── |
昨年の震災で、みなさんの船は‥‥? |
熊谷 |
流されてしまったね。 |
|
── |
そうでしたか。 |
熊谷 |
だで、また新しく、つくるのさ。
いま、造船所の数が足りてないもんだから
順番待ちしてんだけど。 |
── |
ご予定では? |
熊谷 |
ことし9月着工の、12月完成予定。 |
── |
じゃあ、またみなさんで漁に出る、と。 |
熊谷 |
ただよ、俺たち「震災前の状態」には、
戻りたくはないのさ。 |
── |
‥‥とおっしゃいますと? |
熊谷 |
だってよ、思い返してみるとさ、
津波の前は、海は痩せてしまってたしよ、
獲れたら獲れたで
価格が暴落して「大漁貧乏」になるしで
漁師はみーんな、
きゅきゅうとしてたんだもの。 |
|
── |
‥‥なるほど。 |
瀧澤 |
あの状態に戻るだけなら、「復興」ではない。 |
|
熊谷 |
それもこれも、震災直前は、貧乏ヒマなしでよ、
魚を食べる人のことなんて
ぜんぜんかまってられなかったのが原因なのさ。 |
── |
食べる人‥‥というのは
最終的な消費者のこと、でしょうか。 |
遠藤 |
ま、これまでの漁師というのは
お客さんのことを
あんまり、考えてこなかったんですよね。
獲るだけ獲って、市場に持ってくだけで。 |
|
── |
ええ。 |
熊谷 |
でもさ、津波にやられて気がついたのは、
これからは
それじゃダメなんだっつうことでさ。 |
遠藤 |
やっぱり、震災で海に出られないようになると、
お客さんのことを
どうしたって考えるようになるんです。 |
── |
それは、具体的にはどういった‥‥。 |
熊谷 |
お客さん、何がうれしいかってことさ。
たとえばよ、サンマでも何でもいいんだけどさ、
「魚がたくさん獲れました」と。 |
── |
ええ、ええ。 |
熊谷 |
今までみたいに
それをそのまんま市場に持ってくだけなら
お客にとっては珍しくもにゃあし、
俺らにしたって
値段が安くなって「大漁貧乏」になるのさ。 |
|
── |
はい、なるほど。 |
瀧澤 |
だからさ、それをよ、たとえばだけどね、
すぐ出さないで
ちょっとプールかなんかに泳がせといてさ、
日にち見てから
いつもどおりの岩手県じゃなくて
山形に出すとか、
ちょっと冒険して北海道に出しちゃうかとか、
そういう工夫をすべぇと。 |
|
── |
漁師さんたちが、魚の「流通」面に
イニシアティブを取れるようにしよう‥‥と。 |
熊谷 |
だってそうすりゃあ、お客さんもうれしいし、
俺らも値段が上がって、うれしいべ? |
遠藤 |
ただね、漁師がそこに関わり出してしまうと、
漁師じゃなくなってしまうんです。 |
── |
日々、漁があるわけですものね。 |
瀧澤 |
だで、チーム組んでやろうやと。 |
── |
チーム。 |
遠藤 |
これまで、漁師というのは
魚を獲る個人プレーヤーだったんだけれども、
魚を貯蔵しておく設備を持っていたり
インターネットの流通ルートを持っていたり、
そういう
他業種の人と組合をつくって協働するんです。 |
|
── |
それは「魚を獲って、うまく売る」集合体を
