おんみつ
・いんみつ

【隠密】


例文 「おまえ、おんみつだな?」
「いや、オレはおんみつじゃない」
「うそつけ、おんみつだろう?」
「オレはおんみつじゃない。
 だいたい、もしも
 オレがおんみつだったとしたら、
 自分のことをおんみつだなんて
 言うはずがないだろう?」
「バカだな、それは考えが逆だ。
 おんみつだからこそ、自分のことを
 おんみつじゃないって言うんだ。
 もしも、おまえが
 自分のことをおんみつだと言ったら
 それはおんみつじゃないっていうことになる」
「じゃあ、オレはおんみつだ」
「ほらみろ、おんみつじゃないか」
「そうじゃない。
 いまオレが自分のことを
 おんみつだと言ったのは、
 自分がおんみつじゃないということを
 証明するためなんだ」
「自分のことをおんみつじゃないと
 証明してみせるなんて、
 それこそおんみつのやることじゃないか」
「やけにおんみつにくわしいね」
「それはオレがおんみつだからだ」
「なんだ、おまえはおんみつなのか」
「バカだな。おんみつが自分のことを
 おんみつだなんて言うはずないだろう」
「ということは、
 自分のことをおんみつだと言ったおまえは
 おんみつじゃないということか」
「そういうことになる。
 オレはおんみつじゃない」
おんみつじゃないと言った瞬間に
 おまえはおんみつになるぞ」
「そうかもしれない。
 けれども、おんみつになった瞬間に
 オレはおんみつではなくなる」
おんみつというのは
 まるで合わせ鏡のなかに続く
 無限の通路のようだな」
「うまいことを言う。
 まさにおんみつとは
 合わせ鏡のなかの通路だ」
「ぼちぼち、雨もあがったな」
「うん。そろそろ行くとしよう。
 おまえは西へ行くのか?」
「ああ。密書を届けなきゃならん」
「オレは東で城内の偵察だ」
「道中、お気をつけて」
「道中、お気をつけて」

とじる