横尾 |
糸井さん!
これ、糸井さんの好きな絵だよ。
ここに飾っておいたんだよ。
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糸井 |
わぁ! これ、嫌いなんですよ!
嫌いで気になる(笑)。 |
横尾 |
じつは糸井さんとおんなじように言う人が
ずいぶん多いの。うん。ずいぶん多い。 |
糸井 |
イヤなんですよこの絵(笑)。
ところで、ここ、何の部屋?
あっ! 「死」ね。 |
横尾 |
うん、そうなの。
「死」の部屋。
(声をひそめるようにして)
寂しーい、冷たーい、
ひんやりした部屋でしょう?
あんまり糸井さんがこの絵を
「生気のない絵」っていうから
ここに飾っておいたんだよ。 |
糸井 |
この絵はね、横尾さんの持ってる個性や技術が
どこでどう使われてるのか、
見当もつかないんですよ。 |
横尾 |
これは、ごくアカデミックな技術を
使ってるんですよ。 |
糸井 |
ああ。だから、個性がなくって、
かんじが悪いんですかね? |
横尾 |
うん、そうでしょうね。
「もろアカデミック」だからね。
そうね、これは
ものの30分くらいで描き上げちゃいましたよ。
そうでないとこういうのは、どうも描けないのよ。
パッパッパッパー、
シャッシャッシャッシャーとね。 |
糸井 |
シャッシャッシャッシャーと(笑)。
横尾さんの「気」が入ってないからかなぁ。 |
横尾 |
すごく感覚的に描いているんですよ。 |
糸井 |
ほかにいくらでも語ることのできる絵はあるのに、
この絵に目が行く自分がもうイヤ! |
横尾 |
これだけたくさんの絵があるのに
この絵が気になる、って言う人は何人かいるよ。
美術館の人もそう言ってた。 |
糸井 |
なんなんでしょうか(笑)。
だって、ほかの絵はどれだって、すごい。
ふと目をやると・・・わぁー、すげえ!!
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横尾 |
黒いのが、同級生の死んだ子たち。
ほら、これも見ないと!
花のなかにも・・・。 |
糸井 |
あー、いたいたいた。
幕の上部にも、目を凝らすとたくさんの小さな顔があります。 |
横尾 |
貼ってある顔写真はみんな、
死んだ人たちばかりなの。
さ、次の部屋、次の部屋。 |
糸井 |
赤い! うはぁ。
赤い色は、横尾さんに
ずいぶんお世話になってんですね。
あ、ほんとに「赤」って部屋なんだ。
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横尾 |
そうなの。
「赤」の部屋。 |
糸井 |
この絵・・・。
すごいですね。
横尾さんはいつなんどきでも
誰にも負けちゃいなんだな。
ところでこの展覧会、
そうとう見ごたえがありますね。 |
横尾 |
いまごろ気づいたの?? |
糸井 |
ウソじゃなかった。はぁぁぁ。
いやこれは、お客、大変だわ!
ちょっとしたお百度参りみたいなかんじがしますね。 |
横尾 |
お百度参りだったら、
それだけ御利益がないとね。 |
糸井 |
あるんじゃないでしょうか?
こんなにいっぺんにいろんなこと、
思ったことないですから! |
横尾 |
うーん。どうかね?
みんなそんなふうにかんじてくれるいいけど。
さあ、つぎは
前回原美術館でやった
「Y字路 暗夜光路」の部屋だよ。
これは、原美でやった展覧会そのままがここに来たの。
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糸井 |
あんときは不気味だったのに、
いま見ると、なんだかホッとしますね。 |
横尾 |
そりゃ、「死」の部屋とか「赤」の部屋から
ここに来るとね(笑)。 |
糸井 |
ですね!
ここは、生きてるかんじがする。 |
横尾 |
この部屋はね、ぼくもいちばんホッとしますよ。
この2枚はね、
おんなじ場所を描いたの。
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糸井 |
くらべると、けっこうちがいますね。
どうして2枚描いたんですか? |
横尾 |
この絵を買いたいっていう人がいたの。
ぼくは、この絵は売るのが嫌だったから、
「もう1枚同じ絵を描くから、新しいほうをあげますよ」
って言ったの。
その人は、現物をほしがったんだけど、
ぼくは無理矢理に描いたわけ。
そうしたらさ、描き直した絵のほうが
できがいいわけよ。 |
糸井 |
ブッ(笑)。 |
横尾 |
技術的にもいいんだよ、そっちのほうが。それで、
「やっぱり、これを、
あなたがいちばん欲しいって言ってたほうをあげます」
って言って、もとの絵のほうをあげたの。 |
糸井 |
買われた方は、初志貫徹できたわけですね。
「ふたたび」という題の絵のほうが、
作家蔵になってる(笑)。
でも、このふたつの絵、ところどころちがうなぁ。
どうしてでしょうか。 |
横尾 |
見本にした写真がちがうんでしょうね。
こっちはちょっとしゃがんで撮ったんだろうな。
光の散り方も違うよね。
時間が違うってことかな? |
糸井 |
時間が違いますね。
ここの街路灯も、もうこっちでは消えてるんですよ。 |
横尾 |
あ、ちょっと待って。
木の生え方もちがう! |
糸井 |
ああ、ちがいますね。
これは、横尾さんが勝手にそうしたの? |
横尾 |
ちがうちがう。
この2枚の絵のここまでの間には、
10か月ぐらいのタイムラグがあると思う。 |
糸井 |
ほっほぅ。 |
横尾 |
だから、ここの花がぜんぶ枯れてしまって、
こうなったの。・・・うん、そういうことなの。
また今度撮影しにいこうかな。
なにかしらちがうものが、現われると思うからね。
あれっ?! |
糸井 |
何ですか?! |
横尾 |
あれぇぇ!?
ここに窓があるけど、こっちには窓がない!
窓があるのに
窓がない! |
糸井 |
これは、時間では変わらないですよ・・・(笑)。 |
横尾 |
忘れてるだけ。単に忘れてるだけ。
それか、写真が暗くって、
なじんでしまって見えなかったのかもわかんない。
ちっちゃい写真見て描くんだから。 |
糸井 |
2枚並べてみると、いろんなことがわかりますね。 |
横尾 |
はぁぁ。 |
糸井 |
これは、どうでもいいことだと思うんですけど、
看板なんかの文字を意識しないで描くって、
けっこう難しいことですね。
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横尾 |
ああ、字は読めるからねぇ。
読めるんだけれど、そのとおりに
書きたくないわけですよ。 |
糸井 |
意味を知ってるがゆえに、
ちがうかたちに仕立て上げちゃうっていうことは、
しょっちゅうありますよね。 |
横尾 |
意外と、美術評論家は、
そういうことは言わないですよ。 |
糸井 |
下らないからですかね(笑)? |
横尾 |
いや、ぼく、そういうことは
すごく大事だと思う。 |
糸井 |
描く人は、そういうことを
ものすごく思ってるでしょうから。 |
横尾 |
うん、思ってる。
だって、ほかはかなりリアルに描いてるんだよ? |
糸井 |
エロティシズムの表現でもそうだと思うんですけど、
過剰にあっさり描いてるか、
妙に印象づけて描いてるか、
そこはすごく注目すべきところなんです。
思い切り強調したらポルノグラフィーになるし。
暗黙の了解を利用したり、しなかったり。 |
横尾 |
うん、うん。 |
糸井 |
文字でもエロスでも、おんなじことですよね。
人は意味を発見するから。 |
横尾 |
そうだね。Y字っていうのは、
股広げたみたいだよね。 |
糸井 |
そう言えばそうですよね(笑)。 |