糸井
夜中に描いた絵を
次の朝に見て恥ずかしくなるというのは、
裸の時間を見られた、みたいな?
ヒグチ
なんというかですね‥‥
とにかく、かっこつけすぎなんです。
女性より
男性のほうに多い気がするんですが、
「おしゃれすぎて、ちょっと」
みたいな人に、
自分がなっていそうな感じというか。
糸井
ああ、はい。わかります。
ヒグチ
少しくらい「抜けたところ」というか、
「隙」があるくらいの人のほうが、
男性にしても、
女性にしても、魅力的だと思うんです。
それに近いんじゃないかと思っていて。
糸井
なるほど。
ヒグチ
だから、真面目な絵っていうよりも、
どこか笑いを取りたい、
ゆるい感じにしたい‥‥っていう気持ちが、
年々、強くなってきてます。
子どものころから、
けっこう現代アートの世界を見ていたので、
将来は
そういうアカデミックな方向に行こうって
決めてたんですけど。
糸井
そうなんだ。
ヒグチ
でも、その道の途中でいろいろと考えて、
描く絵が、変わっていったんです。
大人になるにつれて、
描きたいモチーフが変化していったりとか。
糸井
おどろおどろしいものは?
ヒグチ
たぶん、もともと好きなんだと思います。
子どものころから、
お寺の地獄絵が好きでじぃーっと見て、
家に帰って思い出しては描く‥‥
みたいなことを、ずっとやってました。
糸井
ふーーーーん‥‥。
ヒグチ
そりゃ赤い絵の具から先になくなるよね、
みたいな。
糸井
それ、今もそうでしょ?
ヒグチ
ええ、今でも赤の減りははやいですけど、
もう血を描くわけじゃなくて‥‥。
エロスもグロテスクも、
直接それそのものを描かずに表現したい、
というところがあります。
糸井
ああ、なるほど。
ヒグチ
いわゆるタブーなモチーフって、
逆説的に、エロスの要素を持ってしまう、
みたいなところが、ありますよね。
神聖な存在だからこそ、持っている魅力。
ただし、絶対に触れてはダメで、
触れた瞬間に、
それは、汚れたものになってしまう‥‥
みたいな、そういう危うい魅力。
糸井
薄皮一枚みたいな。
ヒグチ
そのあたりが、求める世界ではあるなと、
自覚して描いていますけど。
糸井
そういう表現って、これまでは
「全員に通じなくてもいい」
という決意とともにあったものだろうと、
思うんですよね。
でもヒグチさんは、多くの人に通じてる。
ヒグチ
わたし、最近では
「あ、ヒグチさんて猫ちゃんの人ね」
みたいな感じに、
思われてるかもしれないですけど、
自分としては、
そういう意識もあんまりないんです。
糸井
たぶん「両方」をやれてるおかげで、
両方が
うまくまわるようになってますよね。
やりたいことっていうのは、
じゃ、そのつど、出てくるんですか。
ヒグチ
ええ、やりたい方向性というか
「こういうふうにしていこう」というのは、
自分で考えて動いてるというより、
雑談の中から
「ああ、それ、おもしろそうだよね!」
みたいにはじまることが多いです。
たとえば、わたし、島がすごく好きで、
津田さんとも
よく島の話をしたりするんです。
糸井
うん、島。
ヒグチ
実際、津田さんは
よく島に遊びに行く人なのですが、
でも、わたしは飛行機が怖いので、
いつも「想像上の島」なわけです。
でも、ひとつだけ、
ほんとーうに行きたい島があって。
糸井
へえ。なんて島?
津田
イエメンのソコトラ島という島で、
最近、
渡航禁止区域に入っちゃったので、
今は、行けないんですけど。
ヒグチ
ずっとそこに行きたくて行きたくて、
前は禁止じゃなかったから、
あのとき行くべきだったのに、とか。
糸井
その島、なんで禁止なの?
津田
結局、イエメン自体が政局不安で、
ソコトラ島自体は、
そんなに不安じゃないと思うんですが、
首都を通らないと行けないんです。
ですので、
少なくともあと5年はダメだろう‥‥
みたいなことのようです。
糸井
そこには、何があるの?
ヒグチ
ソコトラ島でしか見ることのできない
固有種で有名なんです。
わたしの作品の中にも、
どこかしら、ソコトラ島の動植物から
着想を得たものが出てきたりします。
糸井
へえ。
ヒグチ
わたしの心のアイランド。
津田
切ると血が流れたようになる樹木が、
生えてたりするんです。
ヒグチ
竜血樹っていって。
糸井
(スマホで「ソコトラ島」と検索し)
あーららー‥‥ほんとだ、ほんとだ。
おもしろそう、この島。
ヒグチ
手塚治虫さんの『火の鳥』みたいな、
ああいう世界なんです。
糸井
これは、ちょっと、行ってみたいね。
ソコトラ島、すごいわー。
ヒグチ
ね、行きたくなりますよね!
みんなでちょっとずつお金を出して、
わたしたちを
ソコトラ島に連れてってって‥‥あ。
(糸井のiPhoneケースの裏を見て)
糸井
あ、これね。いいでしょ?
ヒグチ
いい(笑)。
糸井
それ、どこで売ってるんですかって
よく聞かれるんだけど、
空いた時間にコツコツ、
切ってつくってるんですよ、自分で。
<つづきます>
2017-04-19-WED