── |
三井倉さんが、スジ屋をやられていて
おもしろいなと思うことって何ですか?
やはり「スジを引くこと」でしょうか?
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三井倉 |
そうですね‥‥。
わたくしは、線区担当として2年、
輸送計画としては
長年、埼京川越線に関わってきました。
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── |
ええ。
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三井倉 |
その間、一貫して同線の混雑緩和を
自らの使命として、掲げてまいりました。
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── |
使命‥‥ですか。
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三井倉 |
お客さまから、じかに
苦情の声をいただいたこともあったのです。
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── |
ははー‥‥。
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三井倉 |
そこで、同線の混雑緩和を実現すべく、
長年はたらきかけてまいりました。
幸いなことに、会社のほうでも
「埼京川越線の混雑緩和」という方向へと
方針をかためてくれました。
大崎駅の改良などもその一貫で
2面4線のホームを実現しております。
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── |
へぇー‥‥。
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三井倉 |
同様に、新宿駅でも改良工事を進めました。
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── |
ええ、はい。
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三井倉 |
そして、先ほども申し上げましたとおり、
朝通勤の時間帯に26本入れるため、
長年の懸案事項であった
池袋の改良工事を、完成いたしました。
平成7年、それら一連の工事に着手し、
すべて終了したのは、平成16年です。
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── |
つまり、9年もかけて。
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三井倉 |
わたくしは、池袋駅の工事完成を見たとき、
これでようやく
埼京川越線の混雑を緩和できたと
自分自身を、納得させることが出来ました。
本当に、心から、うれしいことでした。
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── |
なるほど‥‥。
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三井倉 |
さらに、湘南新宿ラインも
列車の運行本数を増やすことができまして、
現在の体系に整いました。
具体的に言うと、朝に6本、
日中のダイヤで毎時4本を増発しています。
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── |
ええ、ええ。
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三井倉 |
運行当初は、宇都宮線・高崎線からの直通列車は
18往復にすぎず、
東京駅や上野駅発着の列車を補助する程度でした。
しかし、池袋の改良工事が完成したおかげで
大宮・新宿・大船の間の南北直通運転を
64往復128本まで、増発することができたのです。
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── |
ものすごい増やしたんですね!
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三井倉 |
東京・上野発着列車の補助的役割ではない、
副都心経由の新路線。
これを実現できたことも、
同じように、たいへんうれしかったですね。
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── |
池袋駅をはじめ、
改良工事で設備が整ってきたおかげで、
三井倉さんのダイヤを
実現することができたということですね。
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三井倉 |
関係者の努力と協力の賜物です。
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── |
でも、それだけ思い続けてきたことを
実現するには
多くのご苦労があったと思うのですが‥‥。
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三井倉 |
そうですね‥‥たとえば、
工事ひとつにしても、1回では終わりません。
新宿駅の場合には
合計8回ほど切り替え工事を行っています。
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── |
そんなに。
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三井倉 |
埼京川越線の工事を行うに当たっては
新宿駅の埼京線ホームを使えなくなりますから
池袋駅で折り返しをいたします。
そのあたりの計画も、私どもで手がけます。
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── |
電車に乗ると、ときどき書いてありますね。
何月何日から何日間、
工事をしているために使えません、とか。
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三井倉 |
ええ。
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── |
その間の臨時ダイヤも、考えるわけですね。
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三井倉 |
もちろんです。
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── |
そういう細かいダイヤの調整を
新宿や池袋という巨大な駅でやるんですから、
本当に、すごい作業ですよね‥‥。
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三井倉 |
あるいはまた、
埼京線の場合、他路線と直通運転をしていないために
部署内でスジを引くことができます。
ところが、湘南新宿ラインの場合ですと、
他のダイヤとつながっております。
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── |
宇都宮線や、東海道線と。
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三井倉 |
そうです。
池袋・大崎間は、私の担当する東京支社。
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── |
ええ、ええ。
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三井倉 |
池袋から宇都宮については大宮支社。
大宮から高崎については高崎支社。
そして
大崎から小田原については横浜支社。
それぞれの線区担当と調整して
ダイヤを設定していく必要があるのです。
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── |
その4者間で調整をとりながら。
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三井倉 |
ひとつひとつのスジを、話し合いで。
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── |
時間がかかりそうですね‥‥。
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三井倉 |
実際、相当かかりました。
最終的に
湘南新宿ラインのダイヤを組むにあたっては
2年くらい時間がかかっています。
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── |
2年!
