不安な漱石
――『門』『彼岸過迄』『行人』

  • 時間

    197
  • 音質

    夏目漱石講演の
    最終章ともいえる講演。
    講演記録は後に筑摩書房の
    『夏目漱石を読む』
    (2002年11月刊)に収録され、
    第二回小林秀雄賞を受賞した。
    音源は主催者提供。

  • 講演日時:1993年2月7日
    主催:紀伊國屋書店 協賛・筑摩書房
    場所:新宿・紀伊國屋ホール
    収載書誌:筑摩書房『夏目漱石を読む』(2002年)




『門』の後にくる『彼岸過迄』『行人』という作品は、
作品としては破綻のほうが多いといっていいのです。
漱石が持っている資質、それから実生活上、
作品上の関心に、なんとかして
解決や自分なりの納得を与えたいという
モチーフの強烈さが、漱石をその後まで
どんどん引っ張っていったということになると思います。
明治以降の文学者で、射程の長い、息の長い偉大な作家は
何人もいますが、漱石は少なくとも
作品のなかでは決して休まなかった、
いいか悪いかは別にして遊ばなかった。
漱石は自分の資質をもとにした自分の考えを展開しながら、
最後まで弛むことのない作品を書いたという点では、
息が長いだけではなくて、たぶん、
もっとも偉大だといえる作家だと思います。