解剖、蓮の実、いちごの芽。

ヒグチ
紅茶を持ってきました。

(と「ギュスターヴくん」の紅茶セットを
 テーブルに出す)
糸井
わあ、これは、ほしくなるなぁ。

これ、著者のところにも
一個もなくなっちゃうタイプの商品だよね。
ヒグチ
あと、絵の具。

(と、ホルベインの透明水彩絵具を出す)
糸井
あ、この絵の具、色もいいんですよねえ。
何度か買おうと思ったくらいだから。
ヒグチ
差し上げましょうか。
糸井
いや、絵の具って
ふつうの人は要らないと思うんですよね。
でも「要る」って感じがして、悩ましい。
ヒグチ
ええ、ものとしての「よさ」があります。
見てると、ほしくなっちゃう。
糸井
それはそうと「鳥」なんですね。
ヒグチ
写真を撮られるってことで、すみません。

この鳥の被りもの、部屋に置いておくと、
ものすごい視線を感じるんですよ。
糸井
そうでしょうね(笑)。背後からね。

ぼく、ヒグチさんのわるい影響を受けて、
あれ買っちゃったんです、解剖の‥‥。
ヒグチ
あ、蝋人形の写真集? 解剖の。

※『アナトミカル・ヴィーナス
  解剖学の美しき人体模型』のこと。
糸井
ものすごい説得力だった。
ヒグチ
美しいですよね。
糸井
あの写真集のことを知っちゃってから、
「もう買う!」って。

で、いざ宅急便で届いて、
夜それを眺めてる自分というのが‥‥。
ヒグチ
解剖もの、はじめてじゃないですよね?
糸井
はじめてですよ!

ふだん、
解剖のことなんか考えてないですから。
ヒグチ
ああ、そうか。
糸井
言っときますけど、
「蝋人形の解剖の写真集」というものは、
ふつうの人の生活には、ないです。
津田
わたしもドイツのブックフェアーで見て、
「いい!」と思った瞬間に、
「はっ!」と、
「わたし、
 ヒグチさんのわるい影響を受けてる!」
と思いました。

※この日は、仲良しでらっしゃる、
 グラフィック社の津田淳子さんも
 ご同席くださいました。
糸井
それで、
グラフィック社さんが日本版を出したんだ。
ヒグチ
ええ、「帯を書いて」って仕事が来ました。
糸井
ヒグチユウコさんの「はじめての帯文」は、
蝋人形の解剖の写真集だった。
ヒグチ
そうです。
糸井
もっとも、あれは概念芸術の領域だから、
ほしい人がいなくはないだろうな、
というのは、なんとなくわかりますよね。
ヒグチ
球体関節の人形が好きな人とか。
糸井
ぼくたちが
「ヒグチさんにわるい影響を受けてるな」
というのは、ようするに、
価値基準を揺るがされてるわけですよね。

ヒグチユウコに。
ヒグチ
あー。
糸井
とどめを刺されたのが
あの、こないだの「いちご」の件ですよ。

いちごの表面のつぶつぶから、
いっせいに芽が出てる‥‥っていう状態、
あれキツいなぁと思ってツイートしたら。
ヒグチ
大好きです。
糸井
えらい勢いでツイートしてたよね。
ヒグチ
わたしの「つぶつぶフォルダー」に入ってる。
糸井
そうだろうなあと思った(笑)。

だから次に
「じゃあ、永久歯が
 次に隠れているレントゲンはどうかな?」
と書いたら、「もちろん!」と。
ヒグチ
乳歯の下に隠れてるわけですよね、永久歯が。
子どものアゴにところに。

その見えない存在をイメージしながら、
毎日、我が子の顔を見つめ、
歯磨きの仕上げを、してあげているわけです。
糸井
う、うん。
ヒグチ
これはツイートにも書いたことですけど、
あるときに、うちの息子が、
鼻の検査でレントゲン撮るってなったときに、
見ることができたんです、実際に。

先生に「これを見るのが、夢だったんです!」
と言ったら、
「ほんと?」みたいに、超盛り上がりました。
糸井
先生のほうは専門家だから、
ちょっと、うれしかったのかもしれないよね。

ふつうの人には、通じなそうな話だし(笑)。
ヒグチ
永久歯がロケット鉛筆の弾みたいに入ってて、
それが出ていったあとは、
「空洞」が埋まっていくわけじゃないですか。
糸井
うん。
ヒグチ
そういうこととか、もう、ものすごい不思議。
糸井
そんなヒグチさんですから、
当然「蓮」なんかも、お持ちですよね?
ヒグチ
ええ、大好きですね。
糸井
ご自宅に飾ってますよね、きっと。
ヒグチ
飾ってます。
糸井
ぼくはこのあいだ、やっと買ったんですよ。

もう、中がからっぽのやつと、
中にまだコロコロ種が入ってるやつとなら、
入ってるほうが、よりキツいですね。
ヒグチ
蓮にも種類がいろいろあって、
あの穴が、ものすごく大きいのもあれば、
ちっちゃいのもあるんです。
糸井
ええ。
ヒグチ
ドライになっても、種を出さないでおいて、
ぜんぶの「目玉」が
「じーっとこっちを見ている」状態で、
ケースに入れようとしたところ、
うちで飼ってる猫に蹴つまずきまして‥‥。
糸井
あー。
ヒグチ
つぶつぶが、バーンって飛んだ。ぜんぶ。
糸井
あのつぶつぶ、おいしいんじゃないかな。
ヒグチ
あ、そうなんですか。
糸井
うん、おいしいはずですよ。たしか。

<つづきます>

2017-04-17-MON