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三井倉 |
通常の計画は1年くらいですから、倍ですね。
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── |
はー‥‥。
ちなみに「混雑緩和」の目安って
何か、基準があったりするんでしょうか?
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三井倉 |
JRで目標としている数値で言いますと
朝通勤で
乗車率180パーセント台です。
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── |
180パーセント台。
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三井倉 |
多いと思われるかも知れませんが、
JRが考える標準定員、
つまり「乗車率100パーセント」とは
座席と吊り革が埋まり、
加えて
ドア付近に何名か立っている状態。
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── |
かなり、ゆとりありますね。
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三井倉 |
ええ。
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── |
じゃあ「乗車率180パーセント」というのは
数字の印象ほどには
車内は混み合っていないということですか?
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三井倉 |
肩が触れ合う程度を想定しております。
折りたたむなどすれば
新聞を読めるくらいの乗車率ですね。
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── |
さきほど「埼京線の混雑を緩和した」と
おっしゃったのは、この数値を達成した‥‥と。
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三井倉 |
はい。
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── |
数年前、東京メトロの副都心線が
開通しましたけれど
他社の動きも、輸送計画に影響してきますよね?
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三井倉 |
はい、影響を受けていますね。
副都心線の開業によって、
実際、お客さまのご利用は流れております。
具体的には、山手線から。
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── |
やはり、そうですか。
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三井倉 |
ただ、ダイヤの見直しを図るほどの流動では
なかったといえます。
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── |
あ、ダイヤの見直しはしていない?
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三井倉 |
しておりません。
あるいは
朝通勤の時間帯に、埼京川越線を
増発しなければならなかったところを、
副都心線の開業により
そうしなくてもよくなったとも
言えるかと思います。
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── |
本日、三井倉さんのお話をうかがって、
スジ屋さんのお仕事の中身が
思い描いていたものと、ぜんぜんちがうことに
ものすごく驚いています。
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三井倉 |
そうですか。
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── |
埼京線の混雑を緩和するという
明確な目標と、
それを達成しようという使命感、
そして、各方面へはたらきかける行動力‥‥。
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三井倉 |
いや、そう言われると照れてしまいますが、
それがスジ屋の仕事ですので。
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|
── |
混雑の緩和、利便性の向上、
直数サービスの拡充‥‥を達成するために、
ダイヤを改正する。
そして、そのためには
信号設備を改良する、
数年がかりで池袋駅の配線を変える‥‥など
大掛かりな工事が必要となる。
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三井倉 |
ええ。
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── |
そのこと自体はそうだよねと思うのですが、
スジ屋さんが
スジ屋さんの意見として、そういう声を上げている、
そのことが、とても意外でした。
埼京川越線の混雑を緩和するために
信号設備を改良してほしい、
池袋駅の配線を変える必要がある‥‥と
会社に対して、はたらきかけるわけですよね。
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三井倉 |
そうですね。
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── |
会社が、三井倉さんたちの声を理解し、
全社的な方針となってはじめて
ようやく、1本のスジが引けるようになる。
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三井倉 |
はい。
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── |
ようするに、スジ屋さんというのは
「スジを引く」だけではなく、
輸送計画の構想から
深く関わられているということですよね。
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三井倉 |
おっしゃるとおりです。
たとえば、配線を変更するにあたっては
線路を設置するための用地の問題、
お客さまの流動をスムーズにするための
階段の位置の問題‥‥。
ひとつのダイヤを完成させるまでには
さまざまな課題を
クリアにしていかなくてはなりません。
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── |
階段の位置まで!
