そうですとも、
へりくつです

糸井
ご自分でもちょっとおっしゃられましたけど、
ヨシタケさんの絵本に描かれていることというのは、
結局、へりくつ‥‥といいますか。
ヨシタケ
はい(笑)、そこは自信満々で言えるんです。
「そうですとも、へりくつです」って。
糸井
でも、そのへりくつが自分をたのしませてくれる。
ヨシタケ
そうなんです。ぼくがもともと
ノートにこんなイラストを描いてるのも、
自分自身がすごく落ち込みがちで、
「いや、世の中捨てたもんじゃないし、
おもしろいことがいっぱいあるよ」って
自分に言い聞かせるためのようなところが
あるわけです。
だから絵本も、ちいさいときの自分のような
こどもたちに向けて描いている部分があって。
糸井
そしてそれをおそるおそる
絵本というメディアに載せてみたら、
日本中のこどもたちが
「ぼくもそういうこと言いたかった!」と
反応したというか。
ヨシタケ
そうですね、ありがたいことに。

ぼく自身、こどものころ、
ものすごく人見知りで、引っ込み思案で、
まったく前に出るような子じゃなかったんですよ。
だから、そういう子の気持ちならわかる。
そしてそういう子にとって
「こういう絵本があると、
ひとりでニヤニヤ読めてたのしいだろうな」
と思える本を作ったんです。
糸井
どの本もニヤニヤしてますよね。
ヨシタケ
そうなんです。
ぼくは部屋でひとりでニヤニヤできるのが
絵本の利点のひとつだと思っていて、
そういうたのしさを提供できたらと
思っているんです。
そして当時のぼくみたいな、
常に人の目をうかがってるようなこどもって、
どの時代にも一定数いるんですよ。
糸井
いるでしょうね。
ヨシタケ
だからそういう、自分自身に引け目を感じながら
ひっそりと生きてるこどもたちに、
ちょっとでもたのしくなってもらえたらと思うんです。
自分にできることってそれだけなので。

そのスタンスで
「100人に2人くらいはニヤニヤしてくれるかな」
と思いながら作ったら、
想像以上の人たちがニヤニヤしてくれた、
ということなんです。
糸井
思った以上に多くのみんなが
ニヤニヤしていることに気づいたのは、
どのタイミングですか?
ヨシタケ
単純に、本がたくさん売れたからです。
最初はそんなはずないと思ったんですよ。
糸井
いまの流れでいうと、まずは思いますよね。
「えっ?」って。
ヨシタケ
そうなんです。
「100人に2人くらいは好きになってくれるはず」
というのは、ぼくの中での
ギリギリの担保としてあったんですけど、
それ以上になるなんて全く想像もできなかったです。
それこそ最初の本は
「こんなのでいいんだろうか‥‥」って
ドキドキしながら出してましたから。
糸井
でも出してみたら、そういう
「人に怒られたくない気持ち」や
「へりくつをこねまわしたい気持ち」を
実はみんな持っていて。
ヨシタケ
そうだったんです。
そして、ぼく自身はそこで、
二重の驚きがあったわけです。

まずひとつが、実はみんな、
ぼくと同じような弱さを共有していたということ。
ぼくの苦手な、ぐいぐい前に出ていくような人たちも、
みんなその弱さを卒業して
大人になったんだということがわかって、
びっくりしたんです。

そしてもうひとつが、そういう人たちに対して
ぼくはといえば
「自分はそこで止まったまま、
40いくつになったんだ‥‥」という驚き(笑)。
糸井
ヨシタケさんはきっと
我慢しなきゃいけないシーンで常に、
あまりにも上手に
逃げられすぎてきたんじゃないでしょうか。
ヨシタケ
そうだと思うんです。
「いかに自分がうまく逃げるか」
「非難されずにすむか」「怒られずにすむか」とか
そんなことばかりやってきて、
テクニックがすごく磨かれてしまった。
そしていつのまにか、逃げる以外のことが
できないところまで来ちゃってて。
糸井
そういうことですよね。
ヨシタケ
だからいまとなっては、
そこを売りにするしかなくて。
「逃げ方や負け惜しみの
ノウハウならあります」って(笑)。
糸井
ぼく自身もいろんなことから逃げてきたほうで、
ヨシタケさんと共有してる部分が
けっこうある気がするんです。
ただ、途中で枝分かれしたと思うのは、
ぼくは逃げきれない場面に遭ううち、
両方持つようになったんですね。

たとえば、お嫁さんをもらうときに
相手の両親から
「一生愛してくれるんだろうな?」
と言われたときに
「それは、わかりません‥‥」
とか返したら、ダメじゃないですか。
ヨシタケ
そうですね。
ほんとは未来なんて誰にもわからないし、
理論的な正解はそうなんですけど。
糸井
でも、ぼくはその場で脂汗たらしながら
どうしようもないことを言っちゃったりして、
あとで「どうしよう‥‥」みたいなことが
けっこうあったんです。
そしてたぶん、そんなことを通じて
大人になる練習をしたんだと思うんですよ。
ヨシタケ
ぼくの場合はそこでいちおう
空気を読んでうまく返せるというか。
「ご両親を安心させるにはこの答え、
でも、ほんとうに思っているのはこっち」とか
両方を使い分けられちゃうんです。
糸井
逃げつづけるプロフェッショナルは、
そこで使い分けられるわけですね(笑)。
ヨシタケ
そうなんです。
実はぼく、
大人になってほんとによかったと思ったのが
「大人って嘘をついていいんだ!」
ということだったんです。
「うわべだけでお互いが傷つかないように
距離を保てるなんて、
大人って、なんてすばらしいんだろう」って。
一同
(笑)
糸井
ネクタイしちゃえばそれで済んじゃうみたいな。
ヨシタケ
そうなんです。距離を保って
「お互い触れちゃいけないことがあるよね。
そこは触れずにおこうね」として、
あとは思ってもないことを言い合って
「ありがとうございました」と終われる。
なんて素敵なんだろう、って。
糸井
その感覚はね‥‥天才です。
ヨシタケ
そうですかね。
糸井
逃げの天才。ウサイン・ボルトのような。
一同
(笑)
ヨシタケ
でも、その心地よさにどこかで酔いしれながらも、
やっぱり
「おまえはとんだ嘘つきだな」
と思うもうひとりがいて、
常に後ろめたさも抱えているわけです。
「そんな思ってもないことを、よく笑顔で言うね」
と思う自分と、
「だけどここで笑顔で言うからこそ、
みんなが傷つかずに今日おうちに帰れるんでしょ」
と思う自分が両方いて。
糸井
はぁー。
ヨシタケ
そして、迷ったときには結局
「場を荒立てたくない」が
いちばん上位にくるんですよ。
糸井
それは良い言葉で言うと「社会性」ですね。
ヨシタケ
ものすごく良く言えば、そうなんですけれども。

(つづきます)
2017-05-15-MON