糸井
まじめな話をすると、ぼくが
ヒグチさんの世界に惹き込まれたのは、
「ニャンコ」がきっかけなんです。
以前は、ヒグチさんの世界って
ぼくにとってもっと遠くにあるもので、
「ああいうの、好きな人いるよね」
「猫もさ、かわいいけどね」
くらいに思ってたのが、
あの「ニャンコ」を見ちゃったら、
何かもう‥‥たまんなくなっちゃって。
ヒグチ
実際に家にいるんです、あのこは。
糸井
ぬいぐるみ、なんだよね。
ヒグチ
息子がその子を特別にかわいがってて、
いまだに離さないんですけど、
かわいがりすぎて
「見るたびにドス黒くなっていく」と
もっぱらのうわさで(笑)。
糸井
そうなんだ(笑)。
ヒグチ
相棒の「アノマロ」も、ぬいぐるみです。
糸井
で、息子さんは「ぼっちゃん」ね。
ツイッターで更新してる、絵日記で言うと。
ヒグチ
そうです。
最初、あの絵日記を、描きはじめたときは、
息抜きで、ふざけて描いてたのに、
息子が「見せてよ」って言うようになって、
そのうち「編集者」になっちゃって。
糸井
出演者兼編集者。
ヒグチ
まず、漫画に自分自身が出てくるし、
なにしろニャンコとアノマロが、
自分のことを大好きだっていう設定が、
うれしかったみたいで。
糸井
そうだよね、それは。
ヒグチ
あと「ことりとボリス」のシリーズも、
息子が影響しているんです。
小鳥と猫のお話なので、
最初、鳥はずーっと鳴いてて、
猫は無理矢理エサあげて、縄で縛って、
いじめてたんですけど、
ピクニックに行ったときに、
まちがって鳥かごを落としてしまって
小鳥、逃げちゃうんですね。
糸井
うん。
ヒグチ
鳥はもう帰ってきませんよ、おしまい、
というような終わりにしたら、
鳥の愛好家の人から、
「食べられるんじゃないかと心配です」
みたいなリプライが、たくさん届いて。
息子も泣きながら
「ひどいよ、人でなし!」って言うし。
糸井
いや、あれは、よかったわー。
ヒグチ
わたし、いい話にしようっていう気は、
ぜんぜん、なかったんですけど。
単行本になったほうは描き直したので、
ちがう話なんですけど、
連載してたときは、もっと長いんです。
糸井
え、それは、まだ見られるよね?
ヒグチ
ツイッターで見られるのかなあ。
食べもの屋さんに入ったとき、
紙ナプキンに描いてたりしてたので、
現物はもう‥‥どこへいったやら。
糸井
異形のものたちと、
異世界の人たちに対する平等な眼差しと、
急にキュンとくる展開が、
もう「あんたは寅さんかい!」みたいな。
ヒグチ
キュンのほうは、
息子の「ひとでなし!」から来てますね。
糸井
ヒグチユウコさんのなかに、
あの成分は、ないはず‥‥ないよねえ?
ヒグチ
キュンとくる成分と、人でなし成分と、
両方あるんだと思います。
好きな本や映画も、
両方、同時にあるものが、多いですし。
糸井
どんな映画が好きですか、たとえば。
ヒグチ
そうですね‥‥『ミスト』とか。
トラウマになりそうだとか、
バッドエンドな映画‥‥みたいなところで
必ず名前が挙がる映画ですけど、
わたし、あの映画、すっごく好きなんです。
糸井
うん、バッドエンドだ。あの映画は。
ヒグチ
鼻息荒くして観てました。
糸井
わかる。
ヒグチ
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』も好き。
糸井
あれも、みごとにバッドエンドですよ。
ヒグチ
このあいだ、みんなとその話になって、
「観てない」って人がいたから、
「観ちゃだめだよ」って言ったんです。
悲しすぎて、仕事が進まなくなるから。
糸井
いやあ、すごくよくわかりますね。
でも、そういうヒグチさんでありつつ、
ニャンコで描いてるのは、
いわば「無償の愛」じゃないですか。
ヒグチ
ああ‥‥。
糸井
ぼっちゃんからニャンコへ、
ニャンコからぼっちゃんへの、無償の愛。
ヒグチ
親の目線から見ると、
いつかは息子も卒業していくんだろうな、
と思うわけですけど。
糸井
しないかもよ?
ヒグチ
それはそれで、いいですね(笑)。
でも、声変わりした野太い声で
ニャンコのこと呼ぶのは
あんまり、かわいくないだろうなあって、
その儚さは、感じてますけどね。
<つづきます>
2017-04-20-THU