妻は、大学のキャンパスで 私と初めて出会った日のことを おもしろおかしく知人に話して聞かせるのだが、 そこには明らかなごびゅうがいくつかある。 たとえば、当時私はアフロヘアではなかった。 妻が所属していたのはラクロス部ではなかったし、 出会った場所は駅前の焼き鳥屋だった。 ふたりが意気投合したのは ゴダールの映画についての解釈ではなく 『ロッキー2』についての話だったし、 気分が悪くなった妻を介抱したという話は、 酔っぱらって警官をからかおうとした妻を 私が必死で止めたというだけのことである。