横尾 |
このビデオ、いま全部つけてくれるのかなぁ?
じっさいの展覧会では、
ここのテレビは全部つくんですよ。
絵の下にいくつかテレビモニターが置いてあります。 |
糸井 |
この部屋、テーマは何なんですか? |
横尾 |
「森と肉体」。 |
糸井 |
森と肉体! ほー。
リサ・ライオンとか、描いていた頃ですね。
リサ・ライオン
ボディービルダーであり、
パフォーマンス・アーティスト。
1984年来日。このころ、
横尾さんによる、リサをモデルにした
写真、絵画作品が
数多く制作されました。 |
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横尾 |
そそ。リサ・ライオンのビデオをね、ここで流すのよ。
テレビが何台か置いてあるでしょう?
それぞれの画面を、何秒かずつ遅らせて
放映しようと思っているの。 |
糸井 |
なるほど。 |
横尾 |
ここの画面でパッと手を上げたら
隣の画面でちょっと遅れて手を上げるの。
それで、パパパパパッと順番に画像が流れる。
ひとつの画面での動きは、
もちろんリアルな動きなんだけども、
全体を通して見たときに・・・。 |
糸井 |
見たときに? |
横尾 |
まあ、フフ、ちょっとアニメ的ね。 |
糸井 |
この頃の横尾さんの色使いは、なんていうか、
ものすごく素朴ですよね。
「描きたててやろう」というよりも
自分が落ち着きたい、という色を
素直に使っているような印象があります。 |
横尾 |
そうね。
自然主義的みたいなことをやっていて。 |
糸井 |
そういうことをやっていたかった時期、
なんですね。 |
横尾 |
うん、うん。
やっぱりね、相手が、テーマが、
「自然」だからね。
どうしても
自然主義的になっちゃうんですよ。
まじめにねぇ。 |
糸井 |
自然って、
手ごわい気がするんでしょうね。 |
横尾 |
自然をねじ伏せてちがうものを見ようとしたり、
変質させようとしたりするよりも、
「自然は、しぜんに入ろう」って思っちゃうね。
でも、そんなこと言いながらも、
こうやって変わってくるわけだけどね。
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糸井 |
それで、ここまでくるわけですよねえ、ええ。
ところで、あの緑色の表現は、
ぼくは好きでしたねぇ。 |
横尾 |
どれ!? これ!? |
糸井 |
ああ、あの緑の、です。
あの色には、ずいぶんなじみがあるなぁ。
中央に描かれているのは、横尾さんご自身の姿です。 |
横尾 |
でもなんかね、ぼくはね、
いつも継続しないわけ。 |
糸井 |
ああ、ハハ、
そうですよねぇ。 |
横尾 |
たとえばあの様式で、
もっと10枚でも20枚でもいくらでも
絵を描けるでしょう?
ところがね、ぼくは続かない。
せいぜい2枚くらい描いたらもう、
ブッフフフ(笑)、次に気が移るんですよね。 |
糸井 |
ただ、横尾さんの絵は、
みんなの目にふれる複製が世の中にいっぱい出るから、
自分では「やめたもの」で
たった2枚しか描いていないものであっても、
意外とみんなが
「オレも見た」「オレも見た」って
いうことになるんですよね。
「誰かと対談して親密に話してるんだけど、
じつはそれがテレビに撮られて、放映される」
ようなことと同じような構造で。
ぼくは、あの緑の色使いを
本の装丁かなんかで見たような気がするんですよ。 |
横尾 |
ああ、糸井さんね、
ほんとは見てないんだよ、それ。
あれで本の装丁はやってないよ。
うん、ぼくの記憶にはないね。 |
糸井 |
じゃあぼくは、
カタログなんかで紹介されているのを
勝手に本の装丁だと思い込んでいるんですかね? |
横尾 |
うん。自分の中でそう組み立てててるんだよ。
でもそれは、見る側の想像だしさ、自由だし、
それでいいんじゃないかなぁ。 |
糸井 |
なんだか、横尾さんの絵って、
そんなことがいっぱいありそうですね。
自分が勝手に「こうやって見た!」って
言ってそうな気がする。 |
横尾 |
フハハハ。そうねぇ。
そう言われることはじつに
多いけれども。 |
糸井 |
フハハハ! |
横尾 |
じっさい、ぼくは心あたりがないんですよ。 |
糸井 |
それについては、
本人の記憶が正しいわけですよね・・・? |
横尾 |
うん。そりゃあそうだよ! |