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三井倉 |
お客さまの流れを阻害せず、
スムーズに乗り換えできるかどうかは
とても重要な問題ですので。
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── |
誰かの意見とぶつかることも?
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三井倉 |
当然、あります。
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── |
たとえば‥‥。
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三井倉 |
建設関係のかたのご意見など。
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── |
そうか、三井倉さんたちの構想にたいして
現実的につくれるだとか、つくれないとか。
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三井倉 |
大崎の駅は「2面4線」ですが
上り列車をどのホームに入れるか、
というところから、
話し合いは、はじまりますので。
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── |
はー‥‥。
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三井倉 |
新しいダイヤでは、こういう列車が乗り入れるし、
異常時には
こういったかたちで、ホームを使用したい。
だからこそ、こういうルートが必要なんだ‥‥と
関係各所と徹底的に詰めていきます。
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── |
車両に対するリクエストなんかも?
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三井倉 |
数年前に、山手線の通勤時間帯の電車を
幅の広いタイプに変えました。
E231系という車両なんですけれど、
この車両に変更すれば
車内面積が広くなるがために、定員が増え、
若干ではありますが
路線の混雑緩和が図れる、という提案です。
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── |
スジ屋さんというと職人的な部分ばかりが
クローズアップされがちですが、
そのベクトルは、
つねに「外に向かっている」とわかりました。
今後の目標を、聞かせてください。
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三井倉 |
今は東北縦貫線ですね。
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── |
東北縦貫線。
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三井倉 |
現在、宇都宮線は上野駅発着ですよね。
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── |
ええ。
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三井倉 |
それに対して東海道線は、東京駅発着。
そこで、
現在、通じていない上野・東京間を接続して
宇都宮線が走る東北本線を
東京まで伸ばし、
東海道線への直通運転を実現させる計画です。
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── |
またスケールの大きな任務ですね‥‥。
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三井倉 |
これによって、
宇都宮線・高崎線・常磐線という3線から
東海道線すなわち
東京・新橋・品川方面への直通運行を
実現することができます。
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── |
ははぁ。
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三井倉 |
ようするに、わかりやすく言うと
東京経由の大宮発横浜行ができると、
こういうことです。
現在は新宿経由しかないのですが。
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── |
あ、それはかなり便利そうです!
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三井倉 |
同時に、東北縦貫線の開業により
山手線や京浜東北線の混雑緩和にも
寄与するものと考えております。
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── |
一石二鳥というわけですね。
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三井倉 |
‥‥で、これを、どういうダイヤにしようかと。
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── |
取り組まれておられる、と。
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三井倉 |
東北本線・東海道線間の直通本数。
上野、東京、品川の配線‥‥概ね決まりました。
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── |
三井倉さんとしては、
東北縦貫線を
どのような路線にしたいと思っているんですか?
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三井倉 |
やはり、お客さまがご利用しやすいような体系。
多くのかたに、乗っていただける路線でしょう。
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── |
開業は?
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三井倉 |
今の予定では、2013年度です。
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── |
まもなく、ですね。
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三井倉 |
はい、いっそう気を引き締めてまいります。
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── |
いやぁ、何回も言いますけれど、
イメージしていたものと、ぜんぜんちがいました。
スジ屋さんのお仕事って、
ものすごくダイナミックなんですね‥‥。
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三井倉 |
ははは、そうですか(笑)。
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── |
ちなみに、スジ屋さんという呼び名って
正式名称なんでしょうか?
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三井倉 |
スジ屋?
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── |
ええ。
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三井倉 |
正式名称かどうかはわかりませんが‥‥
そうですね、
今もスジ屋って呼ばれますけど。
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── |
それは何と言うか、うれしいです(笑)。
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三井倉 |
ま、スジを引くんだから、スジ屋ですよね。
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── |
はい。
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三井倉 |
でも、そんな簡単には引けないんですよ、
スジというものは。 |
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<おわります>
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