ざる
【笊】
悦子がなんの前触れもなく家を出てから半年。
食事をつくるのも、後かたづけをするのも、
俊郎は自分ひとりでやらなければならなかった。
ひとりでつくり、ひとりで食い、
ひとりでかたづける。
つくることと食うことには慣れたが、
後かたづけだけはいまだに慣れない。
「‥‥
ざる
を洗うっていうのは、
なんだかとっても不条理な行為だな」
夜の台所で、俊郎はひとり思った。
とじる