看護婦さんが
懐中電灯をもってあそこに立っているわけ。 |
糸井 |
こわい。 |
横尾 |
萱の陰からかろうじて
顔を見せているふうにします。 |
糸井 |
なんで看護婦さん。
横尾さんは、
看護婦さんが好きだったんですか!? |
横尾 |
ぼくが入院しているとき、
夜中にさ、看護婦さんが懐中電灯を持って
部屋に入ってくるわけよ。
それでワッと目が覚めて、びっくりするわけよ。
それからもういっさい眠れなくなったりしてさ。
だから、そういうかんじよ。 |
糸井 |
そんときの思い出! |
横尾 |
うん。 |
糸井 |
ハハハ。
やっぱり看護婦さんにした理由が
あることはあるんだね!
聞いてみるもんだ。
このあたりは?
ここの部屋の作品は、
あんまり見た覚えがないようなものだなあ。 |
横尾 |
ここにある絵はみんな時代が違うの。
「愛とエロス」のテーマでまとめた、
各時代のものを展示しているからね。
同じ時代に描いたものではない。 |
糸井 |

おお、ここには性器関係があるんですね。
横尾さん、性器はお好きですか。 |
横尾 |
世紀の絵画だからねぇ。 |
糸井 |
ブッ(笑)。
さっきの部屋からずっと
「愛とエロス」が続いているわけですね? |
横尾 |
ああ、そうそう、
あの産道みたいなのを通って
なかに入ってくるわけですよ。 |
糸井 |
ああ、あそこは
表産道っていうんですよね。 |
横尾 |
ハハハ。
いや、裏産道でしょう。 |
糸井 |
横尾さんは
意外と「エロス」を描いているのに
描いていない印象がありますね。
なぜかなぁ。 |
横尾 |
本人がそう見えるからね。 |
糸井 |
ど、どういう意味なんだろう。 |
横尾 |
本人がさわやかに見えるから。 |
糸井 |
ハハハ、
いや、さわやか、ですよね。
エロスといっても
横尾さんはなんだか違うんだよなぁ。 |
横尾 |
ぼくなんかの性は、セイはセイでも
聖なるセイだからね。
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