つくる‥‥ということですか? |
瀧澤 |
今、いっしょにやろうやって相談してる
八木さんのところに
CAS(キャス)って冷凍機があんのさ。 |
── |
はい、知ってます。
八木さん、というのは
インターネットで鮮魚を直売してらっしゃる
三陸とれたて市場の
八木健一郎さんのことですね。 |
瀧澤 |
そう。 |
── |
以前、取材させていただきました。
そのときに「CAS」のことも
お聞きしていて、
それはつまり、これまでの冷凍技術とはちがい
瞬時に水分を凍結させることで
冷凍による「食味の低下」を
大幅に防ぐ「すごい冷凍庫」であると。 |
熊谷 |
そうそう、だから、そのCASを使ったらよ、
まったく旬でない時期に
味の落ちてない魚を出せるのさ。 |
── |
なるほど‥‥。
「漁師さんが魚を獲る」ということ自体は
以前と変わらないけど、
「獲った魚が、お客さんと接する面」を
いろいろ、工夫していくと。 |
遠藤 |
そう、気心知れた仲間と連携してやるんです。
おんなじ考えのもとでね。 |
── |
「漁師さんが、市場とつながる」試みですね。 |
瀧澤 |
それもよ、被災してからのこの1年、
俺たち漁師が、海に出られなくてヒマだったから
考えられたことであってさ。 |
熊谷 |
被災前、きゅうきゅうとしてたころなら
「そんなの、かまってられるかい!」
って
でっかい声出して言ってしまうところよ。 |
|
瀧澤 |
そういう意味では、貴重な1年だったね。 |
── |
あの震災を経験したあとに
「貴重な1年だった」って言えることって、
なんというか、すごいと思いました。 |
瀧澤 |
‥‥漁場が深いのよ、岩手県て。 |
── |
はい、水深が。 |
瀧澤 |
だからよ、毛ガニでもホタテでもなんでも、
そのぶん「甘み」が違ってくるのさ。 |
|
熊谷 |
そうそう。 |
── |
「深い」と「甘い」んですか。 |
瀧澤 |
俺たち、水深200メーターで獲ってんだけど
海洋深層水が
「甘み」に作用してんだと思うんだ。 |
熊谷 |
カニミソの味も違うぞ。まーろやかだから。 |
── |
つまり、岩手の魚介はうまいぞと。 |
熊谷 |
おーーう! |
瀧澤 |
だから、俺たちのうんまい魚がさ、
CASだとか
インターネットだとかと組み合わさったら
最強だべ? |
遠藤 |
やはり、どこの漁師だって
「自分たちの獲る魚がいちばん美味しい」と
思ってなきゃあ、
やっていけませんのでね(笑)。 |
|
瀧澤 |
あとさ、ほんとはね、
ここで獲れた魚は、この浜で食べるのが
いちばん、うまいの。 |
── |
そうなんでしょうね。 |
熊谷 |
人には「五感」つうのがあるっちゃ、
目あって、鼻あって、何だ、肌で感じたり、
そういうのがぜんぶ、
のどをを通ったときの味になるんだな。 |
── |
ええ、ええ。 |
瀧澤 |
ならばさ、この大船渡の浜に漁師小屋つくって
俺らの漁師料理を商品にして
食べさせる店をつくったら、いいと思うのさ。 |
── |
熊谷さんたちが、
この調子で料理をしてくれたりしたら
楽しそうですね!
