色からも逃げた

ヨシタケ
実はぼくにはもうひとつ、
絵本作家としてめずらしい部分がありまして。
あ、色を、デザイナーさんに‥‥
つけていただいていまして。
糸井
(笑)
ヨシタケ
というのがぼく、色をつけるのが
ほんとうに下手なんですね。
だから最初の絵本を作るときにも言ったんです。
「ぼく、色がとにかく下手なんです」
「もともと自分のために描いていた絵なので、
色のセンスがとにかくないんです」
って。
「‥‥だから、ほら、絵本はできないでしょ?」
とお伝えして。
糸井
ええ。
ヨシタケ
そしたら編集のかたから
「別に色のない絵本もあるし、
たとえばりんごの絵本なら、りんごのところにだけ
赤い色がついている場合もありますから」
とか言われて、
「そうか!」とすごく勇気づけてもらったんです。
それで、せっかくのお話だし、
自分なりにがんばってみようと必死で色をつけて、
見てもらったんですよ。そしたら‥‥。
糸井
はい(笑)。
ヨシタケ
「あーなるほど‥‥色は‥‥そうですね」
とか言われたあと、
「デザイナーにつけてもらいましょうか」
って、きっぱりとボツになったんです。
糸井
その「自分は色がダメだ」
というジャッジができるのも、
さっきの筑波の話ですね。
「おれだってできる」とか思わないんですね。
ヨシタケ
まったく思わないんです。
「こんな絵を描く人がいるなら、もうかなわない」
とかすぐ思いますから。
糸井
すばらしい。ぼくと同じです。
ヨシタケ
諦めるのがめちゃめちゃ早いんです。
糸井
おれのことだ。
一同
(笑)。
ヨシタケ
いまからスタートして
追いつけも追い越せもしないとわかったら、
ぜったいにやらないんです。
勝ち目のないことはやる気がしなくて。
「その時間に別の、自分が持っているものを
磨いたほうがまだよくない?」と考えるので。
糸井
そのとおりだと思いますね。
ヨシタケ
で、これが「MOE」の特集で、
自分で色をつけたページですけど。
糸井
最低限つけたんですね。
ヨシタケ
自分のできることって、これが限界なんです。
1、2色ならまだいいんですが、
3色目だともうだめ。
何色を選べばいいか、まったくわからないんです。
もっと言うと、
自分でぜんぜんたのしくないんです。
糸井
それはよしたほうがいいですね。
もともと自分を慰めるために描いてた絵なわけで。
ヨシタケ
線を描くのはたのしいんですよ。
「この文章にこういう絵をつけると
わかりやすいんじゃないか」とか、
「このアングルから描くと
よりおもしろいんじゃないか」とか、
そういうのを考えるのは大好きなんです。
けど、線画を描き終えたあと
「これに色をつけるのか‥‥」となったとたん、
労働感が出るんです。
糸井
ああ、いやだ、いやだ、と。
ヨシタケ
そうなんです。やらなくてもいい気がするというか、
それこそ「餅は餅屋だな」と
自分で自分を慰めるわけですけど。
糸井
それもまあ、色から逃げたわけですよね。
見事に。
ヨシタケ
はい、もう完全に、
バーーーン!って逃げて。
糸井
バーーーン!って。
ヨシタケ
ただ、絵本って、
色で勝負してなんぼの世界でもあるんです。
そのなかで、この絵で大賞をもらうことの
所在なさたるや、いったい自分は
誰に謝ればいいんだろうと‥‥。
一同
(笑)
糸井
そこは、英米文学に対して南米文学があるみたいに、
別の出身地だと思ったらいいんじゃないですかね。
「おれは字からきた人だから」って。
ヨシタケ
そうですね、そうやって言い訳するしかなくて。
そんなふうに日々、自分の所在なさを感じたり、
言い訳を考えつづけたりしてまして、
そんなことに時間を費やして、
寿命がどんどん減っていくんですけど。
糸井
はい(笑)。
ヨシタケ
だから、絵を拡大してたり、
自分で色をつけてなかったり、
もうぜんぜん大きな顔ができないですね。
糸井
でも‥‥このなんていうか、
他人が聞くと「みんな言い訳」みたいな話は、
ぜんぶおもしろいですね。
ヨシタケ
あとはもう、この逃げ方を
たのしんでもらうしかないんですよ。
自分で自己完結して、自分を理論武装して、
自家発電をして、という。
糸井
絵だけの人にはできないだろうなと思うのは、
こういうところですよね。
この絵本ぜんぶを「あり得るんじゃないか」と
成立させているのは、このロジカルさだから。
ヨシタケ
だからぼく、いわゆる抽象画が
いっさい描けないんです。
いくつか図形を描いて
「悲しみを表現してみました」とか、
「午前3時のブエノスアイレスです」
みたいなことが、ぜんぜんわからなくて。
何をどうすればそんな絵ができあがるのか、
もう、まったくわからない。
一同
(笑)
ヨシタケ
ぼくがわかるのは
「これは箱が3つ並んでいる絵です」とか、
「人が2人いて、1人がしゃがんでる絵です」とか。
何かの状態を記録するようなものしか、
ぼくは描けないんですね。

(つづきます)
2017-05-17-WED