ア: |
恩田陸の最新刊
『月の裏側』(幻冬舎)をお薦めします。
読み終えたばかりでまだ興奮してますが、
よかったです、とても。 |
よ: |
わぁ読んでない。恩田陸さんは
『六番目の小夜子』からファンであります。
わぁ読まなきゃ。どんな作品ですか。 |
ア: |
抒情SF? そんな感じで。
舞台は九州の水郷「箭納倉(やなくら)」で
福岡県の「柳川」がモデルになっています。
<水郷の街に続出する謎の失踪事件。
失踪したひとは2週間ほどで
またひょっこりと戻ってくるのだが、
一様に失踪時の記憶をなくしている。
同じように失踪した弟夫婦の挙動に
不審を感じた大学教授は
音楽プロデューサーをやっているかつての教え子に
相談をもちかける……>といった導入。
帯コピーは
「恐怖と面白さのデッドヒート。
恩田ホラーの最高傑作!」とか煽ってるけど、
そういう感じの面白さとは
ちょっと違うのね。
確かにインタビューテープに再生される謎の音とか、
耳とか指とか人間そっくりにできたパーツを
猫が運んできてきゃーっとか
ホラーな要素は盛り込まれているんだけど。 |
よ: |
だけど? |
ア: |
むしろ、それに対処する
人間のこころのありようが恐いの。
恐怖の真ん中にいながらも、思わず
「ああ、この画はあのバンドの
ビデオクリップに使えるなあ」と
仕事のこと考えちゃったり、
「なんか映画の1シーンみたいだなあ」と
ヒトゴトのように考えてたり、お腹すいてたり。
人間の無意識ほど不思議で、
また制御しようのない存在はないと思えてくる、
そんな感じの恐さなの。 |
よ: |
コーエン兄弟監督の映画「ファーゴ」で、
殺人犯を追うのが妊娠した警官なのね。
で、殺人が起きた通報もらって出かけるときにも、
夫の朝食の心配したりして。
殺人事件だ! サスペンスだ!ってモードに
入らない登場人物たちって感じが面白かったけど、
その延長線上にある恐ろしさなんだろうか? |
ア: |
きっとそう。
わたしは岩松了の芝居を思い出した。
『アイスクリームマン』って作品に、激昂した女が
烏龍茶入りの紙コップを壁に投げ付ける。
その直後、無意識に足許のスリッパを揃えてる
っていうシーンがあって。
映画とか演劇とかビジュアルのほうが
圧倒的に表現しやすいモチーフなんでしょうね。
文章でここまでやっちゃったのはすごい力技。
恩田陸じしんもどっかで言ってたけど、
この話はジャック・フィニィの
『盗まれた街』と状況が似ている。
で、登場人物が「こんなそっくりの状況で
『盗まれた街』を読んだらどんな感じかなあ」と
実際に読んでみたりするの。
そしたらおもしろく読めちゃって、
「ああ、こんな状況でもフィクションは
おもしろいんだなあ」だって。 |
よ: |
ついこの前、
「風邪泣き」という技法を発見したんですよ。
風邪で寝込んで布団の中で、
ちょっと泣ける本を読むと、
過剰に泣けるのであります。
風邪をひいてるときは涙腺がゆるむのか、
精神的にちょっとセンチになってしまうのか、
とにかくごーごー泣けます。
『時の輝き』という看護婦の卵が主人公の
少女小説読んで泣きました。
状況によって感情の変化の度合いって
そーとーちがうよね。
『盗まれた街』的状況で、
『盗まれた街』を読むなんてのは、
そうとう面白く読めそうな状況で、
うらやましいなー。 |
ア: |
うちの妹は飛行機に乗ってる時に
『マッハの恐怖』を読むと
すごくドキドキするとゆっておった。 |
よ: |
違うクラスの教室に侵入して
欠席者の席に座って『なぞの転校生』を読むとか。 |
ア: |
教室だと『六番目の小夜子』でもいけそうですねえ。
恩田陸はあちこちで連載終わってるし。
今年じゃんじゃか新刊出るはず。
各出版社のみなさん、早くしてくれ〜。 |