|
第7回「近藤勇の、最後のセリフ」 |
|
最後、近藤勇が「‥‥トシ」って言うじゃないですか。
あれ、どう台本に書かれてたのか、ご存じですか?
「トシ」とだけ書いてあって、そこに込められているのは、
「ありがとう」なのか、「あとは頼む」なのか、
それは香取君に委ねられるっていう感じだったんですよ。
で、香取君が最後の撮影でそれをやって、
ぼくはそれをモニターで見ていて、
終わったあとで香取君に、
「あれは心の中でなんて言ったの?」
っていう話をしたんです。
そしたら、香取君が言うには、
ああいう場所に座らされて、首をはねられる直前だけども、
多摩にいるころに歳三といっしょに遊んでるような気持ちで、
『トシ、つぎは何をしようか』って思ったそうなんです。
(最後のセリフが「トシ」だと知ったときは)
いや、びっくりしましたよ。「え?」って。
申しわけない、と思いましたよ。ぼくの名前があって。
いや、もう、ほんと、ものすごい申しわけなかったです。
ぼくは、ウワサで、最後のセリフは
「近藤勇は誠の武士である」って聞いてたんです。
で、ああ、そうなんだって思ってたら、
「トシ」って書いてあって、「うわあ」って。
すごい、こそばゆかったですよ。
ぼくがくすぐったかったのは、
やっぱり香取君とぼくが、
1年間、どういう状態で現場にいたのかっていうのを
まわりのみんなが見てわかっていて、
その関係が最後のセリフに表れていたからだと思うんです。
ぼくと香取君の関係は、『新選組!』にとって、
じつはすごく大事なことだと思うんですけど、
どっちかっていったら
(画面に直接映ることではないから)
意味のないことじゃないですか。
ぼくと香取君のそういう関係があろうとなかろうと
話のなかで(映った部分で)
そう見えればいいことですから。
だから、ぼくと香取君の、
画面の外での関わり方なんて、
じつは、ちっちゃなことだと思うんです。
やっぱりぼくらの仕事は、
テレビの前できれいなもの見せて、
ドラマを見せてっていうのが仕事で、
それ以外のことっていうのは
ほんとうのところは何も伝わらなかったりもしますし。
だけど、きっと三谷さんはそれを見てて、
いちばん核にならない、ちっちゃなものを
いちばんデカくして核にしちゃったんですよね。
最終的に。
いろんなスタッフが大勢関わっていて、
近藤勇っていう主人公が半生記を生きた
1年間のドラマの最後の最後に、
「香取慎吾がなにを言うんだ?」
「近藤勇がなにを言うんだ?」
ってみんなが思ってるときに、
ぜんぶをひっくるめて、
ふだんのぼくと香取君のことを持ってきたんです。
だから、すごいどんでん返しですよね。
あの「トシ」で、すべてが循環しましたよね。
すごいですよね、あれは。
自分が勇だったら?
いやあ、そうですね。うーん。勇だったら。
勇だったらっていう置き換えができないですけどね、
自分の頭の中で(笑)。
でも、もし、五稜郭の、
歳三の最後の場面があったとしたら、
たぶんそのときに考えたのは、
「勇」だったと思うんですよ。
歳三が考えたのは。
やっぱり、新政府軍に入ったら地下で眠ってる近藤に
顔向けができないみたいなことを言って、
最後まで戦ったわけですから‥‥。
やっぱり、それを考えるとすごいですね、
三谷さんのあの「トシ」は。
きっとそうだったのかもしれないです、実際も。
だから、たぶん、きっと、
土方さんは撃たれたときに、
「勝っちゃん」じゃないですけど、
そういうことを思ったんでしょうね。
(終わりです。)
|
|
|
|