横尾 |
ここの部屋は、モチーフがすべて
“アート”なんですよ。
「芸術と芸術家」の部屋、
「アート・バイ・アート」っていうんです。 |
糸井 |
はっはぁ、なるほど。
ほかの芸術家が描いたアートを、
ひとつの景色として使った、
というわけですね。 |
横尾 |
そうそうそうそう。 |
糸井 |
これはえっと、
いわゆる「パロディ」ではないんですよね? |
横尾 |
パロディみたいな絵もありますよ。
例えばこれは、ルソーのパロディ。
ルソーの絵とそっくりなんだけど、
もとの絵とはどこかが違うのよ。
この絵は、女の人が
腕輪で首を吊ってる。 |
糸井 |
わ! こんなの、ルソーだったら
ありえませんよねぇ(笑)。 |
横尾 |
ほかにも、
自分の頭をボールみたいに持っている人がいたり、
スカートめくりすぎてこんなになっちゃった、
とかいう子がいたりさ(笑)。
色は違うけど、構図はもとのまんまでしょ? |
糸井 |
これは、横尾さんがルソーを好きだから
描いたんですよね。 |
横尾 |
うん、そうだよ。
サインは「アンリ・ヨコオ」って
描いてあるでしょ。 |
糸井 |
Henri Yokoo・・・。 |
横尾 |
アンリ・ルソーのサインと
おんなじ描きかたなんです。
この絵も、もとはルソーなんだけどね、
ライオンが人を食べちゃったふうにしたの。
骨だけが残ってるの。 |
糸井 |
ほんとだ。 |
横尾 |
そしてこんどは、
襲うところを頭のほうから
描きたくなっちゃってね。 |
糸井 |
わあ、これか!
|
横尾 |
こういうかんじで襲ったんじゃないかと。 |
糸井 |
マンドリン、飛んじゃってますよ(笑)。 |
横尾 |
グフフフ。 |
糸井 |
ハハハハハ。
この一連のものは、
『漫画少年』に出てても
おかしくないような雰囲気ですね。
『漫画少年』は、昭和23年に創刊された
人気雑誌。手塚治虫をはじめ人気作家の連載や、
読者投稿に対して大きく門戸を開いていたことで
有名。この投稿からたくさんの有名作家が
生まれている。横尾忠則も、藤子不二雄も、
赤塚不二夫も和田誠も筒井康隆も、
この投稿欄の常連なのでした。 |
|
横尾 |
うん、うん。
襲われている後ろ側から見た絵があって、
横側から見た絵があって。
まるで3コママンガみたいだね。 |
糸井 |
これはもう、遊びですね。 |
横尾 |
まあ、遊びですよね。 |
糸井 |
ニセのほうを
特化して見せている。
はぁぁ、これも、
おもしろいですね。
|
横尾 |
ここには、ルソーやキリコの顔がならんでるよ。
ピカビアもいるし。
あー。・・・これは何だっけ?
ええと、この文字はなんだったっけな? |
糸井 |
91Rって描いてある? |
横尾 |
あ、PIR、RIPだよ!
んー、何の略だったけ?
そうだそうだ、レスト・イン・ピース。 |
糸井 |
なるほど。
安らかに眠れ、ですね。
横尾さんのなかでは、
絵を描く人びとに対する共感が
とても高いんですね。 |
横尾 |
そうだね。 |
糸井 |
自分の知っている人たちに対して、
何かを思うことが
横尾さんには、多いんでしょうか。 |
横尾 |
うん。 |
糸井 |
その人を描くことによって
成仏させる、ということを
考えたりしますか? |
横尾 |
成仏ってなに? |
糸井 |
ええと、横尾さんは絵のなかに
いろんな死者を、よく出しますよね。 |
横尾 |
うん。ああ、そういうことか。
そうだね。
うーん、ま、あの、
成仏してない霊っていうのは多いんですよ。 |
糸井 |
ええ。 |
横尾 |
そういう霊に対する鎮魂の気持ちで
描くことはありますよ。
とくに同級生の連中とかさ。 |
糸井 |
ああ、そういう絵もありますよね。
亡くなった同級生の顔が描かれている絵は、
この先1Fの「死」の部屋にたくさん
出てきますよ。 |
|
糸井 |
この絵は滝だらけですね。
|
横尾 |
フフフ。
これは、ベラスケスのね、
あの有名な、
ラスベガスじゃなくて、
ダースべーダーじゃなくて、
なんだっけ(笑)?
プラド美術館所蔵、ベラスケスの
「ラス・メニーナス」をもとにした
作品です。 |
|
糸井 |
これはなんですか?
ジーザス・クライスト。
|
横尾 |
真ん中にいるのが、アーチストなの。
ま、ぼくでもいいんだけど、
アーティストっていうのは、殉教者みたいなもんですよ。
イーゼルに描かれている文字は
みんなぼくの作品の題名なんだよ。 |
糸井 |
ほおお。 |
横尾 |
で、ここに並んでるのは。 |
糸井 |
テニスボール・・・。 |
横尾 |
うちのカミさん、テニスやってるの。
テニスボールがカミさんで、
はりつけになっているのがぼく。 |
糸井 |
大きくいえば夫婦で合作、ですね。 |
横尾 |
カミさんがテニスで
楽しくやってるあいだにねぇ。 |
糸井 |
自分はこうだ、と(笑)。
芸術家って、
しかたなく続けていくしかないような
職業なんですか? |
横尾 |
いや、ぼくはそう思わないね。 |
糸井 |
やめてもいいんですか? |
横尾 |
やめてもいいんじゃないかな。 |
糸井 |
横尾さんは、続きますよね?
こんなにも。 |
横尾 |
ぼくは、やめるよ。
「もうこれ以上吐き出せるものがない」とか、
「描く必然性がない」と思ったときにはね。 |
糸井 |
そうなんですか。
そういう予感は
まだないんですか? |
横尾 |
少しはある、かもわかんないけどね! |
糸井 |
年をとるにつれて欲望がどんどん強くなる
ということは、ないんですね。 |
横尾 |
あ、それはないね。
欲望は少しずつ、描くことによって
減らしていく作業だと思うからね。
新たな欲望を探し求めるっていうことはないですね。 |
糸井 |
ってことは、自然に、
植物が太ーくなってって、
朽ちていくみたいなことがいいわけですね。
自分の気持ちとしては。 |
横尾 |
そうですね。
だから、何か吸収したいという気持ちよりも、
もうすでに吸収したものを、
どれだけ吐き出すかっていう、
そういう作業を
ぼくはしているんじゃないかな。 |
糸井 |
でもね、「吸収」って、どうしたって
しつづけてしまうものではないですか? |
横尾 |
そっかなぁ?
|
糸井 |
ぼくはついつい、吸収しちゃうんですよ(笑)。 |
横尾 |
うーん、まあね。 |
糸井 |
ええ。息を吸ったって、
なんか吸収してますからね。 |
横尾 |
うん、それはそうだね。
行為を起すことじたいが、
次のことにつながっていくよね。
だけれども、それを
自分が取り込まなきゃいいわけだな。
なんというか、通りすぎていくのがいいんだ、
と思うんだよ。 |