ARAI&YONEMITSU
夢中になりたい!
広島・東京・世界

第5回 『赤毛のアン』後編
ア: で、どうよ、古今東西2億人読者(適当)を
魅了しているというアンのおしゃべりは?
よ: ああ! アライ! どうよ、なんて聞いちゃいけないわ。
だって、想像してみてごらんなさいよ。
ええ年こいたおっさんが、いつの間にやら
アンと一喜一憂しながらページをめくってるところを。
言葉は魔術だって先生はおっしゃったけど、
これがそういうことなのね。
もっと若い時に読んでいて強い感化を受けていたら、
どうなっちゃってんだよ、と思うと恐ろしくなるわ。
エドワードプリンス島に行って、写真撮って、
アングッズを手に入れて、それから、部屋は乙女ちっくに
模様替えしていたかもしれなくってよ。
だって、エドワードプリンス島って、
ある種のユートピアなんですもの。
みんな良い人で、だれひとりとして悪い人がいないの。
もちろん、アンは何度も失敗をやらかして、
マリラをハラハラさせるけど、それはしょうがないと思うわ。
だって、まだ子供なんだし、
アンの想像力の翼は大きく強いのですもの。
ときどき喧嘩や騒ぎが起こるけど、
でも、みんな根は良い人で、
惨劇とか怨念とか妄執とか復讐とか毒婦から縁遠い世界で、
犬神家の一族の方々が、これを見たら何て思うんだろう
と想像すると少しおかしくなっちゃうわ。
ア: ごくろう、げげげのアンさんや。
そうかあ、そんなに夢々しかった?
よ: 必要十分にして、それ以上に、そうでしょう。
ア: ヘンな言い回しね!
「アンシリーズ」全巻通しで読んだのが11歳、
アヴォンリーに到着したアンと同じ年なのね。
それ以来、何度読み返したかわからんが、
今でも完全にアンに感情移入できてしまう。
今回ネタにしたのも、いわば感動の永久機関たるアンを、
大人になって初めて読む人、しかもオトコはどう読むんだろう
ということを知りたかったからでした。
よ: まぁ読む年齢というのは、
非常に重要なキーとなる作品だと思うけどね。
ア: そりゃま、年のせいか、
アンへの愛情に目覚めていくマリラの姿をリアルに感じたり、
ぼやぼやすんなギルバート!とかね、
読み手としての多少の変化はあるけど、
そういう部分もふくめて十分鑑賞に耐えてしまう。
よ: はい。
ア: たぶん完全な現実逃避、ライナスの毛布なんだろうなあ。
以前、『鳩よ!』で「少女マンガが好きだった」という特集を
やったことあんだけど、
少女マンガを一切読んだことのない30歳の
オンナに100冊一気読みしてもらって感想を書いてもらう
という企画をやったのね。そんとき彼女が
「少女のころに
“生涯にたったひとりだけの人を愛する”ということを
一瞬でも信じたことがあって大人になるのと
そうでないのとでは、
その後の人生の処し方が少し違って来ると思う」と言ってて
「ああ、そういうことか」と思ったのね。
アンもそうなのよ。
「腹心の友」探しもそうだし、ギルバートの設定がそう。
“本当の愛にわたしはまだ気付いていないだけ”っていうね。
もう「ギルバート症候群」とでも名付けたいくらいに。
30半ばを目の前にして、アンの一喜一憂に同化して
ほろほろ泣いている午前3時。これはもうホラーだよ。
でもそういう人世界中にいると思うわ。
どうよ、よねみつ、「犬神家」より怖かろう?
よ: そうさな、わしには、よくわからんがな。
ア: 今度はマシュウね。
じゃ、リンド夫人でお返しするわ。
くだらんもんさね、男ってやつは、まったくのところ。

●『アン・シリーズ』データ
アンの青春 完全版 アン・シリーズは全10巻。
村岡花子訳で新潮文庫から出てます
(どっからでてるか忘れたが
松本「拒食症」侑子も訳してたな)。
最後のほうはアンのこどもたちの話で、
第一次世界大戦に出征して
とーぜん悲しいことになって……うわーん。
1954年の訳なので全体に
日本語がおっとりしててすてき。
「いちご水」「しょうが入りビスケット」
「雛鳥のゼスリイ」など、わかるようなわからんような
食べ物の名前が次々に登場してきて
「うわー、どんなんじゃあ?」
と想像してると、お腹がすいちゃう。
でもね、「ジンジャーブレッド」って
ストレートに訳されてたら
きっとこんなに魅力的じゃないん
だろうと思う。
牡丹百合がチューリップのことだってのも
アンで知りました。(アライ記)

●次号予告
よ: 次回のネタは、このラララン気分を一掃すべく
『死霊のはらわた』(サム・ライミ監督)か
『ブレインデッド』(ええと、監督だれだっけ?)か
『ミッドナイト・ミートトレイン』
(クライヴ・バーカー著・集英社文庫)のどれか、
どーでしょう?
どれもこれも血と肉のスプラッターものです。
ア: 来たわね来たわね。いつかくると思ってたのよ。
最も苦手な分野です、特に映像はね。
よ: じゃあ『死霊のはらわた』。
ア: ぎゃーっ! 誰かいっしょに観てもらってもいい?
  To Be Continued

1998-09-09-WED

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