何より食べてみたいですし、漁師料理。 |
熊谷 |
ウニを溶いた醤油で食うイカなんか、
うんめぇんだぞー。なあ? |
|
遠藤 |
商品としても、ネットで販売したりしてね。 |
熊谷 |
どうよ、おもしろくなりそうだべ? |
── |
はい、ほんとに。 |
熊谷 |
さっき話した、俺たちの「よかった時代」な? |
── |
ええ。 |
熊谷 |
あれ、昭和60年代なんだけども、
あのころは、ほーんと楽しかったの、毎日が。 |
瀧澤 |
いろいろ、めちゃくちゃでさ(笑)。 |
熊谷 |
昼間はゴルフ、夜は漁でガバーッと獲ってさ、
3日くらい寝ないでも平気だったのさ。 |
── |
はー‥‥。 |
熊谷 |
赤字出たって一発逆転できる浜だったから、
そういう
ギャンブル的な意味でも、楽しかったのよ。 |
── |
聞くだに、スリリングな毎日です。 |
熊谷 |
でもよ、その時代が終わったあとは‥‥
行政なんかとも、なんだか揉めたりしてさ、
魚も捕れなくなったりで、
俺らの暮らしは、ずーっとダメだったの。
貧乏でせつない漁師生活、しやったのさ。 |
── |
‥‥ええ。 |
熊谷 |
それでも、どうにかこうにか生きてやったのが、
こんどの津波で、どん底まで落ったっちゃ。 |
── |
はい。 |
瀧澤 |
だから、津波から復興しよう復興しようって
どんだけ言ってもよ、
あの、おんなじところに戻るんじゃダメなの。 |
|
── |
「以前の状態」に戻るだけでは。 |
熊谷 |
でも、ほれ、さっきのCASの話から何から、
津波のあとに
みんなでいろいろ考えて、話し合いをして
やろうって決めたことにさ、
俺たち、いま、わーくわくしてんのさ。 |
── |
そうみたいですよね! |
瀧澤 |
CASで鮮度保持して、販売ルートを考えて。 |
遠藤 |
「季節をぶっ壊す」ようなことですから。 |
熊谷 |
半年後にサンマの刺身を食べられるだとかさ、
そんなの、だーれも考えたことねえっちゃ。 |
── |
それがやれるぞ、と。 |
瀧澤 |
それを、やるぞーと。 |
熊谷 |
だからよ、これから俺らがはじめることを
想像したときの、
この「わーくわく感が」よ、
むかし
めっちゃくちゃに「よかった時代」に味わった
わーくわく感に、どっか似てんの。 |
|
── |
その言葉を聞けて、
なんというか、本当によかったです。 |
熊谷 |
だろ? ‥‥これで「しまった」べ? |
── |
はい? |
瀧澤 |
しまったな。 |
── |
しまった? |
遠藤 |
つまり、取材が「うまくしまっただろ」と(笑)。 |
── |
あ‥‥取材の段取りにまで気を遣っていただき、
まことに恐縮です(笑)。 |
熊谷 |
でも、さ、漁師の仕事が厳しいってことには、
なんも変わりはねぇんだよ、実際はね。 |
|
瀧澤 |
なにしろ古い業界だからさ、
なーんか新しいことやってやろうってなると
あーだこーだと言う人もいるし、
思いどおりに
ことが運ばねぇことなんて、ざらだしね。 |
遠藤 |
悔しい思いをすることも、しょっちゅうです。 |
── |
想像するのみですが、そうなんでしょうね。 |
熊谷 |
でもさ、あんたたち今日は
漁師の魅力を聞きに来たってんだからよ。 |
── |
はい。 |
熊谷 |
ならば、そんなことは黙っとくのさ。 |
瀧澤 |
文句言い出したら、キリがねぇもの。 |
|
── |
わかりました。
じゃあ、最後にお聞きしたいんですけど
みなさんの
いちばん好きな食べものってなんですか? |
瀧澤 |
好きなもの? |
遠藤 |
そうですね、海のものでということでしたら‥‥
春は「しらす」ですかね。 |
熊谷 |
ああ、しらす、いいな。
あとは、うん、カニとか、サンマかな。 |
遠藤 |
これから6月、7月なってくると‥‥。 |
熊谷 |
何だろ、ヤリイカ、イカッコ? スルメ。 |
── |
ほー‥‥。 |
熊谷 |
おっきくなったら好きでねぇけんども、
こんのくらいのスルメなんか、いいな。 |
遠藤 |
つぶ貝も、おいしいですよ。 |
|
── |
つぶ貝。 |
瀧澤 |
ただし、300メーターのやつな。 |
── |
水深300メーターで獲れたの限定? |
瀧澤 |
そう。 |
── |
それより浅くちゃ‥‥。 |
熊谷 |
ダメ、ダメ。 |
瀧澤 |
あんたらもさ、
人と違うもの食いたければ、漁師よ? |
── |
そういう瀧澤さんがお好きなのは‥‥。 |
瀧澤 |
俺? 俺はカレーライス。 |
|
全員 |
‥‥‥‥わはははは! |
<終ります> |